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682: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:16:27.04 ID:v+NaDEeT
『ねぇ! きみ、なんて名前なの!?』

『え?』


──これは、また夢だろうか?

教室? かな?
そこにはたくさんの子供達で賑わっていた。

でも、不思議な事に顔や声を認識できるのは2人だけだった。

教室の入口のすぐ近くの席に座る、2人の女の子。

私をその子達を第三者目線で見つめていた。


『あっ! ごめん。まずは自分から自己しょーかいだよね!?』

若葉『わたしは五十嵐若葉! よろしくねー!』


小さい頃の侑ちゃんと同じ見た目をしたその子は、私の知らない名前だった。
「ぱ」と1文字だけ書かれた不思議なTシャツを来ているその子は、ニカッと笑い──小さい頃の私に声をかけている。


歩夢『わ、わたしは……上原歩夢』

若葉『歩夢ちゃん!』パァァァァ

若葉『かわいい名前だね!』ニコッ

歩夢『か、かわ……!?////』

若葉「うん! 歩夢ちゃん、見た目もかわいいけど名前もかわいい!」

歩夢「え、えぇぇぇぇ!////」


顔を真っ赤にしている私。なんだか微笑ましいなぁ。

684: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:31:47.07 ID:v+NaDEeT
若葉『ねぇねぇ! 歩夢ちゃんどこに住んでるの!?』

歩夢『え、えっとね。し、東雲』

若葉『ほんと!? 私も東雲だよー!』ニコニコ

歩夢『そ、そうなの?』

若葉『うんっ!』

若葉『東雲の団地に住んでてね! 場所は──』


グイグイと私に話をかける若葉……ちゃん?

──うん。若葉ちゃん。

彼女は、小さい私に話しかけ続ける。
中々のマシンガントークだけど、私と満更でもない表情をしている。

私は自分から話しかけるのがあまり得意ではないから、こうして率先して話し掛けてくれるのは非常に助かる。
それは昔から変わらないの。

685: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:37:57.47 ID:v+NaDEeT
若葉『でも、良かったぁ〜』

歩夢『んー?』

若葉『歩夢ちゃんと席がとなりで! いがらしとうえはらで席があいうえお順だから良かったよぉ〜。私、今日の入学式……友達できるか不安だったんだ〜』

歩夢『わ、わたしも……』

若葉『そうなんだ! 一緒だっ』ニカッ

歩夢『ふふふっ。そうだねっ』ニコッ


そっか。これは入学式の日の映像なんだ。

という事は、やっぱり前見た夢もそうだけど……これは──この世界の上原歩夢の……記憶?

私と侑ちゃんは小さい頃からの幼馴染で、幼稚園も一緒だった。
でも、この子と若葉ちゃんは今日が初対面みたい。

ただ、若葉ちゃんがどうにも知らない子には思えない。話し方、笑顔、見た目。全て私の大好きな子と一緒だ。

……若葉ちゃん、あなたはもしかしてこの世界の──

──侑ちゃん?







『ねぇ』

歩夢「──え?」


誰かから声をかけられる。

その瞬間──私が見ていた景色は消え去り、変わる。

686: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:41:44.86 ID:v+NaDEeT
歩夢「え!?」


教室ではなくなる。周りには何も無い白の世界。

奥行きも分からない、空も地面も何も無い世界。

そこに私は立っていた。


『ねぇ』

歩夢「!?」ビクッ!!


──後ろから再び声をかけられる。

恐る恐る振り返る。


歩夢「え?」

歩夢『……』


──私が立っていた。

687: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 00:03:55.44 ID:/IyPZPaL
歩夢「え? わ、私……?」

歩夢『……』

歩夢「あ、あの──」

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ

歩夢「──え?」キョトン

歩夢『ふふっ』クスクス

歩夢「す、好き勝手……?」

歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

歩夢「え? ……え?」

歩夢『……まぁ、別にいいんだけどね。感謝してる事もあるし』

歩夢『だから何したって構わないよ。……別に、未練も何も……ないし』

歩夢「…………」

歩夢『でもね』

歩夢「!?」





歩夢『わたしと若葉ちゃんの思い出には関わらないで』

690: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 00:30:47.37 ID:/IyPZPaL
ガバッ!!

歩夢「はぁ……!! はぁ……っ……はぁ……!!」

歩夢「ゆ、夢? い、今の……私……?」

歩夢「ッッ!! ──あたま……いたい……ッ……!!」ズキズキ

歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「…………」

歩夢「……」


歩夢「わたしと若葉ちゃんとの思い出に、関わらないで」


歩夢「──え?」

歩夢「私……今……勝手に……?」

歩夢「喋った……?」

696: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 11:55:25.56 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私の朝はコーヒーを飲んでから始まる。もちろんブラック。
昔は嫌いだった苦いブラックコーヒー。今ではすきな味だ。

これを飲むようになったきっかけはお母さん。

お母さんが淹れてくれたコーヒーにミルクと砂糖を入れる? と聞かれた時。私は何も考えずに首を横に振ってしまったんだ。

──お母さんと話すのが久しぶりで、何話していいかちょっと分からなかったんだよね。

思いを伝えるのって難しい。


璃奈「……」ズズ

璃奈「うま」


学校に行く前の朝。

──家には私以外誰もいない。


697: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 12:02:55.97 ID:/IyPZPaL
『──つまり、魂というのは、肉体とは別のものなのです。精神的実体として存在する、想像上の概念なんですね』

『なるほどぉ〜』

璃奈「……」ズズッ


私の両親は仕事でとても忙しい。その為、ほとんど家に帰ってこない。
お父さんは海外で仕事をしているし、お母さんは日本にいるけれど、泊まり込みの仕事が多い。

だから、私はほとんど一人で過ごしている。もはや一人暮らしだ。

でも、静か過ぎるのも嫌なので適当に朝から興味もないニュース番組を垂れ流している。内容は頭に入らない。だって興味ないもん。

……なに? 寂しくないかって? ──寂しいに決まってる。そんなの当たり前だ。まだまだ甘えたい年頃だもん。

でも、わがままは言わない。お父さんもお母さんも、人を救う為の仕事をしている。

両親は私の誇りだ。そんな人達に心配かけるような事はしたくない。

だから──我慢出来る。

698: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 12:19:01.21 ID:/IyPZPaL
『そんな魂と呼ばれるものが肉体から離れそうになる瞬間。例えるなら大きな事故にあった時などですね。生きるか死ぬかの時。その時に私達人間は、不思議な体験をす──』

ピッ

璃奈「ご馳走様でした」


コーヒーと軽食を食べ終わる。そのタイミングでテレビも消す。

そろそろ身支度を整えなければいけない。


璃奈「今日はどんな一日になるかな」

璃奈「学校、楽しみだ」


前までちょっと退屈だった学校も、今では楽しみの一つだ。

早く同好会の皆と会いたい。あそこは心地良い。


璃奈「ふふふ……今日もしずくちゃんと一緒にかすみちゃんをからかってやろっと」


自然と笑みが零れてしまう。早く学校に行こう。

そう思い私は身支度を整えるのだった。

700: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 12:41:33.03 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜放課後 部室〜


朝の頭痛もまるでなかった事かのように治まり、いつもの日々が始まった。

私が今の上原歩夢になって、約1ヶ月。夏が近づいてきたと思えるように、少し気温は上がってきている。

時が動いているという事がよく分かる。──前の私は今どうなってるんだろうか。

疑問が尽きないまま、今日も一日が始まる。


彼方「はぁぁぁぁぁ……」

しずく「すー……すー……」zzz

彼方「寝てるしずくちゃん……可愛い……かえーしきゃー」ウットリ

果林「え!? 彼方もしかして私と一緒の八丈島出身!?」

エマ「いや、果林ちゃんの真似してるだけだと思うなぁ。八丈島出身なら同い年の果林ちゃんは昔から彼方ちゃんと会ってるでしょ?」

果林「あっ、そっかぁ〜!」

歩夢「ふふっ。私もしずくちゃん可愛いと思います。癒されますよね」ニコニコ

彼方「だよね!? 歩夢ちゃんは分かる子だね」

歩夢「でも、本当に彼方さんはしずくちゃんの事が好きですよね。二人共とっても仲良しですし」

彼方「うん。私にとってしずくちゃんはもう一人の妹みたいなもんだからね〜。──さて」

彼方「そろそろ私は帰るね」

かすみ「今日もアルバイトですか?」

彼方「うん。その前に寄りたい所もあるし、今日も皆気を付けて練習してね」

彼方「あんまり参加できなくてごめんね」

エマ「大丈夫だよ〜。彼方ちゃん、お仕事頑張ってね!」

彼方「うん! みんなまたねー」


眠っているしずくちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でて、そのまま彼方さんは部室を出ていく。

彼方さん、本当に忙しそう。ちゃんと休めてるのかな?

私の世界の彼方さんは、寝るのが大好きな人だった。

でも、この世界の彼方さんは全くと言っていいくらい寝てる姿を見ない。
いつもハキハキとしていて、少し緩い雰囲気はあるけれど頼りになる先輩って感じだ。

……無理してたりしないかなぁ?

