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2: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:47:15.33 ID:zrJRrmD90
μ'sはこの大会が終わったらおしまいにする。

私たちでそう決めて、一通り部の引き継ぎも済ませていたのに、結局春休みまで活動してしまったわね。


でも、今日で本当におしまい。

大会運営の厚意で、夏と冬のラブライブそれぞれの優勝チームを招待して、アキバドームでライブを行うことになったから。
午前がA-RISE、午後がμ'sのラストライブってわけ。

信じられない話よね。
私たち日本一っていっても、所詮は部活でやってるスクールアイドルなのに。
とんでもないスケールになってきちゃった。



……今度こそおしまいだってば!
そっちは信じなさいよ!スクールアイドルは卒業まで続けるけど!!

3: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:48:06.28 ID:zrJRrmD90
とにかく。

私は、西木野真姫は絶対に忘れない。

私たちの、9人の奇跡を。





「楽しくなかった」




そして、最後にして最低の、点睛を欠く物語も。

4: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:48:42.92 ID:zrJRrmD90
ライブが終わったあとの控室。

大歓声から距離を置き、みんながみんな、思い思いに笑ったり泣いたりするはずの場所。


だけど私も、他の誰も笑ってない。
かといって、泣いてもいない。


どうしたらいいのか、誰にもわからない。
そんな顔で、ただ黙って、お互いを見つめ合っている。



花陽「打ち上げとか、したいね?」



沈黙に耐えかねたのか、着替えが終わった花陽がぽつりとつぶやいた。
その言葉に、にこちゃんが首を振る。


にこ「ううん。いい。やらなくていいわ」


にこ「どの口が言うんだって感じだけどね。立派だったわよ、花陽」

花陽「……ありがとう、にこちゃん」

5: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:49:12.55 ID:zrJRrmD90
凛「かよちん」

花陽「凛ちゃんも、応援してくれてありがとね」

凛「うぅん……」



重い。

明るく振る舞っているけれど、言いたいことを沢山飲み込んでから、話しているのがわかる。

6: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:49:50.33 ID:zrJRrmD90
絵里「希」

希「うん。えりち」

絵里「私、なんだかすっきりしちゃった。やりきったなって気がするの」

希「ウチもや。ほんま、楽しかったなぁって。だからもう、思い残すことなんかなんもないよ」

絵里「そうね。こんなに幸せだと、ちょっと怖くなっちゃうくらいかも」


本当は、モヤモヤしてるくせに。
もう1回、やり直したいくせに。

顔を立てて、あえて触れないように立ち回る。


その笑顔が、痛々しくて見てられない。

押し黙っている私に、こんなこと思われたくなんてないだろうけれど。

7: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:50:26.16 ID:zrJRrmD90
ことり「じゃあ、これで本当に終わりなんだね」

海未「ええ。そうですね。今日はこれで各自解散に」



穂乃果「そんな……!」


穂乃果「そんなのダメだよっ!!」


後に続いたことりと海未の会話に、耐え切れなくなったように穂乃果が叫んだ。

8: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:50:57.37 ID:zrJRrmD90
穂乃果「こんなの、全然楽しくないもん!」

今にも泣き出しそうな声で、彼女は訴える。


穂乃果「みんなで歌って、踊って、全員がセンターで!そうやってここまで来たんだよ!?なのにこんな終わりかたじゃ……」

ことり「穂乃果ちゃん、落ち着いて」

穂乃果「やだよっ!!穂乃果は認めない!このまま終われないよっ!!花陽ちゃんが、一番そうでしょ!?」

花陽「そっ、それは……」

穂乃果「だって、せっかくここまで頑張ってきたのにさ……!まだみんなが見れてないうちに、諦めちゃうなんて間違ってる!」

9: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:51:42.08 ID:zrJRrmD90
穂乃果なら隠さず言うだろうと、強がったりしないだろうと、おそらく全員が思っていた。

ひとりだけここに、あのステージに置いてけぼりになるような、こんな幕引きでは納得できないと。

流れを変えてくれると。





花陽「そうだね……でも、これでよかったんだと思うな」


でも、当の本人に響きはしなかったみたいね。

10: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:52:19.87 ID:zrJRrmD90
花陽「みんなのおかげで、最高に楽しい時間を過ごすことができたから。私は十分幸せ者です」

