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88: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:34:24.56 ID:mS71CenZ



穂乃果「ごめんなさい……」


犬は耳をコチラに向けて歩いている。
独り言が多いせいだ。


穂乃果「私ってほんと馬鹿だ。」


終わりだ。
私は言ってはいけないことを口走ってしまったんだから。

89: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:35:29.73 ID:mS71CenZ
なんて償えば……


いや、そのチャンスを貰おうとするのもおこがましいだろう。


穂乃果「これからどうしよう。」


海未ちゃん、怒って帰っちゃったかな。


そうだとすると、私たちの関係はこれで本当に終わりになるだろう。


遠くの山際には見ると入道雲が発達しかけているのが見えた。
暑さを糧にみるみる大きくなっている。


……もっと、私も成長できたらいいのに。


穂乃果「こんな私はすみっこにポツンと浮かぶ夏空の綿雲かな。」


比較し、自嘲する。


あぁ、まずい。
涙が__

90: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:36:43.75 ID:mS71CenZ
ワン!


穂乃果「うぉっ。」


犬がすごい力で引っ張ってきた。
こっちに行こう!という強い意志を感じた。


穂乃果「ついて行くからそんな引っ張らないで!」


潤んだ目を擦って犬の後を追った。

91: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:38:16.13 ID:mS71CenZ



引っ張られるほど5分。
ここ掘れワンワンと辿り着いた場所は。


穂乃果「ここは……神社かな?」


湿った空気が鼻につく。
木に覆われた空の下には階段が続いている。


苔まみれの石の鳥居をつられるように潜った後には、
すこしちいさな社が見えた。


風で空がざわざわ鳴っている。
見上げると枝葉がうごめいている。

92: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:42:38.43 ID:mS71CenZ
物音ひとつ立てては世界が壊れてしまう。
そんな気がした。


境内に入ると雰囲気は一層濃くなり、息苦しささえ覚えた。


犬はまた地面に鼻をつけ、リードを引っ張る。


穂乃果「こうなりゃ運命共同体だよ。」


おとなしくついて行くことにし、小走りで後を追う。


少し行った先の社の階段には小ぶりの老婆が腰掛けていた。


カナカナカナ…

93: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:44:22.08 ID:mS71CenZ

……
………


8月初頭~


ことり「今日も疲れた~!」


私は海外留学し、服飾の勉強をしている。
それから3回目の夏だ。


未だに服飾のことはわからないことが多いし、高校時代にわがままいって先延ばししてくれた罪滅ぼしもあり、日本に帰る暇もないくらい熱心にやっているつもりだ。


そろそろコンテストがある。
イメージも大体できているし、先生にもokをもらっている。

94: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:46:29.98 ID:mS71CenZ
今のところ順調。ではあるけど、やっぱり心残りはある。


『私たちずっと友達だよ!』


あの交わした約束が、頭をかすめる。
あの約束は守れているだろうか。


でも、決めたことなんだ。
私がこの道を選んだんだから。
みんなが背中を押してくれた道なんだから。


中途半端に帰ってきてもそれこそ穂乃果ちゃんたちに笑われちゃう。


ことり「あれ?」


携帯を覗くと海未ちゃんからメールが届いていた。

95: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:47:29.13 ID:mS71CenZ
海未:ことり。お久しぶりです。そちらの調子はいかがですか?


ことり:まぁまぁだよ。どうしたの?


海未ちゃんから話しかけてくるだなんて珍しい。


ピロン


ことり「えぇ!早い!」


どうしちゃったんだろ海未ちゃん。

96: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:48:38.17 ID:mS71CenZ
海未:そうですか。よかったです。


ことり:なにか用だったんじゃないの?


少し間があって


海未:日本に帰ってくることはできますか?

 
ことり:ちょっとこっちの方が忙しくて…ごめんね。


海未:いえ!それなら仕方ないです。


ことり:海未ちゃんも部活で忙しいんじゃないの?