701: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:09:08.76 ID:/IyPZPaL
璃奈「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? 璃奈ちゃんどうしたの?」

璃奈「今日、ボーカル練習をしようと思っているんだ」

璃奈「良かったら色々と教えてほしい。端的に言うなら、一緒に練習して」

歩夢「え? 私が?」

璃奈「うん」

歩夢「うんっ、いいよ! あんまりお役に立てないかもだけど」

璃奈「それはないよ」

璃奈「歩夢さんから色々教わる事が出来る。それだけでバフが乗るってもんだよ」

歩夢「バフって……あはは……」

璃奈「やる気が絶好調になるよ」グッ

歩夢(面白い例え方だなぁ)

702: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:25:16.91 ID:/IyPZPaL
かすみ「すごいやる気じゃん。天王寺璃奈」

璃奈「かすみちゃんはいつになったら私の事を名前だけで呼んでくれるんだい?」

かすみ「お墓に入った後かな」

璃奈「死してなお私の名を呼ぶとは……さてはあなた私の事がすきだね?」

かすみ「本当にそのポジティブさだけは見習いたいよ。それだけはね」

璃奈「照れる」

かすみ「はぁ……」イライラ

歩夢「あはは……二人共仲良くね?」

璃奈「超絶仲良しだよ。私とかすみちゃんはなかよし同好会だもん」

かすみ「まって、なにそれ初耳なんだけど。今すぐ退部したいんだけどそのなかよし同好会」

璃奈「照れるなよかすみちゃん」

かすみ「あああああああ!! 私、本当にこの子苦手!! 私に近づくな!!」

璃奈「分かった」グイッ

かすみ「来るなっての!!」

歩夢(なんだかんだ仲良し……なのかな?)

703: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:36:24.56 ID:/IyPZPaL
璃奈「まぁ、イチャイチャするのはこれくらいにしておくね」

かすみ「イチャイチャじゃない!!」

せつ菜「かすみさん、しずくさんが起きちゃいますから……」

せつ菜「──あ! あと歩夢さんとのボーカル練習は私も混ざりますね!」ペカー

璃奈「うん。いいよ。一緒に練習しよう」

璃奈「今はすごく練習を頑張りたい気分なんだ」

愛「そうなのか?」

璃奈「うん」コクリ

璃奈「この前の皆のライブは本当に素晴らしかったよ」

璃奈「色々とトラブルはあったけれど、お客さんは皆満足していた。関係者にしかトラブルが起きた事が分からない。全てパフォーマンスとアドリブでカバー出来た。そんなライブだった」

璃奈「本当に、見ていて胸が熱くなったよ」

704: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:52:01.00 ID:/IyPZPaL
璃奈「初ライブとは思えないくらいの仕上がりだったし、かっこよかったせつ菜さん」

せつ菜「ほんとですか!? 嬉しいです!」

璃奈「一生懸命頑張っていた、めちゃめちゃ可愛かった愛さん」

愛「か、かわ!?////」

璃奈「そんな愛さんをフォローしつつ、自分の可愛さを全力でお客さんに見せて、かすみんワールドを作っていた凄いかすみちゃん」

かすみ「……ふん」プイッ

璃奈「アドリブだったのに完璧な歌をアカペラで歌った私の憧れの歩夢さん」

歩夢「璃奈ちゃん……」

璃奈「そして……あまりの歌唱力の高さで会場の全員を魅力させたエマさん」

璃奈「お客さん、サイリウム振る事を忘れさせた人もちらほらいたよ」

エマ「……皆のおかげだよ。皆がいたから出来たの」ニコッ

璃奈「そしてその静寂さを、楽しいライブへと切り替えさせた果林さん。最後の締めの『Starlight』は本当にかっこよかった」

果林「えへへ〜! どーもよい!」

璃奈「つまり、端的に言うならね」

璃奈「皆、本当にすごかったよ」

璃奈「私も皆みたいなライブがしたいと思った」

璃奈「だから練習、頑張りたいんだ」

705: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:04:38.95 ID:/IyPZPaL
璃奈「私に皆みたいなライブが出来るかは分からないけど」

かすみ「──それはあなたの頑張り次第でしょ」

璃奈「え?」

かすみ「努力はらないよ」

かすみ「やるって言うなら全力でサポートしてあげるよ」

璃奈「かすみちゃん……」ポカーン

かすみ「私以外の皆がね」プイッ

せつ菜「かすみさんはツンデレなんですか?」キラキラ

かすみ「全く違います。期待の眼差しと変な例え方やめてください」

愛「そんなこと言ってて何かあったら璃奈の事助けるんだろ? かすみは本当に良い奴だよなぁ〜、うりうり〜」ナデナデ

かすみ「髪が乱れるのでなでなでしないで下さいっ!」

璃奈「……ふふ」

璃奈「そっかぁ〜。なら全力で助けてもらおうかなぁ〜。かすみちゃんに」ニヤニヤ

かすみ「絶対助けない。寄るな天王寺璃奈」

璃奈「あはは! ツンデレめ〜」ニコニコ

かすみ「ツンデレじゃない!!」

璃奈(──ほんと、スクールアイドル同好会はいい所だ)

璃奈(だいすき)

706: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:14:26.51 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

♪〜

璃奈「──ふぅ、どうだった? 歩夢さん」

歩夢「うん! すごく良かったよ璃奈ちゃん!」

歩夢「ほどよく緊張も抜けてて、とっても聞き取りやすい歌だった」ニコッ

璃奈「ほんとーかい? ありがとう」

せつ菜「私もそう思います!」

愛「独特な歌い方だけど、印象に残るよな。──あっ、勿論良い意味で独特って事だからな?」

璃奈「二人もありがとう」

璃奈「ふむふむ……なるほど」

璃奈「歌は問題ないとしたら、後はダンスを猛特訓しなきゃだね」

せつ菜「ダンスですか?」

璃奈「うん」コクリ

707: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:28:10.52 ID:/IyPZPaL
璃奈「お客さん目線でライブを楽しむとしたら、勿論歌はとても重要だけど、それ以外にダンスも大事だと思うんだ」

璃奈「例えば頭の上で指をクイッ、クイってさせる動きをする。お客さんも真似しやすいような振り付けにしたら、その動きに合わせてお客さんもサイリウムを動かせるかもしれない」ピョン、ピョン

璃奈「そんなお客さんも楽しめる、参加型のライブ。それが出来たら良いなと思ってるんだ」

璃奈「折角ライブに参加してもらうんだ。CD聞くだけでは味わえない事も体験してほしいんだよね」

愛「なるほどなぁ……」フムフム

愛「──それ、めっちゃいいな!」

愛「アタシもそんな、参加してくれる皆が楽しめるライブがやりたい!」

璃奈「だよね? 気が合うね愛さん」

愛「アタシは便乗した感じだけどな! 璃奈のおかげで目標が決まったんだよ」ニカッ

せつ菜「本当に良いですねそれ! 私も参考にしますっ!」

璃奈「でしょ? これからもこんな感じで切磋琢磨していこう。えいえいおー」グッ

愛「おー!」
せつ菜「おー!」

708: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:38:54.80 ID:/IyPZPaL
歩夢「私も応援するから、頑張ってね! 璃奈ちゃん」ニコニコ ナデナデ

璃奈「!?////」ビクッ!!

せつ菜「!!」

歩夢「あっ、ごめんね? ついまた頭を撫でちゃった……髪乱れちゃうよね?」

璃奈「もっと撫でて! もっともっと!」グイ、グイッ

歩夢「え、えぇ!?」

せつ菜「あ、歩夢さん! 私も撫でてください!」

歩夢「なんで!?」

歩夢「せつ菜ちゃん撫でるのは……ちょっと恥ずかしいよ……」

せつ菜「!? ──な、なんでですか!」

歩夢「ほ、ほら! 同級生だし……」

せつ菜「璃奈さんの方が大事なんですか!?」

歩夢「違うよ!?」

愛(こいつら歩夢の事好き過ぎるだろ……)

717: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 23:59:11.79 ID:/IyPZPaL
>>716

イラストありがとうございます!
励みになります
ゆっくり更新になりますが楽しんで頂けていたら嬉しいです

723: 1(茸) 2021/05/27(木) 09:03:40.46 ID:pvDk2ymb
璃奈「それに、家に誰もいないのも利点ではあるんだ。好きなタイミングで私のだいすきな開発ができる」

しずく「開発?」

璃奈「うん」

璃奈「小さい頃は今みたいに我慢出来るって素直に言えなかったからね。両親にあんまり構ってもらえないというフラストレーションを発散出来るものを探していた時期があるんだ」

璃奈「そして、たどり着いたのが色々な物を作るという開発」

璃奈「脳にある知識をフル活動させて、物を作る。くっふふふ……! サイコーだよ?」

かすみ「笑い方が怖い」ジトー

璃奈「あっ、ごめんごめん。開発の事になるとテンションが上がっちゃうんだ」

璃奈「──まぁ、つまりはそういう事。フラストレーションの吐き出し口はあるし、全然平気だよ」

璃奈「たまに開発して作ったものを見せると、お母さんも喜んでくれて、私の事褒めてくれるし」ニコッ

しずく「……」

かすみ「……」

724: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/27(木) 09:14:15.99 ID:pvDk2ymb
璃奈「とまぁ、自分語りはおしまいだ。折角の皆でランチなんだ。もっと色々な話をしよ──」

ギュッ!!

