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193: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:19:22.09 ID:F+U1m/vI
【第6話】『DIVE、なりたかった私』


善子 「って、わぁぁぁぁ!? もうこんな時間、配信の準備しなきゃ!」


優木せつ菜と名乗る女性を家に招き入れ、シャワーを浴びせたり着替えを用意したりしていた善子は、日課である配信の時間が迫っていることに気づいていなかった。


せつ菜 「配信?」

善子 「私、毎日ぎしk……生配信をしてるのよ」

せつ菜 「そうなんですか。私に手伝えることはありますか!?」

善子 「て、手伝い?」

せつ菜 「はい! 助けていただいたお礼をさせてください」

善子 「そうねぇ……じゃあ、私の眷属役をやってくれないかしら」

194: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:20:46.08 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「眷属、ですか。具体的にどのようなことをすれば?」

善子 「時間が無いから説明は省くわ! ノリで合わせて!」

せつ菜 「えぇっ!? そ、そんな……」


慌てるせつ菜をよそに、善子は配信開始のボタンを押す。


善子 「感じます……精霊結界の崩壊が、この世の理を乱していくのを……」

せつ菜 「へ? えっと……?」

善子 「そして此度、我が下に新たな眷属を召喚した。その名も……!」


善子がせつ菜に目線を送る。


せつ菜 「あ、えっと……初めまして! 優木せつ菜です!」

195: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:21:52.85 ID:F+U1m/vI
善子 「ちょ、ちょっと! 本名はマズイわよ……!」

せつ菜 「それなら大丈夫です。せつ菜は芸名みたいなものですから」

善子 「え、そうなの? って、そうじゃなくてもっと眷属っぽい……」


その瞬間、ブツンッとなきゃの電源が落ちる音が聞こえた。善子が慌てて振り返ると、どうやらPCの電源が落ちたようだった。電源を入れ直そうとするが、謎のエラーが出て立ち上がらない。


善子 「ちょ、なんなのよ突然! こんなこと一度もなかったのに!」


善子が必死に直し方を調べながら復旧にあたるが、一時間ほど経っても、直る様子はなかった。


せつ菜 「……ごめんなさい。多分、私のせいです」

196: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:22:41.41 ID:F+U1m/vI
善子 「どうしてよ? あなたパソコンに指一本触れていないじゃない」

せつ菜 「私、本当に不運ですから……」


善子がきょとんとしていると、インターフォンが鳴った。玄関扉を開けると、見慣れた顔が三人分、なだれ込んできた。

千歌、曜、梨子の三人だった。


善子 「ちょ、なんなのよ突然!?」

千歌 「せつ菜ちゃん! まだいる!?」

善子 「せつ菜? あぁ、それなら……」

せつ菜 「わ、私がなにか……?」

197: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:23:50.68 ID:F+U1m/vI
せつ菜がひょっこり顔を出すと、千歌の瞳がキラキラと輝く。


千歌 「わぁぁぁぁ!!! せつ菜ちゃん、本物だ! これはもうキセキだよー!!」

善子 「なによ、千歌この人のこと知ってるの?」

梨子 「何言ってるのよっちゃん!? あのせつ菜さんだよ!?」

曜 「麻雀やってるのにせつ菜ちゃんを知らないって……善子ちゃんらしいといえばらしいけど」


せつ菜はただ、三人の勢いに圧倒されていた。


千歌 「私は高海千歌! 浦の星女学院で、麻雀部の部長をやってます!」


千歌に続いて、曜と梨子が自己紹介をする。善子も含め、全員が麻雀部の部員だった。

198: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:26:09.08 ID:F+U1m/vI
曜 「善子ちゃんの配信を見てたら、せつ菜ちゃんが映ってて、慌てて飛んできたんだ」

千歌 「私たち、せつ菜ちゃんの大会の配信を見て、麻雀を始めたんです!」

せつ菜 「…っ」


せつ菜の脳裏をよぎったのは、侑の言葉。


侑 『はじめまして! あのっ、私せつ菜ちゃんの対局を見て大ファンになって、それで麻雀を始めて!!』


せつ菜 「…………ありがとう、ございます」


千歌が盛り上がっている最中、善子はせつ菜の動画をスマホで検索して見ていた。せつ菜を見る目が、一瞬にして尊敬の眼差しに変わる。

199: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:28:00.77 ID:F+U1m/vI
千歌 「あの、もしよかったら対局しませんか?」