海未:いえ、実は…

97: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:49:31.39 ID:mS71CenZ



ことり:お盆あたりは予定が埋まっちゃってて……ほんとごめん。


海未:いえ、大丈夫ですよ。私も少しスッキリしましたし。話を聞いてくれてありがとうございました。


ことり:そんなの全然大丈夫だよ!


それからは他愛もない話をした。





ベッドに入って考える。

98: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:50:24.73 ID:mS71CenZ
海未ちゃんも大変なんだなぁ。
少し心配だけど、海未ちゃんなら乗り越えるだろう。


強い子であるのは私が知ってる。


あと、穂乃果ちゃんは今頃どんな風に過ごしているんだろう。
それもすごく気になる。


それにしても、


ことり「楽しかったな。」


久々に話すと、思い出が芋づる式に出てきて眠れなくなってしまう。
私は会って話したくなってしまった。


ことり「いけないいけない。みんな頑張ってるんだし、コンテストに向かって頑張ろう!」


私は記憶を振り解き、睡眠に集中した。

99: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:53:04.89 ID:mS71CenZ

……
………


昨日、海未ちゃんからこんなメールが来た。


海未:明日穂乃果と会ってきます。無理を承知で言うのですが、ことりも来ることはできませんか。


行きたい気持ちは山々だった。
前のこともあってか、高校の頃が夢に出てくるくらいだ。


ことり:行きたい気持ちはもちろんあるけど、やっぱり無理だよ。ごめんね。


そう答えるしかなかった。
海未ちゃんはまた無理を言ってすみません。
と言ったきり返信は来なくなった。

100: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:54:18.47 ID:mS71CenZ
この後も予定があり、行かなきゃいけない。


ことり「行きたいなぁ……」


いやいや。


ことり「でもこれは、私が選んだ道だから。」


そうだ。
これは私が決めた道。


それにしても……
海未ちゃんと穂乃果ちゃんが何年かぶりに会うのか。


そこにいることができない寂しさもあるけど……


友人が久しぶりに会う。
これだけの事なのに、


この胸騒ぎはなんだろう。

101: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:55:33.51 ID:mS71CenZ



ことり「ど、どうですか…」


先生「う~ん、良いんだけどね。こうビビッとこないかな。」


ことり「そうですか……」


と、返された服のイメージ図に目を落とす。
このところ良い反応が返ってこない。
焦りが脳を支配する。


ことり「あの、どこかダメなところを教えてください。」


先生「技術的なところは全く問題ないよ。ただこう、迷いっていうものを感じるな。」

102: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:57:08.31 ID:mS71CenZ
ことり「迷い……?」


先生「思い当たるところがあるって顔だね。」


ことり「い、いえ!ちゃんと集中__」


先生「良かったら、話聞くよ?」


ことり「いや、ほんと個人的なことなので!」


先生「話したくないなら強制しないよ。ただ……力になりたいんだ。日本から離れて新しいことをするって並大抵の精神力じゃないとできないから。」


先生「今までよく頑張ってくれてるけど、心配だったんだ。君、突っ走りすぎ。」

103: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 22:59:11.74 ID:mS71CenZ
先生「日本に一度帰った方がいい。悩みも、そのことだろう?」


ことり「なんでそれを……いや、今日も予定があるじゃないですか!」


先生が知り合いのデザイナーを呼んで一緒にご飯を食べることになっている。


その思いを無下にすることはできない。


先生「いや、こちらからキャンセルを頼むよ。」


ことり「そんな!それじゃ先生の面目が。」

104: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 23:00:24.54 ID:mS71CenZ
先生「生意気なこと心配するね。そんなことは気にすることじゃないよ。」