璃奈「!?」

しずく「璃奈」

しずく「良かったらこれから毎日、私達と一緒にお昼食べない?」

璃奈「──え?」

しずく「ね?」ニコッ

璃奈「しずくちゃん……」

しずく「ねぇ、いいでしょ? かすみ」

かすみ「……好きにすれば」

璃奈「かすみちゃん……」

璃奈「本当にいいの……?」

しずく「うん!」

しずく「友達と一緒に食べるご飯は格別だよ?」

璃奈「!!」

璃奈「……うん! 私も2人とご飯食べたい!」

しずく「うーん! よしよし〜素直で可愛いよ璃奈〜!」ギュウ~

璃奈「そんなに抱き締められると、照れちゃうよ?」

しずく「ほんと璃奈かわいいんだけど! 店長! テイクアウト出来ますか!?」

かすみ「どんなテンションなの?」

璃奈「ふふっ」ニコニコ

璃奈(……友達って)

璃奈(いいね)

725: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/27(木) 09:28:40.86 ID:pvDk2ymb
かすみ「…………」

かすみ(家でほとんど一人……かぁ)

かすみ(学校行って、部活やって、帰ってきても誰も家にいないんでしょ?)

かすみ「…………」

かすみ(寂しい、よね?)

かすみ(そんなの絶対)

璃奈「ん? かすみちゃんどうしたの?」

かすみ「え?」

璃奈「さっきからすごい静かだよ? いつもの騒がしさはどこへ?」

しずく「確かに! いつもうるさいくらいなのにね〜」

かすみ「言っておくけど私をうるさくさせている原因は大体あなた達二人だからね?」

かすみ「……別に、考え事してただけ」

璃奈「そっか」

璃奈「なら今度私がやる事になったライブに向けてアドバイスしてほしいんだ。いいかな?」

かすみ「……仕方ないなぁ」

しずく「デレた?」

かすみ「…………」ギュュュュュ

しずく「いたたたたたたっ!! あたしの綺麗な二の腕がぁ!!」

かすみ「うっさい」プイッ

しずく「すぐそうやって暴力振ってきて! もーぷんぷんだよ! おこなんだけど!!」

かすみ「そんな強くやってないでしょ!?」

璃奈「まぁまぁ二人共。ここは私に免じて仲直りしてくれよ」

かすみ「あなたは何キャラなの!?」

726: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/27(木) 09:34:15.53 ID:pvDk2ymb




〜放課後 職員室前〜


かすみ「…………」

スタスタ

しずく「おまたせー。どしたん? こんな所に呼び出して」

かすみ「……その……手伝ってほしいことがあって」

しずく「ま?」

かすみ「ま」コクリ

しずく「かすみからお願い事なんて珍しいね〜」

かすみ「…………」

かすみ「こんなことするの、私らしくないってのは分かってるんだけどね……」

かすみ「その……えっと……」

しずく「いいんじゃない?」

かすみ「え?」

しずく「やりたいと思ったことがあるんでしょ?」

しずく「なら私に出来ることがあるなら、全力でサポートするよ」

しずく「友達じゃん?」ニコッ

かすみ「……うん!」

かすみ「実はね──」


731: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 00:03:24.39 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

朝起きて、学校へ行き、ライブに向けて練習をする毎日の繰り返し。

──とても有意義だった。


歩夢「璃奈ちゃん。ステップを踏む時のコツはね──」


──私達はソロアイドルの集まりなのに、みんな私の練習に付き合ってくれた。


彼方「お腹から声を出す技術も大事だけど、私達は踊りながら歌うからね。一番大事なのは体力なの。だからこれから──」


──最近スクールアイドルになったばかりの私が、お客さんが満足するライブの開催に向けて、日々練習に取り組む。生半可な気持ちではダメだ。毎日必死に練習した。





かすみ「ほら! あと2週! スピード遅れてきてるよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……ッ、はぁ……!」


体力があまりない私にとっては中々辛い時もあった。


かすみ「ライブ中は体力が無くなっても誰も助けてくれない。ファンの皆は満足出来ない。自分は悔しい思いをする。何も良いことない。ただただ後悔するだけだよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……」

かすみ「後悔を美談で終わらせるんじゃなく、成功を美談にさせるの!」

璃奈「!! ──うん!」コクリ


何でこんな事やってるんだろう?

辛い、辛い。こんなに汗を流して、果たして意味があるのだろうか?

そんな風に思う時だってある。けど、練習後のお水の美味しさは格別だし、やり切った時の達成感も凄い。


璃奈(身体動かすのって、楽しい……!)


開発くらいしか楽しいことが無かった私の日々が、変わり始めたんだ。

──これが青春、なのかなぁ?

733: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 00:47:35.92 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──そして、ついに迎えたライブ当日。

いつもはギリギリに起きるのに、今日は目覚ましのアラームがなる前に目が覚めてしまった。


璃奈「う〜ん……清々しい朝だ」


適当に独り言を呟き、身支度を整える。

顔を洗おうと思い洗面所に向かう。途中、リビングを経由するんだけれど、テーブルに目が行く。


璃奈「え?」

璃奈「……おにぎり?」


サランラップに包まれた、おにぎりが置いてあった。


璃奈「お母さん?」


近くには「いつも寂しい思いをさせちゃってごめんね」とだけ書かれたメモが置いてあった。お母さんの字だ。


璃奈「……ふふ。別に気にしなくていいのに」クスクス

璃奈「はむ」パクッ

璃奈「……」モグモグ

璃奈「ん、美味しい」


普通のおにぎり。塩味でさっぱりとした味。──それだけなのに、すごく美味しく感じる。


璃奈(ありがとう、お母さん)

璃奈「今日のライブ……頑張るよ」

璃奈(──でも、欲を言えば)

璃奈「今日のライブ……見て欲しかったなぁ」

璃奈(今日、ライブがある事すら……教えてないけれどね)

734: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 00:59:52.14 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「ついにライブが始まるね、璃奈ちゃん」

璃奈「うん! 色々練習付き合ってくれてありがとうね。歩夢さん」

歩夢「ううん、全然平気だよ」ニコッ

愛「璃奈、すげぇ練習頑張ってたもんな。楽しみにしてるからな!」

せつ菜「全力で応援していますよ!」

エマ「リラックスして、楽しんできてねっ」

彼方「3年生のみんなで作った、璃奈ちゃんフラッグで応援するよ〜」

果林「今日の璃奈ちゃんのライブのために作ったの! 璃奈ちゃんがんば〜!」

璃奈「みんな……!」

璃奈「本当に、ありがとう。全力で頑張ってくるよ」ニッコリ

735: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:05:14.31 ID:uDM94UCa
しずく「璃奈!」

かすみ「…………」

璃奈「しずくちゃんとかすみちゃん!」

璃奈「二人も色々とライブの準備してくれたり、手伝ってくれてありがとうね」

しずく「良いってことよ〜!」

かすみ「…………」

かすみ「ねぇ」

璃奈「ん?」

かすみ「……私としずくは観客席で応援するよ」

璃奈「え? 観客席で?」

しずく「うん!」

かすみ「あんまり大きな会場じゃないから、私達の事……見れると思う」

かすみ「だから、あなたが歌う前。その時に全力であなたの名前を呼ぶから、その瞬間私としずくのいる所を見てほしい」

璃奈「う、うん。分かった」

かすみ「ん。よろしくね」

璃奈「……?」キョトン

736: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:15:32.82 ID:uDM94UCa
かすみ「……あのさ」

璃奈「んー?」

かすみ「………………」

かすみ「が」

璃奈「が?」

かすみ「……っ……」

かすみ「が……頑張ってね……////」フイッ

璃奈「!!」

しずく「デレた〜!」

かすみ「うっさい!」

せつ菜「やっぱりツンデレなんですね! かすみさん!」キラキラ

かすみ「違います! テンション上げないでください! ツンデレじゃないですから!」

かすみ「──たくっ。じゃあ移動するよしずく」

しずく「アイサー! 璃奈、頑張ってね!」ピシッ

かすみ「……中途半端なライブしたら、校庭のグラウンド50周だからね!」

スタスタ

璃奈「…………」

歩夢「璃奈ちゃん」

璃奈「ん?」

歩夢「いい笑顔だね。璃奈ちゃん」ニッコリ

璃奈「──うん!」

璃奈「絶好調だよっ」

璃奈「私、頑張ってくる!」ニッコリ

737: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:25:16.43 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、みんなには楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目の──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!

738: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:30:29.57 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目を──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!


会場に響くしずくちゃんの声。


璃奈(あっ、そう言えばさっき、かすみちゃんが──名前を呼んだら私達を見てって言っていたっけ?)


急いでしずくちゃん達を探す。すぐに見つかった。

UOをグルグル回しているしずくちゃんはよく目立った。

おいおい、まだ曲は始まって──


璃奈(──え?)


