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326: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:00:09.56 ID:3X/QNNx9
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜生徒会〜

菜々「では、この議題については以上となります。何か質問や確認したい事はありますか?」

副会長「私は特にはありません」

菜々「分かりました。他は──」


ザザッ

かすみ『あーあー、テステス』

かすみ『みなさーん! 楽しい放課後をお過ごしですか〜!?』

かすみ『ナンバーワンスクールアイドルのぉ、かすみんで〜す!』


菜々「!?」

「え? なになに?」

副会長「校内放送?」


かすみ『突然のお知らせですが──本日この後! かすみんの先輩である上原歩夢先輩のソロライブを開催しまーす!』

かすみ『場所は部室棟屋上でーす! 時間はぁ──』


菜々「え? え!?」

菜々(きょ、今日なんですか!? 歩夢さんのライブ!?)

ガタッ

菜々「あ、えっと! 皆さんごめんなさい! 本日の会議は終了で! 何か追記で確認したい事ある場合にはメッセージ送ってください!」

スタスタ

副会長「か、会長?」

「なんか急いでましたね、中川会長」

「ですね〜。てか上原先輩のライブだってさ! 見に行ってみる?」

「暇だし行ってみようか〜」




327: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:12:51.50 ID:3X/QNNx9
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ ガラガラ

かすみ「歩夢先輩、今日のライブの告知終わったよ」

歩夢「うんっ。放送聞いてたよ。ありがとうねかすみちゃん」

かすみ「それは全然構わないんですけど……」

しずく「いやぁ、まさか当日告知でライブするとは思わなかったよ」

しずく「色々準備はしてたけどさ」

歩夢「事前に告知しちゃうと、何かトラブルが起きるかもしれないでしょ?」

かすみ「まぁ」

しずく「カタギになったとは言えまだ油断出来ないもんね〜」

かすみ「だからカタギって言い方……」

歩夢(──菜々ちゃん、見に来てくれるかな?)

しずく「あと、まぁ歩夢先輩なら大丈夫でしょ」

かすみ「え? なにが?」

歩夢「?」

しずく「今日のライブ、絶対成功するよ。今日に向けて色々準備、頑張ってたもん」

しずく「この新しく歩夢さんが作った曲、良い歌だし」ニコッ

歩夢「しずくちゃん……!」

かすみ「……」

かすみ「歩夢先輩」

歩夢「?」

かすみ「……その……」

かすみ「て、適当なライブしたら許しませんからね! やるからには必ず成功させて下さい!」プイッ

しずく「照れてますなぁかすみ〜」ニヤニヤ

かすみ「照れてないッ!!////」

歩夢「かすみちゃんも……!」

歩夢「ありがとう! 2人とも!」

歩夢「私、頑張ってくるから!」

しずく「うん! 音響サポートとかは任せてね〜」

かすみ「……行ってらっしゃいです」

歩夢「うんっ──行ってきます!」ニコッ

329: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:20:26.26 ID:3X/QNNx9
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

愛「ちょ、ちょっと! エマさん! どうしたんですかそんなに急いで!」

エマ「……さっきの校内放送、聞いたでしょ?」

愛「上原のライブのやつですよね? まさか……み、見に行くんですか!?」

エマ「うん」

愛「え、えぇ……」

スタスタ

愛「あっ、ちょっと! 置いて行かないでくださいよ!」

愛「……ちっ、久しぶりに学校に来たら、あいつのライブがあるとかタイミング悪すぎだろ……!」

愛「──って! エマさん! 待って下さいよ!」

タッタッタッタ

331: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:27:51.81 ID:3X/QNNx9
彼方「…………」カキカキカキカキ


ピローン


彼方「ん?」


──────────

ラブリーしずくちゃん:かな姉ー!

ラブリーしずくちゃん:今日歩夢さんのソロライブあるんだよ〜

ラブリーしずくちゃん:虹ヶ咲学園の生徒専用動画サイトで生中継もするから観てあげてちょ!

ラブリーしずくちゃん:今URL貼るね!

──────────


彼方(あー、今日ソロライブやるんだ歩夢ちゃん)

彼方(ライブ告知は当日行うって前言ってたもんね)

彼方(直接応援できなくて、ちょっと申し訳ないなぁ……)

彼方「……勉強のキリもいいし観てみよ」

彼方「ブレード、どこあったっけなぁ」

332: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:33:33.37 ID:3X/QNNx9
璃奈「ふわぁぁぁ……ねっむ」

璃奈「情報処理学科なのに、なんで現代文の勉強とかしなきゃいけないの? 納得いかないんだけど」

璃奈「はぁ……開発だけしてたい……理系の勉強だけしてたい……」

璃奈「文系滅べ」


ワイワイ、ガヤガヤ


璃奈「ん?」

璃奈(なんか部室棟前が騒がしいなぁ……うるさ)

璃奈「……そー言えばなんか誰かがライブやるってさっき校内放送あったっけ」

璃奈「………………」

璃奈「たまには暇つぶし……しよーかな」

スタスタ

333: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:39:07.33 ID:3X/QNNx9
果林「………………」

果林「うぅ……!」

果林「3201の教室ってどこにあるのー!?」

果林「うぅ……補習あるのにぃ……」シクシク

果林「ここどこだよぉ……」

果林(この学校! 広すぎるのよぉ!)

果林「まぁ! そこがいいとこなんだけどね!」

果林「……でもこれじゃ間に合わないよー!!」

果林「どうしよー!!」


ワイワイ、ガヤガヤ


果林「ん?」

果林「なんかめっちゃ人集まってる!」

果林(はっ! そーだ! あそこにいる人達に教室まで案内してもらお! わたしかしこい!)

果林「思ったなら即実行が朝香果林の格言! 早速取り掛かろー!」

果林「すみませーん!」ニコッ

スタスタ

335: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:55:50.71 ID:3X/QNNx9
部室棟の屋上には直接入れなかった。部室棟入口前は屋上がよく見えるので、そこを観客席にするのでしょうか。

──もうすぐライブが始まってしまう。急がないと!

菜々(歩夢さん、急過ぎますよ!)

スタスタ

菜々「!?」

菜々(ひと、多いですね……)


予測的中。部室棟入口前に人が沢山集まっていた。
ただ、観客席というものではない。適当に人が集まって、自然とそこが観客席として機能し始めた成り行きのものでした。

本当に、急遽のソロライブなんですね。歩夢さん。

とりあえず私もその人の集まりに混ざる。辺りはザワついている。

校内で有名な不良、上原歩夢さんの初ライブ。いや、元不良と例えた方がいいですね。今の歩夢さんを不良と呼ぶのは、とても失礼な気がします。
皆さんも歩夢さんのライブに興味津々みたいです。


菜々「……」

菜々「あっ!」


スタスタ、スタスタ


歩夢「…………」


部室棟屋上をステージにして、歩夢さんが現れる。
周りの人達がもっとザワつき始める。

──少しうるさいくらいと思うくらい。

しかし、歩夢さんはそのうるさい観客席とは真逆で、とても静かだった。

お祈りをするかのように、目を瞑り、手を組む。静かに、深呼吸をしている。
ピンクを基調としたライブ衣装に身を包ませた歩夢さんは、とても可愛らしかった。

336: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 04:59:30.06 ID:3X/QNNx9
歩夢「──皆さん」

歩夢「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」ニコッ

歩夢「……余計な事は言いません」

歩夢「今はただ」

歩夢「私の歌を聞いて下さい」ニコッ

歩夢「──」スゥゥゥゥ


歩夢さんが話し始めた瞬間、辺りは静まり返った。

そして歩夢さんは──世界を変えた。

337: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:06:31.25 ID:3X/QNNx9
歩夢「今は小さな」

歩夢「小さな 蕾だけど」

歩夢「いつの日にか きっと」

歩夢「咲かせましょう」



歩夢「大輪の花─────────!!」

338: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:07:14.48 ID:3X/QNNx9
【開花宣言】

339: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:20:04.58 ID:3X/QNNx9
菜々「」


言葉が出なかった。息を吸う事も忘れていたかもしれません。

歩夢さんが歌い始めると、世界が変わった。

私の周りにいた人達はいなくなり、歩夢さんしか見えなくなった。
辺り一面には桜の木と、その花びらが舞う。綺麗な蕾も囲まれており、歩夢さんの歌に呼応するかのように、少しずつ咲き始める。


──今は小さな 小さな蕾だけど──

──あなたがくれた愛を 育んで──

──力いっぱい 空に伸びてゆくんだ──

──いつの日にか きっと──

──咲かせましょう──

──大輪の花──



菜々「──す、すごい……!」


胸の高まりが治まらない。

これは、何ですか?