せつ菜 「……ごめんなさい。きっと、みなさんが期待しているような麻雀は打てませんから」

曜 「もしかして炎、あれ以来……」

せつ菜 「…はい。知ってたんですね」

善子 「えっ、何かあったの?」

せつ菜 「あの大会の日。私の炎は尽きたんです。もう二度と、あのように熱い麻雀は打てません」


せつ菜 「……それでも、私と打ちたいですか?」

千歌 「え? うん、もちろん」

せつ菜 「へ?」


千歌は「当たり前じゃん」と言いたげな目で、首を傾げた。予想外の返答に、思わず変な声が出るせつ菜。

200: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:29:32.54 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「ど、どうしてですか? さっきも言いましたが、私はもう炎が…」

千歌 「そんなの関係ないよ。私たちはあなたと打ってみたい。それだけだよ」

せつ菜 「……っ」

千歌 「ほら、行こいこ!!」

せつ菜 「えぇっ!? ちょっと、行くってどこへ!?」

千歌 「部室!! 雀卓そこにしかないから!!」

せつ菜 「へぇっ!? ま、待ってください~!!」

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201: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:30:56.46 ID:F+U1m/vI
~部室~


善子 「……はぁ、やっぱり私の負けね」

曜 「四人でじゃんけんして一発負けって、ある意味才能だよね善子ちゃん」

善子 「う、うっさい!」

梨子 「そんなに怒らないでよっちゃん。この半荘が終わったら代わってあげるから」


じゃんけんの結果、せつ菜と打つのは千歌、曜、梨子の三人に決まった。


《対局開始》
東家:せつ菜 南家:曜 西家:千歌 北家:梨子


東一局、せつ菜の親。ドラは五

202: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:33:04.42 ID:F+U1m/vI
1巡目──。

善子(な、何よこれ……)


せつ菜の配牌を後ろで見ていた善子は、血の気が引くのを感じた。


せつ菜 配牌
二三四五六23678❷❸❹ ツモ:五


せつ菜 「……リーチ」 打:六

千歌 「お、親のダブリー!?」


善子(何が『炎は尽きた』よ。配牌で高目三色のテンパイ。しかもドラドラ……)

曜(これがあの…“優木せつ菜”の麻雀っ!)

203: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:35:09.93 ID:F+U1m/vI
……しかし、違和感は徐々に他の三人も感じることとなる。


16巡目──。

せつ菜 「……。」 打:7

善子(うぅ、もう! いつになったらツモれるのよ! ていうか、2-5くらいなら他家から出てもおかしくないでしょう!?)


千歌 「…あっ、ツモ!」

千歌 ツモ
八八八789❶❷❸❻❼❾❾ ツモ:❽
ツモのみ / 300-500


善子 「あっちゃー、せっかくの倍満まで届くダブリーだったのに」

せつ菜 「…これも、麻雀のイタズラですね」

曜 「え?」

204: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:37:14.10 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「こんな手が入ったのも、麻雀のちょっとしたからかいなのかも知れません。善子さん、王牌を捲ってみてください」

善子 「王牌を?」


善子は残った卓上に残された王牌を捲る。


善子 「えぇっ!?」

王牌
25四5❽西南2
52四❶5東發2

せつ菜 「…やっぱり」

善子 「そんな…待ちの2-5が、全部埋まってる…」


──せつ菜の麻雀は、見るに堪えないほど、酷い有様だった。
後ろで観戦していた善子の顔が、局が進む事に引きつっていく。

205: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:39:56.18 ID:F+U1m/vI
東三局、千歌の親。ドラは❷


9巡目──。

せつ菜 手牌
一三五六七13❸❹❺❻❼ ツモ:❼


善子(一三と13のカンチャン選択ね。どっちを落とすか……)

せつ菜 打:三

善子(一三を落としにいったわね。でもこの流れだと、多分……)