口角を上げ、肘で腕を突かれる。
何とも様になる人だ。


先生「……それにほら、このリボン。ファーストライブのものじゃないかい?」


ことり「それは……」


先生「最近になって新しく追加されてたね、これが気になって調べてみたんだよ。」


先生はパソコンの画面を私に見せる。
私たち3人のファーストライブが映っていた。

105: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 23:02:40.72 ID:mS71CenZ
先生「きっと彼女らとは特別な関係なんだろう。今まで拘束していた罪滅ぼしじゃないけど、会ってきなさい。」


ことり「でも、コンテストも近いから……」


先生「私が何とかギリギリまで粘ってみるよ。だからほら、行ってきなさい。」


それでも渋る私に先生は困ったなぁという感じで言う。


先生「自分が選んだ決断に責任を持つことも悪くないけどね、少しは自分の気持ちに素直にならなきゃ、潰れちゃうよ?」


先生「それに、チャンスの神様には前髪しかない。でしょ?」


先生はそう言ってウィンクしてみせた。
やはりこの人には敵わない。


ことり「……はい!ありがとうございます!」

106: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/08(月) 23:04:06.67 ID:mS71CenZ



荷物をまとめて外に出る。
ふと空を見上げてみた。


ことり「この青空の先に、2人はいるんだよね。」


視線の先には入道雲。
2人と見ればどんな違いがあるか今から楽しみだ。


私は少し小走りになりながら歩みを進めた。

114: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 22:54:32.49 ID:8wDhq5UN
カナカナカナ……


穂乃果「こんにちは。あ、こら、すみません!」


犬が老婆の膝に前足をかけ、尻尾をしきりに振っている。


言った後に気付く。
ひぐらしが鳴いている。


もうこんな時間になってたのか。
こんにちはで挨拶は合ってたかな。


老婆「こんにちは。お構いなく。」


隣にお座りと催促されたので、同様に腰掛けた。

115: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 22:55:11.70 ID:8wDhq5UN
穂乃果「どこかでお会いしましたっけ。」


自分でもわからないけど、
そう尋ね失礼だったかと焦り始めた。


穂乃果「い、いきなりすみません!」


老婆「いえいえ。」


行っておばあちゃんは黙ってしまったので、私も口を開けなくなってしまった。


一度こうなってしまうと、沈黙は止まらない。
犬もすっかりお座りをしている。

116: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 22:56:05.26 ID:8wDhq5UN
見上げると相変わらず空が鳴っていた。
地上へと風を送ってくれない。


それからしばらく沈黙が続いたが、おばあちゃんがこの空気を割いた。


老婆「若いって良いよねぇ。いろんなことが新鮮に思えるでしょう。」


穂乃果「ん、ん~そうですね。」


老婆「歯切れが悪いね。」


そう言って悪戯に笑う。

117: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 22:57:27.31 ID:8wDhq5UN
穂乃果「大したことじゃないんですけどね。なんて言うか、私には今目指す目標がないのでそんな若いすばらしさがあんまり分からないと言うか。」


老婆「目標って夢みたいなことかい?」


穂乃果「はい、そうですね。高校までは部活に受験にた目標があったんですけど、今はなかなか見つけられなくて。」


老婆「うんうん。」


穂乃果「今何かを頑張っている人を見ると私も頑張らなきゃと焦ってしまうんです。」


いくら言葉で取り繕おうが無駄だ。
原理はただの嫉妬なんだから。

118: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 22:57:56.78 ID:8wDhq5UN
老婆「私は焦らないでいいと思うけどねぇ。まぁ、話してみな。」


そんな感情をぶつけられてもお婆ちゃんは優しく耳を傾けてくれている。


穂乃果「それなのに行動に起こせない、そんな自分が嫌でっ……!悔しくてっ……」


気付けば頬が濡れていた。
思い出すのはさっきの光景だ。


老婆「……昔はその夢とやらをどうやって見つけていたんだい?」


穂乃果「……え?」

119: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:00:09.59 ID:8wDhq5UN
そういえば、とにかくあの時は廃校を阻止するとこで精一杯で……