ドクンドクンと、胸がドキドキする。笑顔で歌う歩夢さんが目に焼き付く。耳が心地いい。手汗が止まらない。心臓の鼓動が治まらない。

これは、何ですか? 言葉に出来ない感情。

ただ、自然と思い浮かんだ言葉は──

──大好き。

それだけでした。

340: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:26:01.31 ID:3X/QNNx9
歩夢さんが歌い終わると、周りからは歓声が上がった。
想像以上に良い、かわいい、本当にあの上原歩夢なのか。等々、皆さん各々感想を語る。ライブ前よりもザワついてました。


菜々「……!」ドキ、ドキ


私は、何も言えなかった。

ただ、ただ──胸に手を当てながら立ち尽くしてました。

これが──スクールアイドル……!!


──この瞬間、私の人生が変わったのでした。

341: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:31:22.82 ID:3X/QNNx9
愛「………………」

エマ「……ごい」

愛「え……?」

エマ「すごい……!」

愛「……」

愛「っ、……ッ!////」

「わ、わかる!! 凄かったよね!?」

エマ「え?」

果林「わたしも! たまたま見てたんだけど!」

果林「ほんとーに凄かった!! 感動しちゃったぁ!」

果林「はぁ……かえーしきゃのー!」ニコニコ

果林「あなたも感動したよね!?」ギュッ!!

エマ「ふぇ!?」ビクッ!

愛「──!! おい! お前エマさんになに──」

果林「あなたも感動したよね!?」

愛「え?」

果林「これが……スクールアイドル!」

果林「すごきゃ〜!!」キラキラ キャッキャ

愛「……っ……////」

エマ「…………」

342: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:48:49.03 ID:3X/QNNx9
璃奈「いやぁ……歌って良いもんなんだね」

エマ「!?」ビクッ!

愛「!?」ビクッ!

果林「ん〜?」

璃奈「たまたま、なんとなく見ただけなんだけど」

璃奈「端的に言うと、すっごい感動しちゃったね」

璃奈「歌には精神的疲労回復、癒し効果などのヒーリング機能もあるって学術的に証明されてるんだよね」

璃奈「これは良いモノが見れたよ」

璃奈「うん……上原歩夢さん」

璃奈「すき」グッ

愛(な、何だこのチビ……)

果林「わかるわかる! すごかったよね、上原歩夢ちゃん! わたしもすき!」

璃奈「話がわかるおねーさんだね」

果林「──よし! 決めた!」

エマ「え?」

果林「わたしもスクールアイドルになる!」

愛「!?」

果林「──ってぇ!! 私そういえば補習だったんだぁ!!」

果林「ね、ねぇ! あなた3201の教室まで案内してくれない!?」

エマ「え? わ、私が……?」

果林「うん!」ニコニコ

エマ「別にいいけど……」

愛「え!?」

果林「ほんと!? やったら〜! どーもよい!」

果林「あなた、お名前なに!?」

エマ「え、エマ・ヴェルデ……」

果林「エマね! わたしは朝香果林! よろしくねエマ!」ニコッ

エマ「──う、うん! よろしくね果林ちゃん!」ニッコリ

愛「………………」

愛「……上原……」

愛「っっ……」

344: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 05:56:26.87 ID:3X/QNNx9
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜数日後〜

ライブは無事、成功に終わった。
反響も良く、校内で色々な子に声を掛けられることが増えた。


歩夢「はい、できたよ」

「わぁ……!! ありがとうございます! 歩夢さん!」

歩夢「いーえ」ニコッ


サインも求められることが増えた。私のサインなんて、そんなに価値があるようには思えないんだけどなぁ……。
でも、とっても嬉しい。

スタスタ

菜々「歩夢さん、こんにちは」

歩夢「あっ! 菜々ちゃん!」

歩夢「こんにちは」ニコッ

菜々「はい」ニコッ

歩夢「どーしたの?」

菜々「歩夢さん」

菜々「今日の放課後……お時間頂けますか?」

歩夢「放課後? うん、別に大丈夫だよ。何かあるの?」

菜々「……講堂に来て頂きたいんです。歩夢さん一人で」

歩夢「え? 私一人で?」

菜々「はい」

菜々「お待ちしております」ニッコリ

歩夢「わ、分かった」

菜々「ありがとうございます! それでは……」

スタスタ

歩夢「……?」

歩夢「菜々ちゃん……どうしたんだろ?」

345: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:05:15.04 ID:3X/QNNx9
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

放課後、私は菜々ちゃんとの約束通り講堂に一人でやって来た。

中に入るけれど……。

歩夢(え? く、暗い……)

歩夢「菜々ちゃん? 菜々ちゃーん?」


菜々「歩夢さん、ここです」


菜々ちゃんの声が聞こえると同時に、講堂の中心部にライトがつく。
そこには菜々ちゃんがいた。


歩夢「え?」

菜々「歩夢さん。あなたに見てほしいものがあるんです」

菜々「見やすい席におかけ下さい」ニコッ

歩夢「う、うん」スタッ

菜々「……歩夢さん」

歩夢「?」

菜々「──後で謝罪させてください」

歩夢「な、なにを?」キョトン

菜々「そして、見てて下さい。聞いて下さい」

菜々「私の──大好きを!」ニコッ

歩夢「──え?」

346: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:06:58.50 ID:3X/QNNx9
菜々「走り出した!」

菜々「思いは強くするよ」

菜々「悩んだら」

菜々「君の手を握ろう──────」

347: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:07:59.63 ID:3X/QNNx9
【CHASE!】

348: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:15:05.83 ID:3X/QNNx9
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢さんのライブを見た後、私はありとあらゆる時間を使ってスクールアイドルについて調べました。

スクールアイドルに興味がない? 私は──なんて損な人生を歩んでいたんだろうか。

あんなに胸がドキドキするものを、知らなかっただなんて……。

今の思いは、一つしかなかった。スクールアイドルになりたい。

歩夢さん。お誘い断ってしまってごめんなさい。

私、スクールアイドルになりたいです。
その為に、大好きを詰め込んで──歌も作ってきました。


菜々「足を踏み出す 最初は怖いかも」

菜々「でも 進みたい」

菜々「その心があれば」



歩夢「」


歩夢さんの表情は、見えない。いや、見ている余裕がない。
動きながら歌うのは、なんて難しいんでしょう。音も少し外してしまう所がある。この前の歩夢さんのライブの凄さがわかる。

──でも、楽しい……!!