一瞬、目を疑った。

739: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:31:46.60 ID:uDM94UCa
璃奈母「璃奈、がんばって!」




璃奈「」


そこにはお母さんがいた。

740: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:39:53.83 ID:uDM94UCa
璃奈「……っ!!」


サイリウムを慣れない手つきで振る準備をしているお母さん。

その横にUOをハイテンションでブンブンさせているしずくちゃん。すごく目立つようにしてくれている。

そして、その横にはかすみちゃんもいる。


かすみ「…………」


かすみちゃんは静かに私を見ている。

──彼女と目が合う。かすみちゃんはそのまま私に向けて拳を突き出す。

……人の心なんて、分からないものだけれど。

この時は、かすみちゃんの声が聞こえた気がした。


かすみ(──見せ付けてやれ)グッ

741: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:42:54.34 ID:uDM94UCa
♪〜

璃奈「はずむ ココロ」

璃奈「飛ぶような テンション!」

璃奈「さぁ コネクト」

璃奈「しよ!」

742: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:43:36.93 ID:uDM94UCa
【ツナガルコネクト】

743: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:50:46.96 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

正直、ライブの時の記憶はあんまりない。

やれる事を全力でやりきり、お客さん達の歓声を聞いて、私はライブが終わったことに気が付いた。

──そのまま流れるままにステージ裏へと戻り、皆からもみくちゃにされた。

沢山褒めてくれた。

……嬉しかったよ。

でも、私はすぐにかすみちゃんとしずくちゃんを探し、見つけ出し、声をかけた。


璃奈「なんで二人が……!?」


色々聞きたいことがあったけれど、上手く言葉に出来なかった。

744: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:57:55.58 ID:uDM94UCa
しずく「かすみがさ、色々動いてたんだよ」

璃奈「え?」

かすみ「…………」

かすみ「職員室に行って、あなたのクラスの担任にあなたのお母さんの連絡先を聞いたの」

しずく「いやぁ、中々教えてくれなかったんだよね。個人情報だしね」

かすみ「……数日間聞き続けて、何とか聞き出せたから……直接電話して、今日のライブのこと伝えたの」

璃奈「…………」

璃奈「ど、どうして?」

かすみ「……あなたとお昼ご飯に、色々聞いてさ」

かすみ「その……えっと……」

かすみ「や、やりたくなったの!」

かすみ「あなたとお母さんの……一緒にいられる時間を……作ってあげたかった」

璃奈「かすみちゃん……」

745: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:03:50.44 ID:uDM94UCa
かすみ「余計なことして、本当にごめん」

かすみ「他人の家庭の事情に首を突っ込むなんて、やってはいけないことだもん」

かすみ「……けど……ずっと一人だなんて」

かすみ「寂しいじゃん……」

璃奈「……っ……」

かすみ「か、勘違いしないでよ!」

かすみ「私はあなたの事、苦手だから!」

かすみ「何考えてるかわかんないし」

かすみ「無駄にテンション高いし」

かすみ「時々笑い方怖いし」

かすみ「私の事すぐにからかってくるし」

かすみ「本当に……苦手……だよ」

璃奈「……」

かすみ「──でも!」

かすみ「私は頑張ってる子が報われないのが、本当に嫌なの!」

璃奈「!!」

746: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:12:34.18 ID:uDM94UCa
かすみ「あなたは……頑張ってる」

かすみ「寂しい思いはあるって言いながらも、心配させないよう笑ってるし」

かすみ「練習だって! 私の想像以上に頑張ってくれた」

かすみ「……だからその……」

しずく「かすみなりに、璃奈の為に色々と考えてくれてたんだよ」

しずく「かすみからのサプライズ!」

かすみ「あなたのライブの話をした時、あなたのお母さん……すごく喜んでた」

璃奈「──え?」

かすみ「ライブ、絶対行くって言ってたよ」

かすみ「……あなたは、ちゃんと……愛されてるよ」

璃奈「……はは……あはは……!」ニッコリ

璃奈「……まったく……」

璃奈「泣いちゃうよ?」

かすみ「……対応がめんどくさいから泣かないで」

璃奈「あはは! 相変わらずツンツンデレデレだなぁ、かすみちゃんは」

かすみ「なんか多いしツンデレじゃないっての!!」

747: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:21:31.19 ID:uDM94UCa
璃奈「でも本当に、ありがとう」

バッ!! ──ギュッ!!

かすみ「!? ちょ、いきなり抱きつくな!」

璃奈「嫌だね。これから私の嫁って事をお母さんに紹介しに行くから」

かすみ「寒気すること言うなっての!」

しずく「えぇ〜? 私は?」

しずく「私も色々手伝ったんですけど〜!」

璃奈「多妻制だからカモンしずくちゃん!」

しずく「やった! ──あと、あたしも抱きつかせろ!」バッ!!

かすみ「だぁぁぁぁあああっ!! あっついよ! 離れろ!!」

璃奈「そんな事よりかすみちゃん」

かすみ「そんな事!?」

璃奈「私のライブ、どうだった?」

かすみ「……………………」

かすみ「ま、まぁまぁ良かったよ」

璃奈「間が長すぎるんだけど」

かすみ「うっさい!」

かすみ「まだまだ沢山教えることはあるから、真面目に練習してよね!」

かすみ「──璃奈!」

璃奈「!!」

しずく「……」ニヤニヤ

かすみ「ちっ……しずく。その無言のニヤニヤをやめ──」

璃奈「だいすき!!」ニコッ

ギュュュュュ!!

かすみ「!? ──は、離れろ!! 早くお母さんに会いに行ってあげなさいよ!!」

748: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:29:08.09 ID:uDM94UCa
ワイワイ、ギャーギャー


歩夢「ふふっ。璃奈ちゃん達、楽しそうで微笑ましいね」ニッコリ

愛「だなっ」ニカッ

歩夢(璃奈ちゃん、よかったね)

歩夢(最近、皆のキズナが深まってきてる)

歩夢(同好会の雰囲気もすごく良くなってると思う)

歩夢「……やっぱり、始めて良かったなぁ」ボソッ


せつ菜「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? どうしたの? せつ菜ちゃん」

せつ菜「少し前になりますけど、覚えていますか?」

歩夢「え?」

せつ菜「他の学校の子達に聞いてみるって伝えていた」

せつ菜「高咲侑さんの件でお話があります」

歩夢「──え?」

749: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:37:44.15 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「──そんなこんなあってね、本当に良いライブだったんだ〜」

彼方「凄かったんだよぉ、璃奈ちゃんのライブ」

彼方「きっと、遥ちゃんも仲良しになれると思うよ。同じ一年生だしっ」

彼方「私、最近ね。同好会の活動がすごく楽しいの」

彼方「皆良い子ばっかだし! 友達も沢山できた。歩夢ちゃんが同好会に入ってから、良いことばかりだよ」

彼方「でも……やっぱり勉強優先になっちゃうけどね……」

彼方「……だから、そろそろ……キリもいいし……」

彼方「……辞め時なのかもね」

彼方「スクールアイドル」

彼方「──な、なんてね! 冗談冗談! あははは〜……」

彼方「……さて。そろそろ家に帰って、夕ご飯の支度しなきゃ」

彼方「また来るね」


遥「………………………………」


彼方「遥ちゃん」

750: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:38:46.79 ID:uDM94UCa
【Members walking together】

【NEXT】

【近江彼方】

771: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:12:59.27 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「…………」


夜、一人部屋の中で宿題を進める。

今日もお母さんは遅いみたいで、家の中はとても静かだ。

静か過ぎるのも中々落ち着かないなぁっと思ってしまう。
いつも侑ちゃんと通話しながら宿題していたから、余計かもしれない。


歩夢「…………」

歩夢「侑ちゃん……」


……侑ちゃんに会いたいなぁ。

772: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:21:56.54 ID:/Lc2DyOy
せつ菜『他の学校の方々にも聞いてみたのですが』

せつ菜『やはり高咲侑さんを知っている方はいませんでした』

歩夢『……そっか』

せつ菜『SNSを本名でやっていたりしないかな? って思って調べてみたりもしたのですが……見つかりませんでした』

せつ菜『お役に立てなくてごめんなさい……』シュン

歩夢『う、ううん! 大丈夫だよせつ菜ちゃん! ありがとうね』ニコッ

せつ菜『いえ! また何かあったらいつでも頼ってくださいっ』ペカー

歩夢(やっぱり侑ちゃん……いないのかな?)

歩夢(……もしかしたら……)

歩夢(五十嵐若葉ちゃんの事を聞いてみたら!)

歩夢(でも……)

歩夢(“この子”は『わたしと若葉ちゃんの思い出に関わらないで』って言ってたし……)

歩夢『…………』

せつ菜『歩夢さん?』

歩夢『──あっ、ごめんね。少しぼーっとしちゃってた』

歩夢『また何かあったらお願いするね』ニコッ

773: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:30:13.08 ID:/Lc2DyOy
歩夢「…………」


侑ちゃんと、五十嵐若葉ちゃん。

夢で見た若葉ちゃんは、侑ちゃんと同じ見かけをしていた。いや、声も笑顔も明るい性格も侑ちゃんと同じだった。

私を引っ張ってくれる、大切で大好きな子。


歩夢「……」

歩夢「また、夢の中でもいいから」

歩夢「この世界の歩夢と会話できないかな……」


夢の中で私に声を掛けてきた子は、恐らくこの世界の上原歩夢。

774: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:57:07.00 ID:/Lc2DyOy
──────────

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ


歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

──────────


歩夢(“この子”は、私の中にいるの……?)

歩夢(いや……“私”がこの子の中に入ってしまったの?)

歩夢(別世界の上原歩夢である私が……この子の中に?)

歩夢「そんな事……あるの?」

歩夢(いや……今私の身に起きている現象から考えると、全然ありえる話だよね)

歩夢(ありえないなんて事はありえないのかも)

歩夢(愛ちゃんから話を聞いた──パラレルワールドの話。その話から、私は別世界の上原歩夢だって考え付くことが出来た)

歩夢「…………」

歩夢(そう考えると……本当に、私がいた世界の私は……今どうなっているのかな?)