老婆「とにかく今できることを精一杯にやってたんじゃないかい?」


老婆「決して他の人生と比べて見つけ出したわけじゃなかったはずだよ。」


穂乃果「そ、それはそうですけど、目標とかがないとやっぱ生きるうえでダメなんじゃ。」


老婆「ダメ……とな?」


穂乃果「生きる活力というか何というか…身体の底から湧いてくる力っていうのが今は無いんです。」

120: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:00:55.52 ID:8wDhq5UN
穂乃果「だから…これがないとこの先上手くいかないのかなって。」


そう言うとおばあちゃんは笑う。


老婆「それが全てじゃあないさ。」


老婆「夢はいわゆる指針さ。それによって今後の人生の行動が大まかに決まってしまう。」


穂乃果「でも!私の友達とかは目標を持って成長して……」


老婆「それは日々過ごしている中で覚悟を持って挑戦したいと思ったことなんじゃないかい?」

121: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:02:05.97 ID:8wDhq5UN
老婆「少なくとも、闇雲に見つけたものじゃないはずだよ。」


老婆「まだ若いのに、焦って決めた指針なんか続かないだろうし、この先の人生が凝り固まってしまう。」


老婆「とにかく今は目の前のことを精一杯する。これが大事だと思うけどねぇ。」


穂乃果「で、でも。」


お婆ちゃんは納得しない私をみて微笑み、続ける。


老婆「それに、夢は必ずしも良い結果になるわけではないんだ。」

122: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:02:48.73 ID:8wDhq5UN
穂乃果「でも、私はスクールアイドルを通じて……っ!」


『私、スクールアイドル…辞めます。』
そうだ。あの時も。


海未ちゃん。ことりちゃん。
μ'sのみんなはあの時__


なのに私は……!


老婆「今できることを精一杯頑張って、振り返った時に、あのおかげで頑張れたって思えるのが夢なんじゃないかねぇ。」


老婆「そしてそれを糧にまた頑張る。そういうことじゃないかと思うんだが、どうかい?」

123: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:03:47.71 ID:8wDhq5UN
穂乃果「………」


今思えば、『あの時あれがあったからここまで頑張れた』って言うことはできるけど、その当時は色々必死だったかも知れない。


老婆「夢、とか目標、とかは後から行動の理由になる。」


老婆「焦らなくて良い。今を精一杯生きている者が、かっこいい人だと私は思うね。」


そんなに焦らなくても、


夏は__また来るから。


そう言ってお婆ちゃんはニコッと笑った。

124: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:04:50.89 ID:8wDhq5UN
穂乃果「すみません。私行かなきゃです!」


老婆「ほう。どこへ?」


穂乃果「今を頑張ってる、かっこいい人のところへ!」


私はお婆ちゃんに深くお礼を言い、名残惜しそうな犬を連れて走り出した。

125: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:21:05.91 ID:8wDhq5UN

……
………


走って去る穂乃果を、私は追いかけられませんでした。
きっかけは私なのですから。


海未「動揺させてしまいましたね……」


ため息を拾うものはおらず、秒針の音が響く。


そうだ、穂乃果が出て何分経っただろうか。
心配になってきた。


海未「いや、なんて引き止めれば。」

126: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:21:39.21 ID:8wDhq5UN
立ちあがろうと腰を浮かせたところで力を失う。


そもそも、急に会ったらびっくりする方が普通だ。


選択を間違えたか。
来ないほうがよかったか。


迷いはこの場から動かず帰りを待つという答えを出した。


そうテーブルに目を伏せているとインターホンが鳴った。


海未「穂乃果……?」


いや、それならインターホンは鳴らさないはず。

128: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:22:35.23 ID:8wDhq5UN
神妙な面持ちでドアを開けた。