花陽「センター曲の時だって、みんなの色でドーム中を飾ってもらえたの、すごく嬉しかったよ」

花陽「帰ろ?明日もまだお休みだけど、たまには家でゆっくりしないと」



まるで何もなかったかのように、笑顔でそう言った。

「これ以上追及しないで」という、らしくないメッセージを滲ませながら。

11: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:52:56.49 ID:zrJRrmD90
このまま9人でいても、花陽の心の内を知ることはできない。
ひとまず解散するフリをして、バラバラに帰路につくことにしたわ。




海未「さぁ……開心アタックといきましょうか」

真姫「ネーミングセンス」



花陽の追跡担当を勝ち取ったのは私と海未。

誰も引こうとしなくて、チケット争奪戦ばりに激しい戦いだったけれど、実績に物を言わす形で勝ち取ってやったわ。

餅のことは餅屋に、曲のことは作詞作曲に任せなさいってね。


花陽ちゃんはお餅じゃないよ!っていうボケにはつっこまないでおいた。

12: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:53:55.01 ID:zrJRrmD90
花陽「………」


まっすぐ家に帰らず、どこへ向かうでもなく、ふらふらと秋葉原の街を歩く彼女を見つけるまで時間はかからなかった。

少し遅れて追いかけていた私たちも合流することになる。



海未「花陽」

声をかければ、びくりと震えて立ち止まる背中。

振り返らないまま、彼女は口を開く。


花陽「……どうして、ついてきちゃったの……?」


弱々しく震えた声。

まだ何かを隠している声。




海未「傷の舐め合いをしに来ました」

花陽「な、なめあい?」

真姫「海未、言い方」

海未「ですが、実際そうでしょう?」

真姫「……そうね」

13: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:54:53.79 ID:zrJRrmD90
思っていたのと、ちょっと違う……と困惑する花陽をよそに話を進める。


真姫「花陽。μ'sとして最後のライブ、楽しかった?」

花陽「……うん。楽しかったよ。最後までみんなでやれて、本当に良かった」


真姫「嘘でしょ」

花陽「え……」


真姫「そんなわけないじゃない。あんな風に無理して笑うくらいなら、泣いてくれた方がありがたいわよ」

海未「まったくです。あなたが泣いてくれないと、私たちもやりづらいんですよ」

14: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:55:33.59 ID:zrJRrmD90
真姫「私は、全然楽しくなかったわ」

真姫「なんというか……ギャラリーだけ盛り上がって、不完全燃焼って感じね」


花陽「ごめんね」

真姫「なんで謝るのよ」

花陽「私がちゃんとできてたら、そんなことにはならなかったはずだから……」

真姫「なによそれ。花陽はちゃんとしてたわよ。誰がどう見たって最高だった」

花陽「でもっ……!」


真姫「でもじゃないの。あなたは私が見込んだ通りの、綺麗な声で会場を魅了し続けたわ」

真姫「それってつまり、失敗したのは曲の方ってことでしょ?」

15: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:56:33.75 ID:zrJRrmD90
真姫「花陽がセンターを張るに値する曲を、私には用意できなかったんだって思うと、悔しくて仕方ないのよ」

真姫「わたしの作る曲全てが、メンバーみんなのための曲だったのなら、こんなことにならなかった」

花陽「真姫ちゃんは、そんなこと……」



海未「左に同じく、私も真姫と同感ですね」

16: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:57:18.60 ID:zrJRrmD90
海未「今日のライブが素晴らしい出来栄えであったことは認めます」

海未「ですが、それはあくまで客観的な評価であって、表現者である私自身は満足できていないんです」

海未「私の書いた歌詞では、あなたの魅力を引き出し切ることができなかった。ドームを包む拍手や歓声が逆風となって、私の胸を突き刺してきたんです」

海未「口が裂けても、楽しかったとは言えません。それが私の正直な感想です」


花陽「海未ちゃんまで……2人とも、そんなこと言わないでよ……」

海未「いいえ、言わせてください。これがさっきは言えなかった本心なのですから」

真姫「そうよ。花陽が全然泣こうとしてくれないから、ずっと我慢してたんだからね」

17: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:58:36.62 ID:zrJRrmD90
私たちが悔やんでも悔やみきれない思いを吐露する中、花陽は黙って聞いていた。