776: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 01:11:21.25 ID:/Lc2DyOy
歩夢「……そう言えば」

歩夢「私って」

歩夢「前の世界で」

歩夢「どんな状態だったんだっけ?」

歩夢「確か……スクールアイドル同好会のみんなと練習してて」

歩夢「……ランニング……してたよね?」

歩夢「それで──」

歩夢「──ッ!!」ズキッ!!

歩夢「ぁ……ッ……!!」ズキ、ズキ


頭が再び痛くなる。

最近、頭が痛くなる頻度が増えている気がする。

頭を鈍器で殴られたような感覚。頭が割れるんじゃないかってくらい……痛い。痛い、痛い!

気を失いそう。──でも、気を失ったら……戻って来れない気がする。

そんな気がしてしまった。

781: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 17:06:20.15 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「行ってきます」

ガチャ

スタスタ

歩夢(うぅ……まだ少し頭がズキズキする……)

歩夢(こんなに長引く事、なかったんだけどなぁ)

歩夢(頭痛薬とか、効くかな? あんまり身体に良くないから薬には頼りたくないんだけど……)

タッタッタッタ

愛「──歩夢っ」

歩夢「あっ、愛ちゃん。おはよう!」ニッコリ

愛「ちーっす! おはよ歩夢!」

歩夢「どうしたの? こんな朝から」

愛「学校行く前に軽くランニングしてたら歩夢んちの近くに来たからさ」

愛「寄ってみた」

歩夢「そうなんだ。朝から偉いね、愛ちゃん」ニコッ

愛「もっと体力付けないとだからな」ニカッ

歩夢「今でも充分体力すごいあると思うけどなぁ」

歩夢「かすみちゃんも前、愛ちゃんの体力の多さ褒めてたよ?」

愛「マジ? 直接褒めてくれねぇかなぁ……」

歩夢「かすみちゃん、ちょっと照れ屋さんな所あるもんね。だからこそ褒めて貰えると嬉しいよね〜」

愛「わかるわかる」

782: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 17:39:00.08 ID:/Lc2DyOy
愛「このまま一緒に学校行こうぜ」

歩夢「うん、いいよ」

スタスタ

歩夢「愛ちゃん、勉強の方はどう?」

愛「勉強は問題ないけど……授業サボりまくってたからグループ学習が辛いかな」

歩夢「あー……もうグループ出来てるもんね」

愛「そーなんだよなぁ……まぁこればっかりは今までの自分の行動が悪いから仕方ないさ」

愛「──てかさ歩夢」

歩夢「どうしたの?」

愛「ここでの生活にも大分慣れてきた?」

歩夢「あー、うん。もうこの子としての生活も1ヶ月くらい経つからね」

愛「そっか」

愛「……まだ皆には話さねぇの?」

歩夢「え?」

愛「今の上原歩夢は、別世界の上原歩夢の人格だってこと」

歩夢「…………」


私が“この子”とは別世界の上原歩夢である事は……愛ちゃん以外誰も知らない。

783: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 17:48:25.13 ID:/Lc2DyOy
歩夢「正直、非現実的すぎるよ。話しても……信じられないだろうし……余計な心配させちゃうかもしれないもん……」

歩夢「…………」

愛「…………」

愛「ま、まぁでも……あれだよな! 中々話にくい内容でもあるからそう思うのも仕方ねぇよ」

愛「アタシは上原と結構長い関わりがあったし、歩夢から上原として過ごした日々は全部知らないって話を聞いてたから、すっと頭に入ってきたけどさ。記憶喪失って感じでもなかったし」

愛「そ、その! 少し暗い雰囲気にさせちゃってごめんな歩夢」

歩夢「う、ううん! 私こそ暗くなっちゃってごめん」

愛「──あっ! そーだ。今オリジナル曲作ってる途中なんだけどアドバイスしてくれないか? この前のライブはかすみの曲を一緒に歌わせてもらったから、そろそろ自分の曲が欲しくってさ!」

歩夢「うん。私で良ければ全然いいよっ」

愛「サンキュ!」




784: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:00:33.41 ID:/Lc2DyOy
愛「──でさぁ」

歩夢「うんうん」

スタスタ

愛「ん?」

歩夢「? どうしたの愛ちゃん」

愛「あれ、しずくと彼方さんじゃね?」ジー

歩夢「え?」ジー



しずく「──」

彼方「──」



歩夢「あっ、ほんとだね。お話しながら歩いてるね」

愛「二人で登校中っぽいなぁ」

愛「へへーん……ここで会ったのも何かの縁だ。後ろから急に大きな声をかけて、驚かしてやろーっと」ニヤニヤ

歩夢「えぇ!? 朝からそんな子供っぽい事……ダメだよ」

愛「しー! 声がでけぇよ歩夢。バレちゃうだろ?」

歩夢「もー……怒られても知らないよ?」

愛「大丈夫大丈夫〜」ニヤニヤ

愛「んじゃ、ちょっと行ってくるわっ」

歩夢「私は止めたからね?」

愛「わーってるよ」

785: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:11:32.94 ID:/Lc2DyOy
愛(よーし……ゆっくり、ゆっくり近づいて……)スタ、スタ

愛(……よしよし、バレてないバレてない)スタ、スタ

愛(よし! そろそろ──)


しずく「かな姉、今日も帰りに病院よるの?」

彼方「うん。そうしようかなって思ってる」


愛(──え?)ピタッ


しずく「あんまり無理しないでね? ──あっ、私も一緒に行こうか?」

彼方「大丈夫だよ。しずくちゃん、同好会の練習あるでしょ? まだまだ1年生なんだから楽しんだ方がいいよ」

しずく「…………」

彼方「あっ、でも今度の日曜日は付き添いしてほしいかなぁ」

しずく「──うん! わかった!」ニッコリ

彼方「よろしくね〜」ナデナデ

しずく「うん!」

スタスタスタスタ


愛「………………」

786: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:21:14.58 ID:/Lc2DyOy
スタスタ

歩夢「愛ちゃん? どうしたの?」

愛「…………」

愛「あ、歩夢」

歩夢「うん?」

愛「彼方さん……どこか体調悪いのかな?」

歩夢「え?」

愛「……今日も病院によるの? ってしずくが彼方さんに聞いてて……そうするって彼方さんが言ってた」

歩夢「え!?」

愛「……な、何かあったのかな?」

歩夢「…………」

歩夢「……彼方さん、アルバイトや勉強、最近は同好会の活動も参加してくれることが増えてきたよね」

愛「確かに毎日忙しそうだよな……」

歩夢「前から結構思ってた事があるの」

歩夢「彼方さん、ちゃんと休めているのかな? って……」シュン

愛「!!」

愛「……何かあってからじゃ遅い」

歩夢「え?」

愛「……おばーちゃんの時みたいに……なったら……アタシ……」プルプル

歩夢「愛ちゃん……」

787: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:23:27.81 ID:/Lc2DyOy
愛「…………」ピッ

prrrrrr!!

愛「あっ、もしもし? エマさん?」

愛「朝からごめんなさい」

愛「少し相談したいことがあって……」

愛「彼方さんの事で」




788: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:36:11.39 ID:/Lc2DyOy
〜放課後〜

彼方「ふわぁぁぁああ……」

彼方(ねっむ)

彼方「!! だめだめ! あくびなんてみっともない……私は眠くないぞー」

彼方(眠気に負けてちゃダメ!)

彼方(今日の授業の内容復習も、明日の予習も休み時間中に終わらせたし、少し同好会に顔を出してから病院に行こう)

彼方(そんで帰ったら勉強だ。あと料理も作らなきゃ。お母さん、今日も遅いだろうからお夜食作っておこうかな)

スタスタ

ガラガラ

彼方「皆、おはよ〜」


「「「!!」」」ビクッ!!


彼方「──え? 皆にどうしたの? そんなに集まって……」

タッタッタッタ!! バッ──ギュッ!!

果林「彼方ッ!!」

彼方「え、えぇ!?」

789: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:44:59.43 ID:/Lc2DyOy
果林「あだんして!?」

彼方「あ、あだ!?」

果林「何かあったなら……相談してよぉ……!」グスグス

彼方「相談?」

エマ「か、果林ちゃん! 落ち着いて?」

彼方「あっ、エマちゃん……この状況は何なの?」

エマ「……彼方ちゃん」ギュッ

彼方「!?」

エマ「わたしに力になれることあったら……なんでも言って?」

エマ「ね?」ウルウル

彼方「???」

タッタッ

かすみ「か、彼方先輩! これ、私が作った特製コッペパンです! すごく美味しいので……食べて下さい!」

かすみ「あと、私に何か出来ることありませんか?」

彼方「なんでみんな今日異常に優しいの!? あいや、いつも皆優しいけど!」

791: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 19:04:59.79 ID:/Lc2DyOy
璃奈「彼方さん。これ、私が今日作った栄養ドリンクなんだけどあげる」

彼方「あ、ありがとう……」

璃奈「炭酸を抜いたコーラを原料として扱ってるんだ」

せつ菜「炭酸抜きコーラ!?」

せつ菜「……」メガネスチャ

せつ菜「ほう、炭酸抜きコーラですか…」

かすみ「真面目にやれ!」

793: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:15:40.45 ID:/Lc2DyOy
彼方「……」ポカーン