次巡──。

せつ菜 手牌
一五六七13❸❹❺❻❼❼ ツモ:二


せつ菜 「…っ! くっ……!」 打:二

206: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:42:37.55 ID:F+U1m/vI
善子(やっぱり裏目。東一局からずっとこう。結果論と言えばそうだけど……)


次巡──。

せつ菜 手牌
一五六七13❸❹❺❻❼❼ ツモ:四


善子(…っ! また裏目。こうも続くとさすがに…)

せつ菜 打:四

千歌 「……ロン」

善子(あぁっ…親への放銃。よりによって……)


せつ菜 「……幻滅したでしょう?」

善子 「え……?」

207: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:45:21.13 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「炎を失った今、私は力も運も、全部無くしてしまったんです」

善子 「…自分のことを不運だって言ってたのは、そういうことだったのね」

せつ菜 「もうあの頃のように、強くて熱い麻雀は打てません」


せつ菜 「──優木せつ菜は、もういないんです」


千歌 「せつ菜ちゃん…」

せつ菜 「だから同好会を離れて、ここまで旅に出たんです」

曜 「どうして沼津だったの?」

せつ菜 「私の象徴は“炎”でした。だからその正反対である“海”の近くでなら、新しい私が見つかると思ったんです」

208: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:48:35.72 ID:F+U1m/vI
千歌 「新しいせつ菜ちゃん……」

せつ菜 「みんなが期待している“優木せつ菜”の麻雀が打てなくても、新しい自分のスタイルが見せられればと」


せつ菜 「でも結局、“優木せつ菜”に一番固執していたのは、私自身だったんです」


善子 「せつ菜……」

せつ菜 「あの頃のような麻雀が打ちたい……。でももうそれは…っ……二度と叶わないっ!!」

せつ菜 「もう強くもなんともない…っ!! 魅せる麻雀も打てない…っ!!」

せつ菜 「だんだん、自分がどうしたいのか分からなくなってきたんです。…それにもう、私は麻雀に向いてないんじゃないかって…………」

209: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:50:52.88 ID:F+U1m/vI
千歌 「…………私ね」

せつ菜 「…?」

千歌 「私、せつ菜ちゃんの対局を見て、麻雀を始めたって言ったよね」

せつ菜 「…はい。ですが、もうあの炎は」

千歌 「炎に魅せられた訳じゃない。あぁいや、もちろんそれも凄かったけど…」


千歌 「せつ菜ちゃんの姿を見て、“楽しそうだなぁ”とか、“やってみたいなぁ”って。素直にそう思ったんだ」

せつ菜 「楽しそう…?」

千歌 「自分に向いてるか、とか。どうでもよかった。ただただ、麻雀を打ってみたくなった」

曜 「何かにハマると千歌ちゃん、誰も抑えられなくなるから」

210: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:53:56.42 ID:F+U1m/vI
梨子 「本当。いつも振り回されっぱなしなんだから」

千歌 「…私ね、ずっと麻雀を打っても、せつ菜ちゃんみたいに炎が出たり、彼方ちゃんみたいに夢を見せたり、そういう特別なことは何も出来なかった」

せつ菜 「そうでしたか……」

千歌 「でもね、麻雀を始めたこと、後悔なんてしたこと一度もない」

せつ菜 「え…?」

千歌 「麻雀を始めたからこそ、今こうやってみんなに出会えてる。こんなに素敵な時間を過ごせてる」


千歌 「私今……最っ高に楽しいんだ!!」

せつ菜 「っ…!」

211: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 18:59:08.49 ID:F+U1m/vI
『私の夢は、麻雀の楽しさを多くの人に知ってもらうことです』


せつ菜(……そうだ。私も最初はそれで十分だった。なのに、どうして)

曜 「ねぇせつ菜ちゃん、知ってる? 最近虹ヶ咲学園の同好会が、新しい試みを始めてること」

せつ菜 「いえ…距離をとるようにしてましたから」

曜 「ほら見て。動画投稿サイトに、毎日アップされてるんだよ、対局動画」

せつ菜 「対局動画……ですか」


曜のスマホに映し出されたのは、懐かしい面々。
それに、新たな仲間たち。

212: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:05:15.43 ID:F+U1m/vI
かすみ『やっほ~! みんなのプリンセス、中須かすみで~す!!』