けれどその沈黙を破ったのもまた、彼女の言葉だった。



花陽「……違うもん」

真姫「何が違うって言うのよ?」

花陽「曲は関係ないよ!やっぱり、あれは私のせいだったの!!」

18: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 21:59:28.91 ID:zrJRrmD90
珍しく感情をあらわにして叫ぶ彼女を見て、思わずたじろぐ私と海未。

そんな私たちをよそに、彼女はなおも続ける。



花陽「私は終盤だから、最後の新曲に温存しようって、偉そうに自分でトロッコを提案したんだもん!」

花陽「緑のペンライトだけを振ってもらえないなんて、一色に染まらなかったなんて、当然だよ!私は、自分から真ん中に立とうとしなかったんだから!」

花陽「今までもずっとそうしてきたのに、最後の最後だけ、今日のドームだけは私も緑に染めてもらえるだなんて、虫がいいにも程があるよね!?」

花陽「そもそも、そうしなきゃいけないって、決まりはないんだよ?ライブを観るお客さんは好きな色を使って、いいの」

花陽「なのに私ったら……わたしったら……っ……」

19: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 22:01:14.36 ID:zrJRrmD90
わずかに涙をこぼし始める花陽

いつも誰よりも素直である彼女が、今日は今、初めて本音で話してくれたような気がした。


真姫「花陽。そういう感じじゃ、いつまで経っても終わらないわよ」

海未「そうです。責任の所在を追求しに来たわけではありません」

海未「けれど、残念ながら花陽の想いを受け止める包容力も、持ち合わせてはいませんが」


花陽「……じゃあ、何をしに来たの……?」グスッ

海未「はじめに言ったでしょう?傷の舐め合いをしにきた、と」




真姫「花陽、もう一回聞かせて」


真姫「最後のライブ、μ'sがどうとか、ファンがどうとかは抜きにして」

真姫「花陽は、楽しかった?」

20: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 22:03:03.24 ID:zrJRrmD90
花陽「…………なかった」



花陽「楽しくなかった。あんなにつまらなくて寂しいライブ、生まれて初めてだったよ」

花陽「認めて、ほしかった。私もμ'sのひとりだって。センターだって、認めてもらい、たかった」

花陽「9色の光が、私はセンターの器じゃないって、否定してるみたいで、辛かった」

花陽「オレンジ、白、黄色、ピンク、水色、紫。赤と、青も……他の8色に染まる客席を思いだして」

花陽「みんなのこと、自分勝手に恨んじゃいそうで、私が、嫌になっちゃった……!」ポロポロ

21: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 22:05:10.01 ID:zrJRrmD90
真姫「……」チラッ

海未「……」コクッ

ぎゅっ



海未と2人がかりで、泣きじゃくる小さな王様を抱き寄せる

それでもって、私たちも涙を流す。



だって、嫌じゃない。

むこうはそう思ってなくったって、私たちの作りあげた曲のせいで、目の前で古参ファンがひとりぼっちで、泣いているのだから。


もっと胸の大きい、ふかふかの2人が良かっただろうけど。
この際私たちで我慢してよね。

22: 名無しで叶える物語(はんぺん) (ワッチョイ 831e-m8r8 [180.196.0.246 [上級国民]]) 2023/09/07(木) 22:06:24.94 ID:zrJRrmD90
もう、こんなのどうしようもないわね。

偉大な音楽家も、なんでも治す名医も、さじを投げる一択。



辛くても泣くななんて言わない。無理に笑えとも言わない。無責任にどうにかなるとも言わない。


今はめいっぱい泣いて、明日から頑張ればいい。



夜明けは……いつか必ず来るわ。

その時は、きっと緑に照らしてやりましょう。



愛と平和は誓いの歌、ってとこね


おわり

23: 名無しで叶える物語(茸) (スップ Sd1f-DXXC [49.96.236.82]) 2023/09/07(木) 22:14:17.31 ID:yeRNEL5yd

良かった

引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1694090775/
you fooder
悲しい話だね・・・