ことり「ようやく着いたよ……久しぶり、海未ちゃん!」


息を荒げている。急いできたのだろう。


海未「え!?こ、ことり!?」


ことりはこの反応になるのは想定内のようで、


ことり「ごめんね。急いでたから連絡もできなくて。」


とだけ告げた。
少し焦っている様子だ。

129: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:23:26.19 ID:8wDhq5UN
海未「あ、いや大丈夫ですけど……」


ことりは首を傾げ私の肩越しに玄関の奥を見渡す。


ことり「あぁ、遅かったかな……」


ことり「穂乃果ちゃん。どこかいっちゃった?」


海未「あ、そうなんです。私のせいで……やっぱり会わなかった方が。」


ことり「穂乃果ちゃんはいつ出てったの?」


間髪入れずにことりは聞いてきた。
少し気圧される。

130: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:25:30.11 ID:8wDhq5UN
海未「い、犬の散歩に行くと30分前くらいでしょうか。」


ことり「まだ遠くに行ってない……探そう。行くよ海未ちゃん。」


ことりが私の手を握り、走り出そうと踵を返した。


海未「いや、でもなんと呼び止めれば……」


でも、私はついていけない。
ことりの右手を両手で掴み、重心を後ろに移動させる。


ことり「海未ちゃん。」


そう言って振り返り、私を見つめる。
ことりの目は琥珀色に透き通っていた。

131: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:26:07.97 ID:8wDhq5UN
ことり「海未ちゃんは、何がしたくてここに来たの?」


皮肉ではない。
ことりは純粋に問いかけている。


私は……でも、穂乃果は。


海未「ですが穂乃果はやっぱり……」


ことり「違う。海未ちゃんの気持ちを聞かせて。」


海未「わ、私の気持ち……」

132: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:26:50.30 ID:8wDhq5UN
『視野が狭い』
『皆の期待こたえなくては』


内から出てくるのは他人や客観的な言葉だ。
それでも流れてくる感情の中に一つだけ見つけた。


そうだ。私は。





海未「私は、穂乃果と会って話がしたい……!それだけです。」

133: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:27:33.19 ID:8wDhq5UN
ことり「そうなんだね。」


そう言ってことりは笑い、


ことり「色々あると思うけど、一度自分の気持ちに素直になるのも大切だよ。」


ことり「何をやりたいか、何のためにやってるのか。それが原動力になるんじゃないかな。」


つられて私も笑う。


こんな簡単なことに気付かなかったなんて。


少し上を向き息を吐き出す。
目には夏の入道雲が見えた。

134: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:28:16.81 ID:8wDhq5UN
海未「ことり……あなたには助けられてばっかりです。」


ことり「そんなの、私だって。」


ことり「誰かが止まると誰かが引っ張る。それが私たちでしょ?」


海未「えぇ…!」


ことり「それでこそ海未ちゃんだよ!」


さぁ行こうと手を引くことり。

135: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/09(火) 23:29:12.99 ID:8wDhq5UN
海未「変わりましたね。あなたも。」


ことり「私は何も変わってないよ。海未ちゃんだってそうでしょ?」


それはきっと……


海未「えぇ、穂乃果もですね!」


私はことりの手を強く握り返し、並んで走り始めた。

140: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:18:18.83 ID:4PSzc5ZU

……
………


ミ-ンミンミンミ-……


穂乃果「暑……もう夕方かと思ってたのに。」


社を後にし、鳥居をくぐる。
無我夢中で走っているといつもの土手に戻ってきていた。


陽は少し傾いた程度で、まだまだ勢いがある。


不思議と流れる汗が嫌じゃない。
遠くの森の木々が揺れ風が通る。


夏髪が頬を切った。


来た道を振り返ると、
灰色の石の鳥居が見えた。

141: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:19:01.72 ID:4PSzc5ZU
穂乃果「ありがとう。」


