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223: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:05:49.82 ID:zIfTu9pN
【第7話】『能力、それは適性か』


~夜 エマの部屋~

エマ 「それでね、毎日麻雀の対局配信をすることにしたんだ。一ヶ月続けたら、どんどん視聴者さんが増えてきたんだよ」

果林 「そう、良かったわね」

エマ 「麻雀のイメージを変えて、楽しさを広める。それが同好会の新しい目標なんだ」

果林 「…楽しさ、ね」


果林 「麻雀を心から楽しめるのは、勝てる人だけよ」

エマ 「えっ…?」

224: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:06:52.16 ID:zIfTu9pN
果林 「同好会の子たちは、確かにみんな強いわ。それは配信を見てればわかる」

エマ 「うん。みんな毎日勉強してるから」

果林 「勉強…ね。あの子たちの強さは、生まれ持ったもののように見えるけど?」

エマ 「そんなことないよ。かすみちゃんだって、最初は全然勝てなかったけど…」

果林 「そういうことじゃないの。視聴者の人がそう感じるってことよ」

エマ 「視聴者の人が?」

果林 「あの圧倒的な強さを見て、果たしてどれだけの人が『私もやってみたい』と思うかしら?」

225: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:08:07.27 ID:zIfTu9pN
果林 「“私みたいに”弱い人はね、あなた達みたいに麻雀を楽しめないのよ」

エマ 「そんなこと……ない」

果林 「いつか分かるわ。弱い人の気持ちに、少しは寄り添ってみなさい?」

エマ 「…果林ちゃん、同好会に入ってみない?」

果林 「遠慮しておくわ」

エマ 「果林ちゃん……」


果林 「麻雀に嫌われている私が入ったら、みんなに迷惑でしょう?」


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226: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:09:08.84 ID:zIfTu9pN
かすみ 「あ…………あぁ………」

愛 「ぶちょー、どうしたの? 扉の前でそんなに項垂れて」

璃奈 「早く入ろう。麻雀、打ちたい」

かすみ 「愛先輩、りな子……見て……」

愛 「見るって何を……」

璃奈 「あれっ? 麻雀同好会のプレートが、無くなってる」

愛 「本当だ!? まさか盗まれた…?」

227: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:09:53.53 ID:zIfTu9pN
璃奈 「あ、扉に紙も貼ってある。えっと……」


璃奈 「はいぶ、つーちしょ」

愛 「ハイブツーチショ?」


「「廃部通知書ーーーっ!!!?!?」」


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228: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:11:01.20 ID:zIfTu9pN
~生徒会室~


栞子 「…なんですか。勢揃いで」

かすみ 「なんですかはこっちのセリフです!! なんですかこの通知書!!」

栞子 「見ての通りですが」

侑 「どうしてですか? 賭け麻雀は辞めさせましたよ? そしたら廃部は撤回するって……」

栞子 「そうですね。確かに賭け麻雀は無くなったと、報告を受けました」

しずく 「ならどうして…!?」

栞子 「あなた方の“自作自演”である可能性が捨てきれないからです」

侑 「自作自演……?」

229: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:11:54.32 ID:zIfTu9pN
栞子 「あなた方が賭け麻雀を行っていて、私たちに警告されたタイミングで辞めた。その可能性もあるということです」

侑 「そんな……」

栞子 「実際、私が警告をしてすぐ、賭け麻雀が無くなったと報告を受けました。あまりにも出来すぎです」

かすみ 「かすみん達が辞めさせたんです! 嘘なんかついてません!」

栞子 「ですがその可能性を否定出来ない以上、麻雀同好会を残すのは危険だと、職員会議及び生徒会で判断しました」

歩夢 「そんな……っ」

栞子 「それと、これは回収させて頂きました」


栞子が奥から取り出したのは、愛と璃奈が空き教室で使っていた雀卓と牌であった。

230: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:13:18.04 ID:zIfTu9pN
愛 「っ…!! 返して!」

栞子 「返せ? つまりこれはあなたのということですか?」

栞子 「この雀卓は、校内で賭け麻雀が行われていた証拠として、被害者の報告を元に差し押さえたものです。これがあなたのだということは…」


栞子 「賭け麻雀をしていたのは自分だ、と認めたことになりますが?」


愛 「ぐっ……」

栞子 「校内で賭博行為など、言語道断。即刻停学か、最悪の場合退学も考えられます」

璃奈(愛さん……)

栞子 「賭け麻雀をしていた人物が名乗り出れば、同好会への疑いも晴れ、廃部も撤回となりますが」

愛 「…………私は…」

231: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:15:00.82 ID:zIfTu9pN
侑 「愛さん、ダメだよ」

愛 「えっ…」


いくら同好会のためとはいえ、愛が退学になるかもしれない判断をさせるわけにはいかない。

その意志を伝えるために、侑は愛の袖を強く掴んだ。


栞子 「…それに、あなた方は麻雀同好会に籍を入れておくには勿体ないのです」

彼方 「勿体ない?」

栞子 「愛さん、あなたの身体能力は、ほとんどの運動部が喉から手が出るほど欲しがっています」

栞子 「璃奈さんも。コンピューター研究部から何度も勧誘を受けていると聞いています」

璃奈 「…………。」

232: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:16:36.71 ID:zIfTu9pN
栞子 「あなた方にはそれぞれの適性があります。適性が無いことを続けるより、各々に適したことに努めるべきです」