349: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:17:47.75 ID:3X/QNNx9
菜々「なりたい自分を」

菜々「我慢しないでいいよ」

菜々「夢はいつか」

菜々「ほら」

菜々「輝き出すんだ──────!!」

350: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:22:49.13 ID:3X/QNNx9
菜々「はぁ、はぁ、はぁ……!」


歌い終わり、息が上がる。自分の全力を、出し切ったからか……とても、疲れました。
ただ、疲れて座るのは今度。今はこの思いを私の憧れの人に伝えなければ……!
そう思い、私は歩夢さんに声をかける。けど──


菜々「歩夢さん! 私もスク──」



菜々「──え?」


歩夢「ひっぐ……! っ……ひぐ……!!」


菜々「あ、歩夢……さん……?」


歩夢さんは──泣いていた。

351: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:32:27.25 ID:3X/QNNx9
菜々「……あ、歩夢さん?」


顔を両手で覆い隠し、歩夢さんは肩を揺らしながら泣いている。

まるでひとりぼっちになってしまった、迷子の女の子のように泣いていた。

ち、違う。私は──歩夢さんに泣いて欲しかったんじゃ……!!

私は歩夢さんの元まですぐに走り、駆け寄る。


菜々「あ、歩夢さん! ごめんなさい! 私、スクールアイドル断ったのにこんな」

歩夢「違う……違うの……っ……!!」

歩夢「違うのぉ……!!」

菜々「あ、歩夢さん……」

歩夢「……私……私……!!」

歩夢「もう……せつ菜ちゃんに……会えないと思ってたのに……!」

歩夢「ひっぐ……! ぁぅ……!!」

歩夢「本当に……泣いちゃって……」

歩夢「ごめんなさい……!!」ポロポロ

菜々「歩夢さん……」


せつ菜に……会えない?

なんでそんなに、泣いてるの……?

疑問しか思い浮かばない。──でも、今はそんなのどうでもいい。

352: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:38:33.01 ID:3X/QNNx9
菜々「歩夢さん」


ギュッ


歩夢「!!」

菜々「我慢しなくて……いいです」

菜々「誰だって……泣きたい時はあります。理由は勿論気になりますけど……」

菜々「後で……いくらでも話、聞けますから。私も謝りたいことやあなたに伝えたい事が沢山あるので」

菜々「沢山お話しましょう」

菜々「だから今は」

歩夢「思いっきり泣いていいよ」ギュュュュ

歩夢「!! せつ菜ちゃん……!!」

歩夢「ッ──」

ギュッ!!





歩夢「──うああああああああああああッ!!!!」

353: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:39:57.83 ID:3X/QNNx9
今はただ──この人を守りたいって思った。

354: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/18(火) 06:41:03.14 ID:3X/QNNx9
【Members walking together】

【NEXT】

【宮下愛】

381: 1(茸) 2021/05/19(水) 09:17:58.38 ID:m4zIh9b1
「ねぇねぇ! 歩夢ちゃん!」

「んー?」


──これは、夢だろうか? 見覚えのある教室。なんだか懐かしい気分になる。ここは、小学校?


歩夢(教室の隅にいるあの子達……私と)

歩夢(侑ちゃん?)


そこには私と、小さい頃の侑ちゃんがいた。
小学生1、2年生くらいの時かな?

そんなの2人の様子を私は第三者視点で見つめていた。


「この雑誌見て! これ!」

「わぁ……可愛いお姉さん達がいっぱいうつってるねぇ」

「だよねだよね!? スクールアイドルっていうんだって!」

「スクールアイドル?」

「うん!」


楽しそうに話している。侑ちゃんの笑顔は、今と変わらず見ているこっちまで楽しくなってくる。
……そう言えば私、昔は歩夢ちゃんって呼ばれてたなぁ。


「はぁ……可愛いなぁ……──ねぇねぇ!」

「どうしたの?」

「歩夢ちゃん、スクールアイドルになってみない!?」

「え、えぇ!? わたしが!?」

「うん! 歩夢ちゃん可愛いしぜったいなれるよ! スクールアイドルに!」

「……うーん……自信ないなぁ」

「そっかぁ……ざんねん……」

「でも……」

「ん?」

「──若葉ちゃんがそう言うなら、がんばってみようかなぁ」ニコッ


歩夢(──え?)

382: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/19(水) 09:22:04.76 ID:m4zIh9b1
ガバッ!!

歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「ゆ、夢……?」


若葉……ちゃん? 私、侑ちゃんと話してたんじゃないの?

先程見た夢、所々違和感を覚える。

──私、小さい頃にスクールアイドルの話……してたっけ?


歩夢「ッッ!!」ズキッ!!

歩夢「あたま……いったい……ッ……!!」ズキ、ズキ

歩夢「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

歩夢「…………」

歩夢(治まってきた……)


頭が割れそうになった。まだ少し痛い。
私が今の上原歩夢になってから──今みたいに頭が痛くなる事が、時々ある。

意識が飛びそうになるくらい痛くなる時だってある。なんなんだろ、この頭痛……。


歩夢「…………」

歩夢「学校いる時とか、歌ってる時は……起きないといいなぁ……」

384: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/19(水) 09:27:16.21 ID:m4zIh9b1
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「はい、入部届け受け取ったよ〜」

彼方「えっと……」

「……」ニコニコ

彼方「優木せつ菜ちゃん……?」

せつ菜「はい!」ペカー

「「「…………」」」

歩夢「あ、あはは……」

386: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/19(水) 09:30:34.11 ID:m4zIh9b1
せつ菜「中川菜々改めまして、優木せつ菜です! 皆さん、これからよろしくお願いします!」

かすみ「中川会長、本当にそのキャラでいくんだ」

せつ菜「せつ菜です! あとキャラではありません! 私は優木せつ菜ですから!」

しずく「いやぁ、中川かいちょーが全校集会で改名宣言! って旗持ちながら」

しずく「今日から私は優木せつ菜です!」ペカー

しずく「──ってやった時はまじでウケたわ。中川かいちょー面白いからあたし好きなんだよね」

せつ菜「ありがとうございます! あとせつ菜です!」

彼方「まぁ、スクールアイドル同好会としては部員が増えるのは嬉しいしありがたいから大歓迎だけどねぇ〜。よろしくね、菜々ちゃん」ニコッ

せつ菜「ありがとうございます! 彼方さんっ! これからよろしくお願いしますっ」

せつ菜「せつ菜です!!」ペカー

387: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/19(水) 09:35:22.98 ID:m4zIh9b1
歩夢「な、菜々ちゃん」クイクイ

せつ菜「ん? なんですか歩夢さん?」

せつ菜「あとせつ菜です!」ペカー

歩夢「……せつ菜ちゃん」

歩夢「大丈夫なの?」

せつ菜「え?」

歩夢「その……裏垢名なんじゃないの?」ヒソヒソ

せつ菜「あぁ、ご心配なく」

せつ菜「もうあのアカウント消しましたので!」

せつ菜「今の私には、必要ありませんからっ」

歩夢「……そっか」ニコッ

せつ菜「それに」

歩夢「?」

せつ菜「これでいつでもせつ菜に会えますよ」

せつ菜「歩夢さん」ニコッ

歩夢「!!」

せつ菜「ふふ」クスクス

歩夢「せつ菜ちゃん……」

歩夢「ありがとう」ニコッ

せつ菜「はい!」

歩夢「でも私、せつ菜ちゃんや菜々ちゃんとかじゃなくて……あなたが好きだから」

歩夢「あんまり名前に拘らないで大丈夫だからね?」

せつ菜「っ!!////」カァァァァァ

せつ菜「は、はい……////」

歩夢「ふふっ」クスクス

395: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/19(水) 23:27:08.32 ID:/ATcnxFz
かすみ「……歩夢先輩。なに2人でコソコソ話して笑ってるんですか?」ジトー

歩夢「あっ、かすみちゃん」

せつ菜「かすみさんも混ざりますか?」

かすみ「はぁ……そういうことではありません」

かすみ「ライブが終わったからと言って、油断してはダメですよ歩夢先輩」ピシッ

かすみ「ライブもまだまだでしたし、私が満足する出来ではありませんでしたよ? もっと練習しないとです」

歩夢「そ、そうだよね……もっと頑張らないと」

かすみ「そうです。なので私とダンスレッスンを一緒に──」

しずく「かすみ、歩夢さんのライブ中めっちゃ楽しそうにサイリウム振ってたじゃん」

しずく「しかもライブ終わった後もめっちゃ満足そうだったじゃん」

歩夢「え? そうなの?」

かすみ「…………」

かすみ「ふん!」ペシンッ!!