せつ菜「あぁ! ごめんなさい!」スッ

せつ菜「彼方さん! これ私が作ったクッキーですっ」

せつ菜「これを食べて、元気出して下さいっ!」スッ

彼方「……せ、せつ菜ちゃん?」

彼方「なんでクッキーが紫色なの?」

せつ菜「色々と英気を養える材料を混ぜて作ってみたらこうなりました」

彼方「あ、ありがとう……」

彼方(今度せつ菜ちゃんにお料理教えてあげよ……)

彼方「──というか! 皆どうしたの!?」

彼方「なんか変だよ!?」

スタスタ

愛「彼方さん……」

歩夢「その……」

彼方「あっ! 愛ちゃんと歩夢ちゃん。ねー、これどういう──」

歩夢「病院に行くって……本当ですか?」

彼方「え?」

愛「その……ごめん。朝、聞いちゃったんだ」

愛「しずくと彼方さんの会話を」

彼方「え? あぁ、そうなんだ」

彼方「うん、病院には行くつもりだよ?」

795: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:34:28.92 ID:/Lc2DyOy
愛「!!」

愛「彼方さん! アタシに何か出来ることないか!?」

歩夢「さ、最近あんまり休めてないですよね?」

歩夢「病院に行くくらい疲労が溜まっているんじゃ……あまりにも……」

彼方「ん?」

彼方「あの……みんな?」

彼方「勘違いしてない?」

彼方「別に私に何かあって通院してるわけじゃないよ?」

「「「え?」」」

ガラガラ

しずく「ごめんごめーん! ちょっと日直で遅れちゃったよ〜」

「「「……」」」

しずく「ん? あれあれ? なんか皆静かじゃん? どしたん?」

彼方「あっ、しずくちゃん! やっほー」

しずく「あっ! かな姉やっほほ〜!」

彼方「ごめん、少し脱線しちゃったけど」

彼方「私、定期的に病院へ行ってるの」

彼方「その理由はね、お見舞いの為なの」

彼方「入院してる、私の妹の遥ちゃんの」

歩夢「──え?」

796: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:46:51.50 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ガラガラ

彼方「さっ、歩夢ちゃんここの病室だよ? 入って入って〜」

歩夢「し、失礼します」

彼方「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ〜」

彼方「個室だし」

歩夢「……はい」コクリ

彼方「遥ちゃーん。お客様だよ〜?」

彼方「私の自慢の後輩で、お友達の歩夢ちゃんだよ〜」ニコニコ


遥「…………………………」


歩夢「遥……ちゃん……」


とある病院の、病室のベッドの上。

そこには──静かに眠っている遥ちゃんがいた。

797: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:57:03.06 ID:/Lc2DyOy
彼方『こちらが彼方ちゃんの自慢の妹の遥ちゃんで〜す!』

遥『よ、よろしくお願いします!』ペコリ


遥ちゃんがスクールアイドル同好会の練習の見学に来た時の事を思い出す。

なんだか懐かしいなぁ。


彼方「綺麗な顔してるでしょ?」

歩夢「はい……綺麗だし、とっても可愛いです……」

遥「おぉ〜、歩夢ちゃんは分かってるなぁ。しずくちゃんの時もそうだったし、私達は可愛いと思うモノの対象が似てますな」

歩夢「ふふ……そうですね」

彼方「遥ちゃんが起きたら、存分に可愛がってあげようね」ニコッ

歩夢「……」

歩夢(遥ちゃん)

歩夢(この子は、生きている)

歩夢(けど──目を覚まさないらしい)

802: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:45:16.58 ID:/Lc2DyOy
>>797
誤字修正。


彼方『こちらが彼方ちゃんの自慢の妹の遥ちゃんで〜す!』

遥『よ、よろしくお願いします!』ペコリ


遥ちゃんがスクールアイドル同好会の練習の見学に来た時の事を思い出す。

なんだか懐かしいなぁ。


彼方「綺麗な顔してるでしょ?」

歩夢「はい……綺麗だし、とっても可愛いです……」

彼方「おぉ〜、歩夢ちゃんは分かってるなぁ。しずくちゃんの時もそうだったし、私達は可愛いと思うモノの対象が似てますな」

歩夢「ふふ……そうですね」

彼方「遥ちゃんが起きたら、存分に可愛がってあげようね」ニコッ

歩夢「……」

歩夢(遥ちゃん)

歩夢(この子は、生きている)

歩夢(けど──目を覚まさないらしい)

798: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:15:20.76 ID:/Lc2DyOy
彼方「さっきも皆に話したから重複した内容になっちゃうけど」

彼方「遥ちゃんは昔から身体が少し弱い子だったの。心臓が少し、他の子よりも悪くてね」

彼方「それが原因で、学校もおやすみする事が多かった」ナデナデ

歩夢「…………」

彼方「それで、私が3年生になってすぐ、かな? 遥ちゃんの手術をしたの」

彼方「身体が前よりも元気になる為の、大事な手術をね」

彼方「手術は無事に成功したの。心の底から喜んだよ」

彼方「……でも」

彼方「遥ちゃんはまだ目を覚まさないんだ」

799: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:28:38.69 ID:/Lc2DyOy
彼方「身体は元気になったし、ちゃんと生きてるのに」

彼方「目を覚まさないの……」

彼方「どの医者も原因不明だって言ってて……匙を投げた」

彼方「まるで……“魂だけ離れちゃってる”みたいだって、お医者様は皆言ってたね」

歩夢「彼方さん……」


あの後彼方さんは、妹の遥ちゃんの状態について同好会の皆に話した。


歩夢(よかったら一緒にお見舞いに来ない? って誘われたから来たけれど)

歩夢(自分が知っている子が……入院している姿を見るのは……辛い……)

歩夢「…………」

彼方「歩夢ちゃん、ごめんね」

歩夢「へ?」

803: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:54:27.96 ID:/Lc2DyOy
彼方「突然家庭の事情を話されて、こんな状態見せられても困っちゃうよね」

歩夢「そ、そんなことないです!」

歩夢「その、話してくれてありがとうございます」

歩夢「それと……気の利いたことが言えなくて……ごめんなさい」

彼方「歩夢ちゃん……」

彼方「君は本当に良い子だねぇ〜」

彼方「狂犬って呼ばれていたのが本当に嘘みたいだよ」

歩夢「あはは……」

彼方「本当に遥ちゃん、いつ起きるんだろうね」

彼方「まるで眠り姫だよ」

彼方「キスでもしたら起きるかな?」

歩夢「…………」

彼方「じょ、冗談だよ?」

歩夢「あっ! いえ、ごめんなさい。……考え事しちゃってて」

彼方「考え事?」

歩夢「何かできる事ないかなって……」

彼方「……本当に優しいね、歩夢ちゃん」

歩夢「…………」

805: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:06:40.69 ID:/Lc2DyOy
彼方「その気持ちだけでも、嬉しいよね」

彼方「ありがとうね」ニッコリ

歩夢「いえ……」

彼方「それにね、歩夢ちゃん」

歩夢「?」

彼方「遥ちゃんは……私がなんとかする」

彼方「その為に……沢山勉強しなきゃいけないの」

彼方「今よりも、もっと」

彼方「もっともっともっと、勉強しなきゃいけないの」

歩夢「!!」

彼方「遥ちゃんの為に、ね」

歩夢「…………」

808: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:23:47.49 ID:/Lc2DyOy
───────────

彼方『んー、アルバイトまで勉強したいしなぁ……』

しずく『……かな姉、最近頑張りすぎだよ! 気持ちは分かるけど……』

しずく『ちゃ、ちゃんと寝てるの!?』

彼方『寝てるよ? 4時間くらいは毎日寝てる』

しずく『ぜ、全然足りないよ! 15分くらい仮眠取りなって! ほら、私……ひざ枕するから!』

彼方『大丈夫だって』

彼方『しずくちゃん。私が勉強頑張る理由、知ってるでしょ?』

───────────


歩夢(そういう事……だったんだ……)

彼方「歩夢ちゃんが良かったらさ」

彼方「またお見舞いに来てほしいな」

彼方「この病院、個人経営なのに入院設備もあってね。先生はフランクで良い人だから気軽にお見舞い来やすいし」ニコッ

歩夢「……はい」コクリ

歩夢「絶対にまた来ます」

彼方「ありがとね」

811: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:33:46.86 ID:/Lc2DyOy
彼方「──さて、そろそろ帰ろっか」

彼方「歩夢ちゃんは1回ニジガクに戻るの?」

歩夢「そう……ですね。みんな練習してると思いますので」

彼方「そっか」

彼方「いつもごめんね。部長なのにあんまり出れなくて」

歩夢「いえいえ! 彼方さんのタイミング会う時に顔出してくれたら嬉しいので」

彼方「そう? ありがと〜」ナデナデ

歩夢「……」

歩夢(優しい撫で方……安心する)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「何かあったら、いつでも頼って下さい」

歩夢「力になりたいから……」

彼方「……ふふっ」ニコニコ

彼方「歩夢ちゃんの事はいつだって頼りにしてるよ」

彼方「君のおかげで同好会は活発になったし、かすみちゃんやしずくちゃんも、前より明るくなった気がするもん」

彼方「私も同好会の活動楽しいから、本当はもっと沢山出たいし」

812: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:46:53.60 ID:/Lc2DyOy
彼方「同好会の練習、土日もたまにやってるでしょ?」

歩夢「はい。まぁ、結構自由参加な所ありますけれど」

彼方「あはは、ゆるーい感じが私達らしくっていいよねぇ」

彼方「平日は練習出れること多いけど、土日の練習は全く参加できてないからね。今度タイミング見て参加するよー」

歩夢「え? ほんとですか?」

彼方「うん!」

彼方「歌うの好きだからね、私」

歩夢「……」

歩夢(!! ──そうだ)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「来週の日曜日、予定空けてくれませんか?」