歩夢 「適性が無いこと……?」


栞子 「あなた方には、麻雀の適性がないということです」


かすみ 「適性が無い…? そんなことないです! かすみん達は麻雀が大好きで、毎日頑張って勉強もしています!」

侑 「そうだよ! それにみんなには、特別な力だって…」

栞子 「特別な力……。だからこそ、ですよ」

エマ 「だからこそ?」

栞子 「“能力”があることが、適性の無い理由なんです」

233: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:18:23.65 ID:zIfTu9pN
愛 「何言ってるの? 能力があるってことは強いってこと。強いってことは適性があるって事じゃん」

栞子 「……分かっていませんね。ならば教えて差し上げます」


栞子は、空き教室から押収した雀卓を、同好会メンバーの前に置いた。


愛 「…会長さんも打てるの?」

栞子 「えぇ。適性があるのなら、私くらいには勝てますよね?」

愛 「もちろん。それに一対三だよ? 大丈夫なの?」

栞子 「はい、十分です」

愛 「……言ってくれるじゃん」


かすみ 「うぅー…なんだかムカムカしてきました。愛先輩、かすみんも打ちます!」

彼方 「今回は彼方ちゃんにも打たせて。同好会を守るために、頑張っちゃうよ~」

栞子 「…決まりましたね。それでは始めますか」

234: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:19:55.22 ID:zIfTu9pN
《対局開始》
東家:愛 南家:栞子 西家:かすみ 北家:彼方


東一局、愛の親。ドラは❾


愛(よしっ! カナちゃんの向かい側に会長が座った! もう貰ったも同然だね…)

彼方(じゃあ手始め国士無双の夢から……!)


栞子 「……あの、早く切っていただけませんか?」

愛 「えっ、あぁ…ごめん」 打:南

彼方(……えっ? 夢に堕ちない…?)

かすみ(まさか、本当に国士無双を狙ってる? 侑先輩の時みたいに……)

235: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:20:59.01 ID:zIfTu9pN
彼方(まさか、ね……。でもみんな、気をつけて)

かすみ(よーし、ならかすみんの炎で一気に決めちゃいますよ!!)


かすみがツモる牌に力を込めるが、火花のひとつすら出ない。


かすみ(…ど、どうして)

愛 「……何かした? 会長さん」

栞子 「……えぇ。これは私の能力」


栞子 「『能力を消す』という能力です」

236: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:22:13.90 ID:zIfTu9pN
彼方 「そんな…」

愛 「すっごい能力じゃん。でもそれなら純粋な実力勝負。毎日打ってるアタシたちの方が上手だって!」

かすみ 「そ、そうですよ! 炎に頼らなくても、かすみんは強いんです!!」

栞子 「……だといいですね」


9巡目──。

栞子 手牌
六七七八八678❸❺❻❼❽ ツモ:❹


侑(いい手が入ってる。678の三色か…)

栞子 打:七

しずく(五-八 待ちのテンパイですね。でもリーチはせずダマですか)

238: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:23:42.38 ID:zIfTu9pN
次巡──。

栞子 手牌
六七八八678❸❹❺❻❼❽ ツモ:❾


侑(ドラの❾引き。難しいところだけど、待ちを広く受けるなら……)

栞子 打:八

しずく(頭待ちの三面張ですね。❸-❻-❾で、❾が出れば三色のドラドラで満貫……)


次巡──。

栞子 手牌
六七八678❸❹❺❻❼❽❾ ツモ:7


侑(これはツモ切りだね)

240: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:25:24.44 ID:zIfTu9pN
栞子 「リーチ」 打:❾

しずく(っ、ドラ切りリーチ!? ドラも三面張も捨てて、タンヤオの7単騎……どうしてそんな……)


次巡──。

栞子 「…………。」

侑(ま、まさか……)

栞子 「…ツモ。3000-6000」


栞子 ツモ
六七八6778❸❹❺❻❼❽ ツモ:7
リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・三色同順 / 3000-6000

241: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:27:19.45 ID:zIfTu9pN
かすみ 「な、なんですかその待ち!? ❾を残せば三面張リーチだったじゃないですか!」

愛 「まさかとは思うけど……積み込み?」

栞子 「そんなイカサマ有り得ませんよ。ただ、あなた方三人の手牌を考えれば、7が一番ツモれると判断したまでです」

彼方 「彼方ちゃん達の手牌を……?」


栞子 「そうですね、まずは愛さん」

栞子 「早めに8を落として迷彩をかけにいきましたね。テンパイ直前に四を切っているので、一見五-八が怪しく見えますが、牌を切った時の勢いの強さから見て、四は最後まで残したブラフ」