しずく「いったぁ!! ──暴力反対!!」

かすみ「うっさい!」プイッ

396: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/19(水) 23:35:48.07 ID:/ATcnxFz
彼方「でも、本当に良いライブだったよ歩夢ちゃん。私もやる気出たし、今日は練習参加するよ」

歩夢「え? 本当ですか? ありがとうございますっ」

せつ菜「素晴らしいライブでした! もしかしたら私みたいに、スクールアイドルを始めたいと言う方が現れるかもしれませんよ?」

歩夢「えー? それはさすがに……」


コンコンコン


彼方「ん? お客さんかな? はーい」 スタスタ

せつ菜「ほら! 早速入部希望者が来たのかもしれません!」

歩夢「いやいや、それはないよせつ菜ちゃん」

しずく「あたし知ってるよこれ」

かすみ「なにが?」

しずく「これ、フラグ回収ってやつだよ」


彼方「空いてますよ? どうぞー」


ガチャ!

「失礼しまーす!」

「失礼するよ」


歩夢「──あっ」

398: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/19(水) 23:51:47.82 ID:/ATcnxFz
歩夢(果林さんと、璃奈ちゃん!)


果林「……」ニコニコ

璃奈「……」

せつ菜「あなた方は──ライフデザイン学科の朝香果林さんと、情報処理学科の天王寺璃奈さんじゃないですか!」

果林「こんにちは! 会長!」

璃奈「ん」ペコリ

彼方「おぉ〜果林ちゃんじゃん。どうしたの?」

果林「あっ! 彼方! なんでここにいるの!?」

彼方「私、スクールアイドル同好会の部長なんだ。だからここにいるの」

果林「へぇ〜!!」キラキラ

しずく「知り合いなの? かな姉」

彼方「うん。クラスは違うけど学科は同じなんだよね。授業被ったりもしてるよ」

果林「彼方はいつも勉強助けてくれるから助かってるよ〜!」ニコニコ


歩夢「」

歩夢(か、果林さん?)

歩夢(あの人、果林さんだよね!?)

399: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 00:06:23.09 ID:zOvSbmqv
歩夢(声高すぎない!?)


かすみ「げっ……天王寺璃奈……!?」

せつ菜「? どうしたんですか、かすみさん」

かすみ「いや……その……」

璃奈「おや? かすみちゃんだ」

かすみ「…………」

璃奈「そうか、あなたもスクールアイドルだから同好会に所属してるんだね。これは助かるよ。知り合いがいるのといないのじゃ、居心地の良さに雲泥の差があるからね」


歩夢(璃奈ちゃんは……少し口調が違うくらいだけど……あんまり変わら──)


璃奈「それに、あなたの可愛い理論と私の考える可愛い理論について語れるね」ニヤニヤ

かすみ「話長いからやだし、私あなたのこと苦手だから付き合いたくない。帰って」

璃奈「照れるなよかすみちゃん」ニコッ

かすみ「照れてない!!」


歩夢(あっ、全然違った……)

歩夢(でも、笑ってる璃奈ちゃん可愛いなぁ。笑ってなくても可愛いけど)

400: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 00:17:24.09 ID:zOvSbmqv
かすみ「──って、いま居心地がとか言ってたけど……ま、まさか?」

果林「そう! わたし達!」

璃奈「スクールアイドルになりたくてやってきたよ」グッ

かすみ「」

せつ菜「おお!! 予想的中です!!」

しずく「まさかまさかの新入部員増加ブーストだねぇ」

彼方「すごいねぇ〜」ニコニコ

しずく「ねぇ〜」ニコニコ

歩夢(私の知る人達が……少しずつ集まってくる……!)

歩夢「ふふっ、嬉しいなぁ」ボソッ ニコニコ

402: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 00:21:43.48 ID:zOvSbmqv
果林「あっ!!」

歩夢「へ?」

タッタッタッタ! ──ギュッ!!

果林「上原歩夢ちゃんだよね!?」

歩夢「は、はい」コクリ

果林「はぁぁぁぁぁ!」

歩夢「!?」

果林「近くでみるとほんっとかえーしきゃー!」

歩夢「へ? か、かえ……?」

果林「あぁ、ごめん! 可愛いねー!」

歩夢「え、えぇ!?」

果林「わたし、あのライブ見てあなたのファンになったの! 会いたかったよー!」ギュッ!!

歩夢「か、果林さん!?(スキンシップが激しすぎるよ!?)」

果林「んー、予想通り歩夢ちゃんやわらきゃ〜!」ギュュュュ

歩夢「えぇ……」

せつ菜「むっ……」ムスー

せつ菜「…………」ギュッ

歩夢「せつ菜ちゃん!?」

せつ菜「寒かったのであっためてほしいです」

歩夢「今の気温、26℃あるよ……?」

408: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 00:40:47.22 ID:zOvSbmqv
歩夢「と、とりあえず動けないです……」

せつ菜「そうですね。果林さんがくっついたままだと歩夢さんが動けないですもんね。離れて下さい、果林さん!」ニコッ

歩夢「いや、せつ菜ちゃんもだよ?」

果林「あぁ、かんべんよー」スッ

せつ菜「いいんですよ果林さん」ペカー

歩夢「……」

璃奈「果林さんと同様、私もあなたのライブを見てスクールアイドルになりたくなったよ」

璃奈「歩夢さんのライブはとても良いものだった」

璃奈「端的に言うなら、素晴らしい」

歩夢「ほ、ほんと? ありがとうね璃奈ちゃん」ナデナデ

璃奈「!?///」ビクッ!

歩夢「──あっ、ご……ごめんね? つい撫でちゃった」

璃奈「なぜかな? 出会ったばっかなのに何故かナデナデしてもらえるくらい好感度が高い。以前から私を知っているかの様な手馴れた動作だった」

璃奈「さては歩夢さん……私の事すきだね?」

かすみ「は?」

歩夢「あ、あはは……」

璃奈「私は私をすきな人がすきなんだ」

歩夢「え?」

璃奈「イメージ通り歩夢さんは優しい人だし……歩夢さん、すき」ギュッ

歩夢「あ、ありがとう」

歩夢(なに!? みんな大胆過ぎるよ……!)

歩夢(でも、なんだか賑わってて)

歩夢(楽しい)

414: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 00:59:55.74 ID:zOvSbmqv
かすみ「はぁ……騒がしくなりそうですね。急にこれだけ新入部員が増えるとなると」

彼方「イスとかロッカー増やしてもらってて良かったよね」

かすみ「せつ菜さん入部後にすぐもう1人部員が増えましたもんね」

璃奈「おいおいかすみちゃん。果林さんを省くんじゃないよ。可哀想」

かすみ「頭の中お花畑なの?」

果林「えぇ!? わ、わたし入部認めてもらえないの!?」

果林「ひどい!!」シクシク

かすみ「彼方先輩! クセが強い部員増えすぎなんですけど!! 助けて!!」

彼方「みんな個性的で可愛いね〜」ニコッ

しずく「まともなのは歩夢さんとかな姉だけだね」

しずく「──あっ、あとあたしかぁ」ニコニコ

かすみ「能天気コンビが!!」

415: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 01:10:11.14 ID:zOvSbmqv
歩夢「あっ、みんなごめんなさい。私ちょっと飲み物買ってくるね?」