彼方「来週の日曜日?」

歩夢「はい」

歩夢「詳細は追って連絡しますので」

彼方「うん! 分かった。予定空けておくね」ニッコリ

歩夢「はいっ」ニコッ

歩夢(少しでも……彼方さんの為に、遥ちゃんの為に。出来ることをやろう)

歩夢(みんなにも、協力してもらおう)

813: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 23:06:55.95 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私、近江彼方はいつも全力です。

全てのことに、全力で取り組んできた。

お料理も、勉強も、運動も、大好きなお料理も。

そして──


遥『うぅ……うぅ……』グスグス

しずく『は、はるかぁ……な、泣きやんでよぉ……』オドオド

彼方『ありゃ? お二人ともどーしたの?』ヒョコ

しずく『あっ、かなたおねーちゃん……』

しずく『えっとね、はるかが大事に育ててたお花がかれちゃったの……』

遥『うぅ……おねぇちゃ〜ん……!』グスグス

彼方『そっか……』

しずく『それで……はるかが悲しそうで……上手く励ますことができなくて……わたしも悲しくなっちゃって……うぅ……!』グスグス

彼方『あはは……優しいお姫様達だなぁ』

彼方『でも……悲しいよね。──よし! 二人とも〜!』

彼方『彼方ちゃんのお歌を聴いて!』

しずはる『え?』


──大好きな歌も、全力だった。

814: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 23:24:52.29 ID:/Lc2DyOy
彼方『♪〜』

遥『わぁ……!!』

しずく『……』ドキドキ


遥ちゃんも、しずくちゃんも私の歌が大好きだったみたい。

私も歌う事が大好きだから、こうやって二人が泣いてる時は、よく歌を歌って励ましていた。

遥ちゃんなんかは特に、私の歌を気に入ってくれて……怖い夢を見た時や不安な時は自分から私の歌をせがむくらいだった。

なんだか、懐かしい。

遥『お姉ちゃん!』

遥『もっとうたって〜!』


ピピピピピピッ!!

彼方「ん〜……」

彼方「……」ポー

彼方「ふわぁぁぁぁああ……」

彼方「あさか……」

彼方「なんか懐かしい夢を見てた気がする〜」

彼方「……」ポケー

彼方「んっ」パチンッ

彼方「よし、眠くない眠くない」

彼方「彼方ちゃんは起きとりますよ〜」

彼方「……あ、違う違う」

彼方「私だ、私」

彼方(立派な大人にならないと……)

彼方(──今日は日曜日で、歩夢ちゃんと約束した日だ)

彼方「部室に集合だったよね?」

彼方「……よし、がんばろー」




816: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 23:53:45.29 ID:/Lc2DyOy
彼方「うーん、良い天気だ」ノビー

彼方(良い練習が出来そうだね)

スタスタ

彼方(よし、そろそろ部室だ)

彼方(みんな私が日曜日の練習に参加したら驚くだろうなぁ)

彼方「えへへ」ニコニコ

彼方(みんなに会えるの楽しみ〜)

ガラガラ

彼方「みんな、おっはよー!」


いつもよりテンションが高くなってしまったのか、自分が思ったよりも大きな声が出てしまった。

落ち着け落ち着け〜?

大人はいつも冷静でないといけないもんね。

そんな事を思っていると、皆から挨拶が返ってくる。

817: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:07:26.17 ID:YL2vnRYy
果林「彼方おっはよー!」

エマ「おはよう彼方ちゃんっ」

しずく「かな姉おっはー!」

かすみ「おはようございます。彼方先輩」

璃奈「おはよ、彼方さん」

せつ菜「おはようございますっ!! 彼方さん!」

愛「おはよーございます! 彼方さんっ」

歩夢「彼方さん、おはようございますっ」

彼方「!!」

彼方(……いつの間にか、こんなに賑やかで)

彼方(明るい同好会になってたんだよね)

彼方(なんとなく作った同好会が、皆と集まれる大好きな場所になって)

彼方(嬉しいな)

彼方「──うん! 皆おはようっ!」ニッコリ

818: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:19:15.70 ID:YL2vnRYy
彼方「ねぇ、歩夢ちゃん。今日は何の練習をするの?」

彼方「集合場所しか連絡なかったし、気になってるんだ〜」

歩夢「あっ、えっとですね。正確には今日は練習の日ではないんです」

彼方「え?」

歩夢「とりあえず、皆で移動します」ニコッ

果林「彼方〜、道に迷わないようにエス……んーと……えっと、エスパーダ……? ん?」

エマ「エスコート?」

果林「そうそれ! エスコートしてあげるね!」

彼方「いや、果林ちゃんの方が道に迷う気が……」

果林「なっ!?」

エマ「あはは、言えてるかも〜」

果林「エマ!?」

彼方「てかてか、移動? 学校外に?」

しずく「まぁまぁ、細かい事はいいじゃんいいじゃん〜」

しずく「着いてからのお楽しみだよ、かな姉!」

彼方「え、えぇ? 気になるよ……」

しずく「ふふっ、歩夢さん」

歩夢「うん?」

しずく「ありがとうね」ニコッ

歩夢「いーえ」ニッコリ

彼方「???」

せつ菜「まぁまぁ、とりあえず早く行きましょ皆さん!」

璃奈「だね」

愛「おっし、皆ちゃんと荷物持ってな?」

かすみ「分かってますよ愛先輩」

彼方「……」ポカーン

彼方(な、何が始まるの!?)

819: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:47:44.23 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「わー!」

「にげろにげろー!」

果林「ちょ、ちょっとぉ! わたしのポーチは大事に扱ってよー!」


愛「ほら、ばーちゃん? 大丈夫か? アタシに捕まって」

「おぉ、お嬢ちゃんありがとうねぇ〜」


璃奈「つまり、積み木はこの角度で重ねる事によってバランスを保つ事が出来てだね」ブツブツ

「そ、そーなんだ」

かすみ「はいはいー、この難しい話をしてるお姉さんは無視して私と遊ぼうね皆〜」


せつ菜「本日は本当に私達のお願いを聞いて頂き、本当にありがとうございます」

「いえいえ! この病院、入院している子供やお年寄りが少し多いからこうやってボランティアしてくれるの本当に助かりますよ」


ワイワイガヤガヤ


彼方「………………」ポカーン

彼方(ここ、遥ちゃんが入院している病院だ……)

彼方「な、何が起きてるの?」

820: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:56:30.15 ID:YL2vnRYy
歩夢「驚いちゃいますよね? ごめんなさい」

彼方「う、ううん。大丈夫なんだけど……」

歩夢「私、結構ボランティア活動に色々参加してるんです」

歩夢「その伝手もあって、ここの病院でもボランティア活動できないかなって色々考えたんです」

歩夢「せつ菜ちゃんや皆にも協力してもらって、学園からの活動としてこの病院の先生に話を通してもらったりもしたんです」

彼方「……」

歩夢「遥ちゃんがお世話になっているこの病院に、何かできることないかなって思って」

歩夢「色々企画しちゃいました」

彼方「!!」

歩夢「勝手なことして、ごめんなさい」ペコリ

彼方「あ、謝らないで? 嬉しいよ歩夢ちゃん! ありがとうねっ」

彼方「でも、ちょっとサプライズ過ぎで驚いちゃったよ」

歩夢「ふふっ。少し驚かせたかった気持ちもあるので」ニコッ

821: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:09:53.95 ID:YL2vnRYy
エマ「皆ー! あつまって〜」

エマ「わたしと一緒に歌って、踊ろう〜?」

「わーい!」

「おどるおどる!」

エマ「無理しないでね〜? かる〜く身体をうごかそうね〜!」

エマ「ララ〜ララ〜ラ ラ〜♪」

「わぁぁぁぁ……!!」


愛「おぉ……やっぱエマさんの歌声ってめちゃめちゃ綺麗だよなぁ」

果林「うんうん。癒されるよね〜」

璃奈「うん。歌には癒し効果があるって聞くけど、エマさんの歌声はとてつもないヒーリング効果がある気がするね」

愛「ははっ、なんか前にもその歌のくだり聞いたな〜」

璃奈「そーだっけ?」


彼方「…………」

彼方(皆、楽しそう)

彼方(歌……かぁ……)

歩夢「彼方さん」

歩夢「一緒に来てほしい所があるんです」

彼方「──え?」

823: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:21:11.17 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「──よし! 色々と準備は終わった」


遥「……………………」


しずく「相変わらず可愛い寝顔ですなぁ遥さんや〜」

しずく「早く起きてよ〜。チューしちゃうぞ?」

しずく「遥が起きたら、遊びに行きたいとこも沢山あるし、紹介したい友達もいるからさ」

しずく「……アタシもバイトして遥や、かな姉の助けになりたいなぁ」


遥「……………………」


しずく「あはは……じょーだんだよ? バイトはダメってかな姉から止められそうだよね〜」

スタスタスタスタ

しずく「お? 来たかな?」

ガラガラ

歩夢「彼方さん、ここです」

彼方「ちょ、ちょっと歩夢ちゃん? ここの病室って……」

しずく「歩夢さん、待ってたよ。ありがとね。準備は整ってますよ〜」

歩夢「うん。ありがとうしずくちゃん」

彼方「ん? んん?」

824: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:31:30.31 ID:YL2vnRYy
歩夢「彼方さん」