そう言って笑い、上を向く。
一つ深呼吸をしてみた。


夏の匂いが心地よい。


目を開けると青空が映る。
遠くの山陰を見ると雲が見えた。


そして、懐かしい声が聞こえる。
きっとあれは……


穂乃果「ってうわぁ!ことりちゃんもきてたんだね。」


尻もちをつきそうなくらい勢いよく抱きつかれた。


驚いた。3人が集合するなんて。

142: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:20:01.80 ID:4PSzc5ZU
ことり「穂乃果ちゃん!久しぶり……!」


ことりちゃんは目に涙を浮かべて言う。
言葉と共に抱きしめる力が強くなった。


負けないくらい私も強く抱きしめる。


穂乃果「うん。久しぶりだね、ことりちゃん。」


ことりちゃんの肩から後ろを見渡し、海未ちゃんを発見する。


さっきのこともあって少し気まずそうにはしていたが、憑き物が取れたようなスッキリとした顔に見えた。

143: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:20:35.07 ID:4PSzc5ZU
穂乃果「海未ちゃん。なにか変わった?」


海未「いえ、何も変わってはいませんよ。」


海未「ただ……」


穂乃果「ただ?」


海未「自分の気持ちに素直になれた。それだけです。」


穂乃果「海未ちゃん……!」


海未「穂乃果こそ、雰囲気が違いますが。」


穂乃果「まぁ、色々あってね。」

144: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:22:04.00 ID:4PSzc5ZU
その話はまた後でするとして。


穂乃果「海未ちゃん。さっきは本当にごめんなさい。」


海未「あ、いえ、私も変に意識してしまってました。すみません。」


穂乃果「卑屈になって、海未ちゃんを傷つけちゃって……」


穂乃果「でもね、私も素直になれたよ。」


穂乃果「昔から変わらずみんなのことが好きって気付いたんだ……」


穂乃果「こんな簡単なことに気付くのに時間が経っちゃった。」

145: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:22:32.22 ID:4PSzc5ZU
海未「えぇ、私も。」


ことり「そうだよ!いくら離れてても気持ちは変わらないんだから!」


ことりちゃんが2人の間に入り抱きよせる。


海未「あぁことり、痛いですよ。」


穂乃果「そんなこと言って満更でもなさそうだよ。」


ことり「2人ともかわいいっ!」


ひとしきり抱き合った後、3人で顔を見合わせる。

146: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:24:27.92 ID:4PSzc5ZU
穂乃果「そうだ私、夢を見つけたよ!」


これは、漠然と人生が最終的にこうなってほしいっていう、願いだ。


穂乃果「この3人とまた、ここで会う。って夢なんだ。」


海未「穂乃果……」


ことり「穂乃果ちゃん…!」


いつ実現しようが問題ない。


距離は離れていても、想う強さは変わらない。
今を精一杯生きれば、きっとまた会える。


今日のように。

147: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:24:58.95 ID:4PSzc5ZU
穂乃果「ねぇ、みんなのこれまでのこと、もっと詳しく聞かせてくれない?」


ことり「もちろん!穂乃果ちゃんのもねっ!」


穂乃果「うん。私の2年間もね。」





穂乃果「2人とも、一緒に帰ろう!」


2人は大きく頷き、並んで歩き始めた。

148: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:25:37.20 ID:4PSzc5ZU
1人は嬉し涙を流しながら
1人は優しい微笑みで
1人は屈託のない笑顔で____





3人の上の夏空には、大きな入道雲ができていた。
きっとこの夏は、死ぬまで忘れないだろう。


ミ-ンミンミンミ-……

149: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/08/10(水) 23:26:57.01 ID:4PSzc5ZU
終わり

139: 名無しで叶える物語(茸) 2022/08/10(水) 15:17:03.25 ID:dPUklV6n
誰かが立ち止まれば誰かが引っ張る、良い言葉だね

152: 名無しで叶える物語(かつお) 2022/08/11(木) 02:55:25.33 ID:VWhN1uQD
やっぱりことほのうみなんだよチュンなあ

引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1659706283/
you fooder
おもしろかった!