果林「あっ! わたしも行きたいっ」

果林「わたし方向音痴でさぁ〜。道迷っちゃうから案内してほしい!」

歩夢「いいですよっ(自販機すぐそこなんだけどね……)」

果林「やったら〜! ありがとう!」バンザーイ

歩夢(かわいいなぁ。違和感凄いけど……)

しずく「歩夢さん、行ってらっしゃい〜」フリフリ

せつ菜「うぅ……飲み物、買い忘れてれば良かったです……」ボソッ


スタスタ ガチャ



「──あっ」

歩夢「え?」

果林「ん?」

愛「…………」

歩夢「愛ちゃん?」

416: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 01:20:18.55 ID:zOvSbmqv
愛「……」

果林「あっ! あなた、あの時エマと一緒にいた子!」

歩夢「え?」

愛「なっ!!」

果林「歩夢ちゃん、この子もライブ見てたの!」

果林「部室前にいたって事は、入部希望!?」

愛「な……なぁ……!!」プルプル

愛「──んなわけあるか! 馬鹿かよ!!」プイッ

果林「なっ! ば、馬鹿じゃないもん!」

愛「うるせぇ!」

歩夢「愛ちゃん、私に用事? それとも本当に……」

歩夢「あっ! それよりもライブ見てくれてたんだね!」

歩夢「ありがとうっ」ニコッ

愛「──ッ!!」

愛「……なんでもねぇよ」

歩夢「え?」

愛「なんでもないっつの!!」バッ

タッタッタッタ!!

歩夢「あ、愛ちゃん!?」

果林「足はっやいね〜。すごきゃ〜」

歩夢「……ごめんなさい果林さん。私、愛ちゃん追いかけて来ます!」

果林「え?」

タッタッタッタ!!

果林「あ、歩夢ちゃーん!?」

417: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 01:28:30.51 ID:zOvSbmqv
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「愛ちゃん!」

歩夢「待って──愛ちゃん!」

愛「っ、んだよ!!」

歩夢「!!」ビクッ

愛「…………」

歩夢「え、えっと……その……」

歩夢「な、何か用事でもあったの?」

愛「だからなんでもねぇって言っただろ……追いかけて来んな」

歩夢「で、でも急に愛ちゃんが──」

愛「ッ──!! その!!」

愛「愛ちゃんってのやめろッ!!」

歩夢「ひっ!」ビクッ!!

愛「!!」

歩夢「……ご、ごめんね……?」

愛「…………」

愛「なぁ」





愛「お前……誰なんだ?」

歩夢「え?」

418: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 01:39:01.10 ID:zOvSbmqv
愛「……アタシが知ってる上原歩夢は」

愛「アタシを絶対にちゃん付けなんてしないし」

愛「笑顔も向けない」

愛「怒鳴り声にもビビったりしない」

愛「アタシを見て泣いたりしない」

愛「抱きついたりしない」

愛「あんな歌を……歌わない……」

愛「……あんたみたいな優しい目をしてない……」

歩夢「……」

愛「なぁ」

愛「……あんた……誰なんだよ」

歩夢「わ、私は……!」

愛「──アタシが憧れてた上原歩夢を」

愛「返してくれよ……!」

歩夢「」


悲しそうな愛ちゃんの表情が──私の目に焼き付いてしまった。

433: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 20:02:14.46 ID:zOvSbmqv
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

アタシの実家はもんじゃ焼き店を営んでいる。幅広い年齢層から人気だ。
名前は「もんじゃ みやした」。有名人も常連として訪れるとかで、結構有名みたい。

その為か両親は共働きで忙しく、アタシの為に時間を使ってはくれなかった。
いや、別にネグレクトされたりとかではなく、一定の愛情は注いでくれた。

家族を養う為に一生懸命働いているんだ。その時点で感謝はしている。

……ただ、寂しくないかと言えば、嘘になる。

ほぼ年中無休だし、働き過ぎだと思ったし、授業参観とか運動会の応援くらいは来てくれよと思っていた。

──でも、アタシは平気だった。


愛『おばーちゃん! 見て!』

愛『アタシ、テストで100点取った!』

愛『クラスでアタシだけだってさ!』


アタシには、大好きなおばーちゃんがいたからだ。

436: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 20:12:16.38 ID:zOvSbmqv
アタシはおばーちゃんの怒った所、見たこと無かった。
いつも笑顔で優しくって、可愛い。自慢のおばーちゃん。

すごくアタシに優しくしてくれて本当に大好きだった。

目元がアタシと似てて、アタシは自分の容姿が大好きになり自信が持てた。共通点があって、嬉しかったなぁ。

あと、おばーちゃんが作るぬか漬けは、本当に大好きだった。世界一美味しい。
小学生の頃大好物は何って友達に聞かれた時、おばーちゃんが作るぬか漬けと答えたくらい。

それくらい大好きだった。

両親は忙しかったし、たまには休んでアタシとの時間を過ごしてくれって思っていたけれど!
おばーちゃんがいたから……平気だった。


でもそんな優しいおばーちゃんが──ある日突然、亡くなった。

437: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 20:13:30.87 ID:zOvSbmqv
愛『うそ』

愛『そんなの絶対に……嘘だよ……』


アタシが中学一年生の時だった。

別に、重い病気があったりとかではなかった。
もっと、長生きするはずだった。

そう、おばーちゃんはもっと長生きするはずだったんだ。

たまたま引いた風邪が原因で、おばーちゃんは体調を崩し、病院に行き、入院して──ある時に亡くなった。


愛『嘘だよ……そんなの、嘘だよッ!!』


信じられなかった。

アタシはその事実を知らされた時、信じられないくらい泣いた。

だってさ、風邪だよ?

それが原因で亡くなるだなんて、思っていなかった。

お葬式は静かに行われたけれど……アタシは正直放心状態だったからあんまり覚えていない。

お店も臨時休業。アタシの両親への休んでくれと言う想いは、皮肉にもおばーちゃんの死で実現されてしまった。

アタシは、これからひとりぼっちになるのかな?

それとも、両親が少しはアタシに構ってくれるようになるのかな?

色々な思いがあったけれど──とにかくアタシは泣いた。

438: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 20:20:00.08 ID:zOvSbmqv
愛『……………………』


おばーちゃんが亡くなって、数日。

結果を発表しよう。


愛『………………』


両親は今日も元気に働いていた。

アタシはひとりで部屋に蹲っていた。

いつもと変わらない日常。

変わった事はと言えば、おばーちゃんがいない。

それだけだった。

……それだけ?


愛『…………』

愛『ふざけんな』


真面目に生きるのが──馬鹿らしくなった。

440: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 20:34:33.72 ID:zOvSbmqv
愛『…………』


世の中に、何故か無性に腹が立ってしまった。自分で語るのもあれかもしれないけれど、アタシは荒れた。

何をしても楽しくない。ただ、生きててイライラする。負の感情が収まらない。

色々な思いがあった。上手く言葉が見つからないけれど──世の中がクソにしか思えなかった。


愛『……ねぇ……』

愛『今、アタシにぶつかったよね?』

『は?』


ケンカをよくするようになったのは、これがきっかけ。

学校にガラの悪い子がいたけれど、そいつがアタシにぶつかって何も言わずに去ろうとした。
……めちゃくちゃ、腹が立ってしまった。

442: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 20:41:58.05 ID:zOvSbmqv
結果、ボコボコにしてしまった。