歩夢「今日のスクールアイドル同好会の活動は、この病院のボランティア活動です」

歩夢「そして、彼方さんにしてほしいことは」

彼方「う、うん」

歩夢「なんでもいいです」

彼方「え!?」

歩夢「この遥ちゃんの病室で、ボランティア活動が終了するまでの間──何をしても構いません」

歩夢「勉強を進めても大丈夫ですし、ゆっくり休んでもいいです。本当は大好きなお昼寝をしたって大丈夫です」

彼方「!!(な、なんで私が本当はお昼寝好きって知ってるの……?)」

彼方「ど、どうして?」

歩夢「彼方さん、本当に色々忙しいですから」

歩夢「お見舞いだって間の時間を見つけて来てるから、あんまりゆっくり出来てないですよね?」

彼方「それは……まぁ……」

歩夢「だからです」

歩夢「今日は予定、空けてくれたんですよね? 同好会の活動として、今日は自由に……なんでもしていいです」ニコッ

彼方「歩夢ちゃん……」

しずく「簡易的だけど、勉強机もお昼寝スペースも用意したよ。もちろん先生には許可取得済!」

彼方「しずくちゃんも……」

825: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:42:42.38 ID:YL2vnRYy
歩夢「……彼方さん」

歩夢「たまには自分へのご褒美も……用意してあげてください」

彼方「自分への……ご褒美」

歩夢「彼方さんは……本当に凄い人だと思います」

歩夢「遥ちゃんの為に勉強も頑張って、アルバイトもして……同好会にも出てくれて……みんなのライブや練習の手伝いもしてくれる」

歩夢「いつも……本当にありがとうございます」

彼方「っっ」


ふと、涙が出そうになる。

だめだめ、後輩の前で、妹の前で泣いちゃダメだ。


歩夢「……彼方さん」

歩夢「私、願いを口に出して言い続ければ」

歩夢「その願いはいつか叶うと思っているんです」

歩夢「ゆっくりかもしれないけれど、少しずつ」

歩夢「一歩ずつ進んで」

歩夢「いつか願いは叶うと思う」

彼方「……」

歩夢「私は、遥ちゃんが目覚める事を願っています」

歩夢「そして──彼方さんの夢が叶う事も願っています」ニッコリ




826: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:51:20.27 ID:YL2vnRYy
彼方「…………」

遥「……………………」

彼方「いやぁ、平和だね〜」

彼方(こんなにゆっくり出来たの、いつぶりだろ?)

彼方(遥ちゃんの目が覚めなくなってからは……出来てないかなぁ)

遥「……………………」

彼方「……」ナデナデ

彼方「はぁ……可愛いなぁ……」

彼方(ふふっ、こんな日があっても……良いかも)

彼方「……」ボー

彼方(……なんか眠くなってき──)

彼方「!! ──だ、ダメ!」

彼方「私、勉強しなきゃ……」

彼方「遥ちゃんの為に……たくさん……勉強して」

彼方「遥ちゃんが目を覚ます為に」

彼方「医者になるために……!」

彼方「それが私の!」

彼方「──彼方ちゃんのッ!!」



歩夢『私、願いを口に出して言い続ければ』

歩夢『その願いはいつか叶うと思ってるんです』



彼方「!!」

彼方「医者になることが……彼方ちゃんの……願い? 夢……?」

827: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:56:12.30 ID:YL2vnRYy
彼方「……」


──違う。


彼方「……彼方ちゃんの願いは……」

彼方「遥ちゃんが……目を覚ましてくれる事……」

彼方「……」

遥「……………………」

彼方「……遥ちゃん」

彼方「目を覚ましてよ」

彼方「……彼方ちゃんは、遥ちゃんと一緒に歳を取りたいよ……」

彼方「……だから……目を覚まして?」

遥「……………………」


──違う。覚まして? じゃない。


彼方「…………」

彼方「──遥ちゃん」

彼方「目を覚ますって──信じてるから」

828: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:02:26.22 ID:YL2vnRYy
──今は何をしたって、構わないかぁ。

彼方「……歌」

彼方「歌いたい」


今は思い切り、大好きな歌を──全力で歌いたかった。

そう、彼方ちゃんはいつも全力なのです。


彼方(昔、遥ちゃんは彼方ちゃんの歌が大好きだった)

彼方「全力で、たくさん歌うね」

彼方「聴いてて。遥ちゃん」

彼方「──」スゥゥゥゥ


昔、遥ちゃんが好きだった曲や、最近流行りの曲。同好会の皆の歌も、覚えている範囲で沢山歌った。

──時間は少しずつ経ち、気が付けば夕暮れ時になっていた。

829: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:07:41.35 ID:YL2vnRYy
彼方(もうすぐ、ボランティア活動も終了かな)

彼方「はは……ずっと歌ってた気がする」

彼方「こんなに歌ったのいつぶりだろう?」

彼方「今日は久しぶりの事が多いや」

遥「………………」

彼方(次が──最後の曲)

彼方「遥ちゃん」

彼方「今から歌うのはね、最近作った曲なんだ〜」

彼方「遥ちゃんにだけ、初披露しちゃうね?」

彼方「えへっ」ニコッ

彼方「──」スゥゥゥゥ

830: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:10:39.79 ID:YL2vnRYy
【Butterfly】

831: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:19:48.46 ID:YL2vnRYy
♪〜

──ねぇ、遥ちゃん。


彼方「一人きりじゃ もう」

彼方「両手いっぱい」

彼方「広げても」

彼方「まだ」


──彼方ちゃんは、遥ちゃんがいないとダメなの。


彼方「足りないほどに」

彼方「大きな Dreams」

彼方「いま」

彼方「一緒に」

彼方「抱きしめよう」


──遥ちゃん。


彼方「Butterfly」

彼方「羽を 広げたら」

彼方「ハルカカナタ」

彼方「勇気の向こうに 美しい空」


──いつか目を覚ますって、信じてるから。


彼方「待ってるの──」

832: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:23:47.42 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「……いやぁ……」

彼方「歌い過ぎて……喉痛い」

彼方「全力で歌い過ぎちゃったよ……あはは」

遥「……………………」

彼方「さて、と」

彼方「そろそろみんなの所に戻るよ」

彼方「また来るね、遥ちゃん」

遥「……………………」


立ち上がり、身支度を整える。

遥ちゃんに背を向けて、扉に向かって歩く。






──後ろから声が聞こえた気がした。

833: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:27:10.14 ID:YL2vnRYy
「──ぃ──ん……?」



彼方「……へ?」


聞き覚えのある声だった。

──大好きな子の声。

私は、振り返り──声の主を見つめた。

834: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:29:03.74 ID:YL2vnRYy
彼方「──────」

彼方「うそ」



遥「おねぇ……ちゃん?」



彼方「遥……ちゃん……?」

838: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:38:39.95 ID:YL2vnRYy
彼方「うそ……うそ……」

遥「あれ……な、んで私……あれ?」

遥「それ、に……声、出し……辛い」

彼方「──は、遥ちゃん!?」

彼方「遥ちゃんッ!!」

バッ!!

──ギュッ!!

遥「!?」

彼方「よかった……よかった……!!」

彼方「遥ちゃん……良かったよぉ……!!」ポロ、ポロ

遥「お、おねぇ、ちゃん?」

彼方「ひっぐ……!! は、遥ちゃん……っ……遥ちゃん!!」ギュュュュ

遥「???」

839: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:45:47.74 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

遥「──って事がこの前お見舞いに来てくれた時にあってね?」

遥「お姉ちゃんったら、私の事全然離してくれないんだよ? もうベッタリなの……」

しずく「えー、いいなぁ。羨ましい」

遥「嬉しいけど! やっぱ少し過保護過ぎるよ……」

しずく「あはは! まぁかな姉らしいじゃん」

遥「そうなんだけどさぁ……」

しずく「ところでさ遥」

遥「ん? しーちゃんどうしたの?」

しずく「もーすぐ退院だけど、目を覚まさなかった時の事とかってやっぱり覚えてないの?」

しずく「ずっと寝てたんだし、なんか夢とか見てないのかなぁって」

遥「夢……かぁ……」

遥「うーん……あんまり覚えてないなぁ」

しずく「ですよねー」

841: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 03:01:23.79 ID:YL2vnRYy
遥「……」

しずく「どしたの遥? ぼーっとして」

遥「あっ、ごめん」

遥「……少しだけ、なんだけどね」

遥「ぼんやりとなんだけど、何かを体験してた気がするの」

しずく「へ?」

遥「夢……なのかな?」

遥「なんだろ……あんま覚えてないんだけど……なんかね」

遥「その夢? その中ではね、自分の周りの環境が全然違うの」

遥「私の知り合いや友人もいたんだけど……私の知る人とは少し別人みたいになっててね?」

しずく「別人みたいになってる……?」

遥「私の生まれた環境も違くて……」

しずく「う、うん」

遥「……なんか」

遥「自分なんだけど、自分じゃない。別の自分の人生を」

遥「──体験してきた気がするの」

842: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 03:02:20.70 ID:YL2vnRYy
【Members walking together】

【NEXT】

【桜坂しずく】

843: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 03:02:40.53 ID:YL2vnRYy
つづく。


引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1620824611/
you fooder
どうなっちゃうの・・・