愛『今日はアタシとりなりー、歩夢とかすかすで対局していくよー!』

かすみ『ちょっと! かすかすって呼ばないでくださいって何度言えば…!!』


せつ菜 「みなさん…」

梨子 「すごく楽しそうね、この子たち」

曜 「大人気なんだよ。今ではファンクラブなんかもあるみたいで…」


かすみ『今日もみなさんに、楽しい麻雀をお届けしますよ~!!』


せつ菜 「…っ! かすみさん……」

213: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:09:17.11 ID:F+U1m/vI
かすみの言葉で、せつ菜はハッとする。


せつ菜(…そうでした。私はかすみさんに。想いを受け継いで欲しいと言っておきながら)

せつ菜(…私自身が、その事を忘れていました)


──期待されることは、嬉しかった。

だけどいつの間にか、それが全てになっていた。

自分が大好きだった麻雀を楽しむことが、二の次になっていた。


せつ菜 「……もう“優木せつ菜”に、こだわらなくていいんですね」


せつ菜 「私は、私が楽しくなれる麻雀を打ちます。そしてこの“大好きの気持ち”がいつか、みんなに届くように」

214: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:12:25.37 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「そんな麻雀が打てる私に、生まれ変わるんです!!」

千歌 「せつ菜ちゃん…」


せつ菜 「ありがとうございます…みなさん。おかげで気付くことが出来ました。なりたかった私に」

曜 「違うよ。気がつけたのは、せつ菜ちゃんの熱い想いがあったからこそだよ」

せつ菜 「曜さん…」


千歌 「…ねぇ、海に潜ってみない?」


せつ菜 「えっ、海…ですか?」

千歌 「うん。新しい自分を見つけるには、うってつけの場所だと思う。今まで見たことのない景色を、見せてあげるよ」

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215: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:16:02.19 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「うわぁっ……!! なんですかこれ…!」

曜 「綺麗でしょ? 沼津に来たんなら、海には入らないと」


始めて潜った海。そこはまさに新世界だった。


せつ菜(…感じる。全身で波の動き、勢いを)

せつ菜(これが…潜るという感覚。やっぱり、ここに来て正解でした)

せつ菜(ここでなら、新しい私がきっと…!)


水面に顔を出した五人は、自然と笑いあっていた。


梨子 「…ねぇ、せつ菜ちゃん。海から出たら、もう帰っちゃうの? 虹ヶ咲に」

せつ菜 「いえ、もう少しここに残ろうと思います。ここで新しい私を…なりたかった私を探したいんです」

千歌 「…そっか」

216: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:20:29.92 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「それにもう、私は“優木せつ菜”ではありませんよ」

善子 「どういうこと?」


せつ菜は大きく息を吸って、空へと向かって吠える。


「私は──中川菜々ですっ!!!」


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つづく

217: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:24:46.97 ID:F+U1m/vI
【キャラクター紹介.6】

優木せつ菜

『自身に与えられる幸運を、前借りする』能力。


道で100円玉を拾う、駅に着いた瞬間電車が来る。そういった、将来自分に訪れる小さな幸運を、今自分が打っている麻雀に使うことが出来る能力。

能力名だけ聞くと麻雀以外にも使えそうだが、対局中以外に行使できないようになっている。

前借りなので、もちろん使った分だけ将来自分に訪れる幸運は少なくなる。前話、散々な目にあっていたのもこの為である。

能力を行使すると、自身の運が炎として具現化し、手役の高さに応じて炎の勢いも変わる。


尚、使った運は『優木せつ菜として生きた場合』の運であるため、中川菜々として生きることを選んだ後、運は人並みに戻っている。

218: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/11(木) 19:29:03.05 ID:F+U1m/vI
次回 第7話『能力、それは適性か』

219: 名無しで叶える物語(たこやき) 2021/02/11(木) 19:52:54.02 ID:S4uR+T7j
千歌ちゃん達も出てた。千歌ちゃん達はとくに能力とかなくて普通なのか

221: 名無しで叶える物語(八つ橋) 2021/02/11(木) 21:26:43.72 ID:qpj7QxYZ
Aqoursも登場して熱い展開だあ
菜々は別の能力っぽいのか

引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1612522095/

第7話へ続く

you fooder
がんばれー!