ケンカしても、いいことはない。手は痛いし、身体だって痛くなる。

──ただ、スカッとしてしまった。

そこからはケンカに明け暮れる日々。

何やってんだろうなって思う事は沢山あった。

でも、他にやる事もしたいこともなかった。

アタシには、ケンカしかなかったんだ。サイコーな事も、楽しい事も……何も無かった。

──ただ、勉強はした。学校はサボったけれど、上から数えた方が早いくらいの成績はキープした。
ケンカだって、アタシと同じく荒れてる奴らとしかしなかった。

おばーちゃんの顔に泥を塗りたくなかったからだ。

いや……不良になってる時点で、泥は塗ってるか……。


愛『…………』

愛『ねぇ』

愛『おばーちゃん』

愛『こんなろくでもないアタシだけど』

愛『アタシがそっち行った時』

愛『怒ってくれる……?』


こうしてアタシは、高校一年生になった。

446: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 21:22:28.97 ID:zOvSbmqv
歩夢『ねぇ』

歩夢『そこに立たれるの』

歩夢『邪魔なんだけど』


入学式初日。

虹ヶ咲学園に入学し、最初に聞いた他人の言葉はこれだった。
校舎の大きさに驚き、少し感動して見上げてる時。

そんな時に、わざわざアタシにそんな事言う奴がいた。


愛『あ?』

愛『こんなに道広いんだから少しズレて歩けば良いだろーが』

歩夢『……こんな道のド真ん中で校舎見上げながら立たれると邪魔なんだって言ってるんだけど?』

歩夢『日本語分からないの? 頭悪そ〜』

愛『……アタシ、この学校で一番成績の良い情報処理学科の新入生なんだけど。普通科と偏差値の差が凄いの知ってるか?』ニコニコ

歩夢『…………』

愛『はっ』

愛『ちゃんと調べてからマウント取れよ。ばーか』

歩夢『……』

歩夢『ふふっ』

愛『あ?』

歩夢『頭の良い情報処理学科の人も、あんなお子ちゃまみたいな表情で学校見るんだね』

歩夢『頭脳は大人、見かけはお子ちゃまなんだね』クスクス

愛『』ピキッ

愛『おい』

愛『今アタシの事、馬鹿にしただろ?』

歩夢『……最初から馬鹿にしてるよ?』

歩夢『頭良くても、そんな事も分からないんだねぇ』

448: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 21:28:57.13 ID:zOvSbmqv
愛『……』

歩夢『……』

愛『表出ろ』

歩夢『……ここ外だっつの』

歩夢『ばーか』

愛『ッッ……!!』プルプル

愛『ケンカする時のお約束だろうが!!』

歩夢『知らないっての』

歩夢『てか、声デカいんだけど』

歩夢『それに、さっきから余計な事ばっかペラペラ喋ってさ』

愛『』

歩夢『ほんっと』

歩夢『弱い犬ほど良く吠えるんだよなぁ』

愛『』ブチッ


アタシの入学式初日は、こんな感じだった。

452: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 21:34:58.85 ID:zOvSbmqv
愛『……』

愛『……いってぇ……』


結果、アタシはボコボコにされた。

ケンカで負けたのは、初めてだった。


愛(クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが)

愛『ッ、ッッ……!!』


あまりにも悔しかった。1発もアタシの殴りは当てられなかったし、一番腹立たしいのはアタシの顔を殴らなかった事。


愛『舐めやがって……!』


サイテーな入学式初日。

その次の日から、アタシのあいつを追う日々が始まった。

456: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 21:52:45.86 ID:zOvSbmqv
愛『おい』

歩夢『……』

愛『昨日はよくもやってくれたなぁ……!』

歩夢『……はぁ……』

歩夢『なんの用?』

愛『決着付けるぞ』

歩夢『はぁ?』

歩夢『10対0でわたしの勝ちでしょ』

愛『まだアタシは負けを認めてねーんだよ』

歩夢『……そんなくだらない事言う為にわざわざ普通科の教室まで探して来たの?』

歩夢『こんな広い学校の中でご苦労さまだね〜。暇人だね〜』


めちゃくちゃ広い校内だから、確かに苦労はあった。やっとの思いで見つけた、この目の前の女は……アタシを馬鹿にするように煽り続ける。


歩夢『その頭のしっぽを揺らしながらここまで来たんだね』

歩夢『んー、えらいえらい。可愛いワンちゃんだぁ〜……ナデナデしてあげよーか?』

愛『……ッッ』プルプル

愛『てめぇもアタシと同じ髪型してんだろーが!!』バンッ!!

歩夢『……机叩くなよ』

歩夢『うるさい』

458: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 21:57:46.72 ID:zOvSbmqv
ザワザワザワザワ

『え? なに? ケンカ?』

『こわ……』

『……絶対にあぁいうヤンキーっているよねぇ』

ヒソヒソヒソヒソ


歩夢『…………』

歩夢『ねぇ』

歩夢『静かにしててくれる?』

歩夢『うるさいんだけど』


背筋が凍るかのような、とても冷たい一言だった。
教室の中が一気に静まり返る。


歩夢『……場所変えよ』

愛『!!』

歩夢『昨日みたいにまたボコボコにしてあげるよ』

歩夢『このバカ犬が』


この日の上原は、なぜだか機嫌が悪そうだった。

462: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 22:09:46.51 ID:zOvSbmqv
愛『…………』


結果、アタシはまたボコボコにされた。昨日と全く同じ展開だった。

化け物かよ。


愛『…………』

愛『上原歩夢……かぁ』


初めてあった、自分よりもケンカの強い人間。

それに、上原はアタシと同じ目をしてて……何故か気になった。

あの、世の中をクソだと思い込んでいる、何も楽しい事が無い目。


愛『おい、てめぇ』



愛『おい、上原』



愛『上原』


アイツを追う日々は、少し楽しかった。

470: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 22:45:42.36 ID:zOvSbmqv
歩夢『ねぇ』

歩夢『もうわたしに、関わるのやめてよ』

愛『は?』

歩夢『……』

愛『なんでだよ』

歩夢『……嫌いなの』

歩夢『人が』

愛『…………』

歩夢『だから、もうわたしに関わるの──』

愛『いやだね』

歩夢『はぁ?』

愛『なんでアタシがお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ』

歩夢『……』

愛『……それに』

愛『アタシはまだお前に負けたって思ってないから』

愛『決着付けるまで、付きまとってやるからな』

歩夢『…………』

歩夢『……ふふっ』

愛『んだよ』

歩夢『少しはわたしに攻撃当てられるようになってから言いなよ』

歩夢『宮下』


──この後日、上原は事故にあったって聞いた。

476: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 23:46:38.76 ID:zOvSbmqv
ろくでもないアタシだけど、慕ってくれる子達はいた。
そんな子達が集まって出来た愛トモ。その子達から聞いたんだ。

交通事故みたいだった。車にはねられたって聞いた。

病院に搬送されて、入院中らしい。


愛『……』

愛『上原……』


心配ではあった。

でも、アイツなら平気だろう。

だって、あの上原だ。アタシよりも強くて、アタシと似た目をしていて──いつの間にかアタシの憧れの人になってた、上原歩夢。

そんなアイツが、こんなのでいなくなるわけない。

そう思っていた。

そして案の定、上原が退院したという話を聞いた。

──ほら、予想通りだ。アイツは帰ってきた。

これで、決着を付けられる。

478: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 23:52:09.12 ID:zOvSbmqv
愛『……ひさ──』


バッ──ギュッ!!


アタシは気が付くと──上原に抱きつかれていた。


愛『は? は……?』

歩夢『……愛ちゃんだ……愛ちゃん……!!』

愛『ちゃ、ちゃん!?』

歩夢『ひっぐ……! ぁぅ……っ……!!』ポロポロ

愛『え、えぇ……』

歩夢『ごめんね……急に泣いて……でも……でも……』

歩夢『愛ちゃんに会えて……嬉しくて……!!』ギュッ

愛『…………』


アタシが会いに行った上原歩夢は……別人になっていた。

479: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/20(木) 23:57:58.98 ID:zOvSbmqv
最初は事故って頭が混乱でもしたんだろうなと思っていた。
でも、今のアイツを見る度に──


歩夢『私、もう二度とケンカしない』


歩夢『愛ちゃんとは、友達でいたいもん』


歩夢『その上原って言うのも……やめてほしいかな……』



歩夢『──皆さん』

歩夢『本日はお集まり頂き、ありがとうございます』ニコッ

歩夢『……余計な事は言いません』

歩夢『今はただ』

歩夢『私の歌を聞いて下さい』ニコッ


──アタシの知っている上原歩夢がいなくなったの事が、分かった。

481: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 00:08:35.61 ID:6e3tJVW0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

愛「……」

歩夢「……」

愛「……あんたに言ったってしょうがないかもだけどさ」

歩夢「え?」

愛「今のあんたは、皆から好かれてるよ」

愛「ただアタシは」

愛「アタシと同じ目をした……上原歩夢に……戻ってほしいよ……」

歩夢「…………」

愛「……」

愛「それじゃ……アタシ──」

歩夢「──いよ」ボソッ

愛「え?」

歩夢「──ッ!!」

歩夢「私だってッ!!」

歩夢「元に、戻りたいよ!!」ポロ、ポロ

愛「うえ……はら?」キョトン

486: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 00:17:57.47 ID:6e3tJVW0
歩夢「幸せな日々が、無くなっちゃったんだよ!」

歩夢「同好会の皆と過ごしてた日々が、急に無くなってて!」

歩夢「気が付いたら私は一人になっちゃってて! みんな私の事を不良の上原歩夢だって怖がってて!」

歩夢「ケンカなんて、した事ない私を……怖がって!」

歩夢「みんな……みんな……別人になってて……」

歩夢「でも……それでも……前に進まなきゃいけないと思って……頑張って……!」

歩夢「皆もいい子で……やっぱりみんなのこと好きなんだって思えて……!!」

歩夢「楽しいけれど……嬉しい事もあるけど……」

歩夢「……私は……私は……!!」

歩夢「……前の……上原歩夢の日々に……!」

歩夢「もどりたい……!」

愛「…………」

歩夢「……っ……!!」ポロポロ

歩夢「ゆうちゃんに……」

歩夢「会いたいよぉ……っ……!!」ポロポロ

愛「…………」

487: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 00:27:55.83 ID:6e3tJVW0
愛「…………」

歩夢「ひっぐ……っ……!!」ポロポロ

愛「…………」


スタスタ


歩夢「っ……っ、……!!」

歩夢(どこかに行っちゃう、愛ちゃん)

歩夢(八つ当たりだって、分かってる)

歩夢(急にこんな事言い出して、絶対に何言ってるんだろうって思われた)

歩夢(でも……ごめんなさい……)

歩夢「…………」

歩夢(耐えられなかった)


スタスタ


愛「…………」

愛「ん」スッ

歩夢「へ……?」

愛「水、飲みなよ」

歩夢「…………」

歩夢「……うん……」スッ

愛「……ちょっと座ろ。あそこにベンチあるし」

愛「歩ける?」

歩夢「……うん……」

愛「ん」

489: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 00:34:37.47 ID:6e3tJVW0
愛「……」

歩夢「……」

愛「……」

歩夢「……」

愛「あのさ」
歩夢「あの」

愛「!!」

歩夢「!!」

愛「……先、いいよ」

歩夢「……ううん。先に愛ちゃんからでいいよ」

愛「……分かった」

歩夢「……ありがとう」

愛「…………」

愛「……アタシといつ最初にケンカしたのか……」

愛「覚えてる?」

歩夢「……ううん。覚えてない」

愛「……そっか……」

歩夢「というか、ね……」

歩夢「私、知らないの」

歩夢「今の上原歩夢が過ごしてきた日々」

歩夢「全部」

愛「え?」

491: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 00:49:43.57 ID:6e3tJVW0
歩夢「愛ちゃん」

歩夢「私ね」

歩夢「狂犬の上原歩夢とは……言葉の通りの別人なの」

愛「え?」

歩夢「……私は……」

歩夢「マンションに住んでて、大好きな幼馴染の侑ちゃんが隣に住んでいて、楽しい日々を過ごしてた」

歩夢「そして、スクールアイドルに出会って、スクールアイドルになって」

歩夢「スクールアイドル同好会に入って……皆と楽しい日々を過ごしてたの」

愛(マンション……?)

歩夢「同好会の皆のこと、本当に大好きなの。同好会のメンバーは」

歩夢「せつ菜ちゃん、かすみちゃん、しずくちゃん、璃奈ちゃん、彼方さん、果林さん」

歩夢「そして」

歩夢「エマさんと」

歩夢「愛ちゃん」

愛「──は?」

愛「アタシ……!?」

歩夢「うん」

歩夢「私が知ってる皆は、スクールアイドルだった」

愛「…………」

歩夢「そんな皆と過ごしてた。スクールアイドルフェスティバルも開催できて、無事に終わって、10月を迎えた」

歩夢「……楽しかったなぁ」

愛「……」ポカーン

493: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 01:09:50.05 ID:6e3tJVW0
歩夢「何言ってるんだって思うよね」

歩夢「私の頭、おかしくなっちゃったのかなって思うよね」

愛「!! そんなこと──」

歩夢「実際に頭おかしくなっただけなら、どれだけ良かったんだろ」ニコッ

愛「!!」

歩夢「今は5月で、私が最後に見た景色と季節は10月。こんなわけがわからないものが……現実だったの」

歩夢「痛みは感じるし、夢じゃない。時間だって変わらずに、無情にも動くし」

愛「……」

歩夢「……本当にごめんなさい。急にこんな事言って」

愛「……あんた……もしかして」

愛「別世界の……人間なのか?」

歩夢「…………」

歩夢「よく、わかんない」

歩夢「別世界の存在だなんて、現実だとは思えないもん……」

歩夢「──でも、私も上原歩夢なの」

歩夢「ただ……今の、この上原歩夢と私は別人」

歩夢「私が知る同好会の皆も……別人だし……」

歩夢「便利な事で例えるなら、別世界の上原歩夢」

歩夢「……なのかも……」

愛「…………」

494: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 01:21:49.62 ID:6e3tJVW0
愛「……」

愛「聞いたことがある」

歩夢「え?」

愛「この現実とは別に、もう1つの現実が存在する」

愛「もしもこうだったらどうなっていたのか」

愛「そういう、歯車のズレで生まれる……並行世界」

愛「SF作品の中だけでなく、理論物理学で存在について語られている世界の可能性の話。そんな並行世界を──」



愛「──パラレルワールドって、言うらしい」

歩夢「パラレルワールド?」

501: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 01:54:51.27 ID:6e3tJVW0
愛「例えば──マンションに住んでいる幼馴染がいたとするだろ? 幼馴染はAとBの2人だとする。Aは本来202に住む予定。Bは203に住む予定だったとする」

愛「そのまま予定通り202と203で住んだAとBは、仲良く過ごし人生を歩む」

歩夢「うん」

愛「じゃあ、その人達の部屋の番号が逆になったとしたら」

愛「たったそれだけで全く別の人生になる」

歩夢「え? 部屋が逆になっただけなのに……?」

愛「本来の予定とのズレ。部屋の番号が逆になるってことは、その前に何かあったのかもしれない。内装確認した時に気に入らない箇所を見つけたのか、窓からの景色が気に食わなかったのか、なんとなくで気が変わったりとか等々──それら可能性は全ての現象に影響してくるんだ」

愛「その人達が、例え同じ人物だったとしても、な」

歩夢「…………」

愛「そんなありえたかもしれない可能性が世界を分岐させて、並行世界として生まれる。それがパラレルワールドって言うらしい」

歩夢「……難しいや」

愛「まぁ、今が語った事も1つの理論でしかない」

愛「正解は存在しねぇし、誰にも分からないんだよな」

歩夢「…………」

愛「……なるほど、ねぇ……」

歩夢「え?」

愛「そりゃ……別人だなって思うわけだ……」

愛「スクールアイドルやってた上原が……不良の上原の人格になったんだもんなぁ……」

愛「別人な……わけだよ……」

歩夢「愛ちゃん……」

502: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:00:31.97 ID:6e3tJVW0
愛「……なぁ」

歩夢「?」

愛「アタシが知ってる上原歩夢は……」

愛「消えちゃったのか……?」

歩夢「……わかんない」

歩夢「でも、私……思ってない事を喋っちゃった時があったの」

愛「え?」

503: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:04:16.73 ID:6e3tJVW0
──────────

歩夢『──わたしね』

歩夢『あの子と約束したの』

歩夢『スクールアイドルになるって』


歩夢『わたし、本当はケンカなんてしたくない』

歩夢『わたしは……あの子と一緒に、ずっと一緒にいたかっただけ……!』

歩夢『でも……それはもう叶わない夢だから』

歩夢『だから……だから……わたしは……それが許せなくて……!!』

──────────

504: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:09:13.50 ID:6e3tJVW0
歩夢「私の意志とは別に、発された言葉だったの」

歩夢「……私の存在しない記憶も……あるし」

歩夢「あの時の言葉が……上原歩夢の本心かは分からないけれど」

歩夢「……この子の、上原歩夢の──本当の思いだったんじゃないかなって思いたいかな……」

愛「……」

歩夢「というか愛ちゃん」

愛「え?」

歩夢「私の言葉……信じてくれるの?」

歩夢「こんな……わけわからない話なのに」

愛「……信じるしかないだろ」

愛「アタシ、あんたが嘘ついてるように思えないし」

歩夢「……」

506: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:29:16.05 ID:6e3tJVW0
愛「あのさ」

愛「あんたのよく知るアタシの事……教えてくれない?」

歩夢「……うん、いいよ」

愛「……」

歩夢「愛ちゃんはね、とっても面白くて明るくって、可愛い子なの」

愛(別人じゃねーか……)

歩夢「璃奈ちゃんと仲良しでね。部活の助っ人にたくさん呼ばれて部室棟のヒーローって呼ばれててね」

歩夢「出会ったばかりの私にも優しくしてくれたの。あなたと一緒で、私のよく知る愛ちゃんも優しい子なんだぁ」ニコッ

愛「……」

歩夢「あとね、よくダジャレを言って場を和ませてくれるの」

愛「え?」

歩夢「よく言うダジャレはね」

歩夢「愛してるよ、愛だけに」

歩夢「って言うの」

愛「────」

507: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:30:05.03 ID:6e3tJVW0
愛『おばーちゃん! 見て!』

愛『アタシ、テストで100点取った!』

愛『クラスでアタシだけだってさ!』

『おー、すごいね愛ちゃん。いい子いい子〜』

愛『えへへ〜!!』

愛『おばーちゃん大好き!』

『ほんと? 私も愛ちゃんの事、愛してるよ』

『愛だけに、ね』

愛『きゃはは!』

愛『おばーちゃんのダジャレ、ほんっと面白い!』

愛『大好きー!』

510: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:33:27.97 ID:6e3tJVW0
歩夢「愛ちゃん?」

歩夢「愛……ちゃん……?」





愛「ッ……、っ……!!」ポロポロ

愛「ぁ……ちが……これ……っ……!!」ポロ、ポロ

愛「ぅぁ……ぁ、ぐっ……ひぐ……っ……!!」

歩夢「あ、愛ちゃん……?」

歩夢「──愛ちゃん!!」

514: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:43:20.46 ID:6e3tJVW0
愛「……っ……そっか……」

愛「そっちのアタシは……幸せなんだね……!」

愛「アタシ……不良になんかなっちゃって……」

愛「何やってんだろうなぁ……っ……!」ポロポロ

歩夢「──っ愛ちゃん!」

ギュュュュ

歩夢「愛ちゃんは愛ちゃんだよ!」

歩夢「不良になってたって、変わらない! あなたは、私の知る愛ちゃんと変わらない……優しい愛ちゃんだよ……!!」

愛「……っ……」

歩夢「それに……泣きたい時は……我慢しなくていい……」

歩夢「大丈夫だから……ね?」ポロポロ

歩夢「泣いて……いいから……」ポロポロ

愛「──っ!!」

愛「うん……! うん……ッ……!」ギュッ

愛「……ありがとう……っ……!!」ギュュュュ

歩夢「…………」

ギュュュュ




515: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:48:17.53 ID:6e3tJVW0
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

愛「……ごめん。急に泣いたりして」

歩夢「ううん。大丈夫だよ」

歩夢「……」シュン

愛「? ……どしたん?」

歩夢「んーん」

歩夢「せつ菜ちゃんみたいにかっこよく励ましたかったのに……」

歩夢「愛ちゃんが悲しんでる姿見てたら……私も悲しくなっちゃって……泣いちゃってさ……」

歩夢「かっこ悪いなぁって……」

愛「…………」

愛「ぷっ」

歩夢「え?」

愛「あっはっはっはっは!」

歩夢「え? えぇ!?」

愛「誰もあんたにかっこよさなんて求めてないっつの」

愛「そんな小動物みたいな雰囲気してて、何言ってんだか」

歩夢「……うぅ……ひどい……」

愛「──まぁ、でも」

愛「あんがとね」ニカッ

歩夢「愛ちゃん……」

歩夢「うん!」ニコッ

517: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 02:52:34.58 ID:6e3tJVW0
愛「ねぇ」

愛「あんたの知るアタシってさ、スクールアイドルやってるんだよね?」

歩夢「うん」

愛「……アタシも……スクールアイドルになれっかな?」

歩夢「え?」

愛「……あんたの歌」

愛「めっちゃ良かったんだよね」

愛「正直言って、心打たれた」

歩夢「ほ、ほんと?」

愛「うん」コクリ

愛「……上原と別人みたいだなって思って……めちゃくちゃ複雑な気分だったけど……」

愛「良い……ライブだったよ」

歩夢「あ、ありがとう///」

愛「照れんなっての。こっちが恥ずかしくなる」

歩夢「ご、ごめん」

愛「謝んなって」

519: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 03:02:02.35 ID:6e3tJVW0
愛(なぁ、上原)

愛(お前が今どうなってるのか分からないけど)

愛(いつか会えるって信じてる)

愛(だからその時は……決着つけような)

愛(スクールアイドルとして)

愛「……ねぇ」

歩夢「ん?」

愛「歩夢って、呼んでいい?」

歩夢「!!」

愛「上原の事……本当は苗字じゃなくて名前で呼びたかったんだよね」

歩夢「愛ちゃん……! ──大歓迎だよ!!」

ギュッ!!

愛「!!////」カァァァァ

愛「お、おい! 恥ずかしいから離れろって!」

歩夢「あっ……ごめんなさい」

愛「た、たくっ……まぁ、いいけどさ」

520: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 03:09:04.02 ID:6e3tJVW0
愛「まぁ、これからもよろしくな」

愛「歩夢」ニコッ

歩夢「────」

歩夢「わたしも思ってたよ。──あなたのこと、名前で呼びたいって」

愛「え?」

歩夢「こちらこそよろしくね」

歩夢「愛」ニコッ

愛「」ポカーン

歩夢「──あ、あれ? 今私なんて言っ……愛ちゃんの事……あれ!?」

愛「あはは!」

歩夢「!?」

愛「……部室行こっか」

愛「歩夢!」

521: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 03:09:54.14 ID:6e3tJVW0
【Members walking together】

【NEXT】

【エマ・ヴェルデ&朝香果林】

523: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/21(金) 03:10:01.58 ID:6e3tJVW0
つづく。


引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1620824611/
you fooder
ドキドキする・・・