愛 「な、何言って……」

栞子 「テンパイの3巡前、手出しの2。ツモった牌は2のあった場所の4つ隣に入れました。ピンズをツモったと判断するべきですが」

242: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:29:11.04 ID:zIfTu9pN
栞子 「あなたは4巡目に❺を切っています。ピンズは早々に伸びないと踏んでいます。つまりあのときのツモは5が濃厚。2を切ってを5入れたということは」

栞子 「345の三色、もしくは345の一盃口でしょうか」

愛 「うっ……」

栞子 「つまり早めの四切りや、あなたの性格を踏まえて考えると、待ちはピンズの端か……いやそれよりも、四のスジが濃厚でしょう」


愛 最終手牌
一三四五334455東東東


栞子 「逆にかすみさん。あなたは捨牌が素直すぎます。見え見えの混一色手。問題は待ちだけですが、手出し位置でそれも明白。❸-❻待ち」


かすみ 最終手牌
❶❷❸❹❺❾❾❾南南西西西

243: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:32:06.55 ID:zIfTu9pN
栞子は、牌を透かすかのように、全員の手牌の傾向を言い当てた。


栞子 「結局、山に残っているのは❸-❻-❾よりも7。他の全員も、7をツモれば、切るか手を崩すしかありません。ならばあの局面、❾切りリーチが最善手です」

愛 「……そんな…」

彼方(ダメだ……。これ以上打たなくても、感覚で分かる)


──完敗だった。

その対局で、栞子以外の三人のうち一人として、ロンもツモも宣言させて貰えなかった。

栞子の、完全試合だった。

244: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:34:00.79 ID:zIfTu9pN
栞子 「……これで分かりましたか? 能力を失えば、この有様。適性がないというのはそういう事です」

栞子 「力があるが故、自然とその力に頼ってしまう。その支えがなくなった瞬間、あとは総崩れです」


歩夢 「…………それでも」


栞子 「…?」

歩夢 「それでも私たちは、麻雀が大好きなんだよ」

栞子 「……。」

歩夢 「たしかに栞子ちゃんの言う通り、私たちは力に頼ってきたかもしれない。それでも……」

歩夢 「私たちは、麻雀を続けたい…」

245: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:36:13.11 ID:zIfTu9pN
栞子 「……どうして能力持ちは、みんな同じことを言うのでしょうか」

歩夢 「えっ?」

栞子 「能力は……あなたたち自身まで変えてしまう、恐ろしい力なんです…! あなた達は、今すぐ麻雀を辞めるべきです!!」

侑 「私たち自身を変える…? それ、どういう意味?」

栞子 「…知る必要はありません。もう同好会は廃部になり、あなた方が麻雀を打つことはありませんから」


愛 「…………会長さん」


栞子 「はい?」

246: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:38:51.77 ID:zIfTu9pN
愛 「賭け麻雀の犯人が名乗り出て…認めれば、同好会の廃部は無くなるんだよね?」

侑 「…っ!?」

栞子 「…約束はできません。先生方が認めれば、その可能性があるというだけて…」

愛 「可能性があれば十分だよ」

侑 「愛ちゃん、何考えてるの!? そんなことしたら…!!」

愛 「いいんだよ、これで。元はと言えばアタシが全部悪いんだから」

歩夢 「そんな…違う! 愛ちゃんは、皆のことを想って…!」

愛 「理由がどうであれ、これが結果。……ごめんね、迷惑かけちゃって」

247: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:40:34.47 ID:zIfTu9pN
栞子 「……認めるんですね?」

璃奈 「愛さん…っ、ダメ…!」

愛 「大丈夫だよりなりー。りなりーのことは誰にも言わないから」

璃奈 「違う…そうじゃない…。私は愛さんにいなくなってほしくない…!」

愛 「…ごめんね。でも、これはアタシなりの恩返しなんだ」

璃奈 「恩返し…?」

愛 「…大嫌いだった麻雀。その楽しさに気付かせてくれた、同好会のみんなへの恩返し。今アタシに出来ることは、これしかないから」


愛は、自分の袖を掴んでいた璃奈を振りほどき、栞子の前へと、大きく一歩を、踏み出した。


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つづく

248: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:42:24.09 ID:zIfTu9pN
【キャラクター紹介.7】

近江彼方

『対面に役満の夢を見せる』能力。


役満の夢を見せられた者は、それがどんな手牌であっても、その役満を目指せると錯覚する、あるいは牌そのものが違う牌に見える。

よって捨牌判断が狂い、通常であれば切らない牌でも切ってしまい、手が崩れる上に放銃率も上がる。

発動条件は、彼方と目を合わせること。能力詳細の通り、対面にしか使えない。

対抗策としては、カンするなり場に捨てるなりして、見せられた役満に必要な牌を全て晒し、その役満の可能性をゼロにする。そうすると、夢から覚めることが出来る。


自分を強くする訳でもなく、他人を陥れるだけのこの能力が、彼方はコンプレックスだった。

尚、能力を使うとどんどん眠くなる。
使いすぎると卓の上で三時間くらい寝る。一度寝ると本当に動かないので、その日は三麻しか出来なくなる。

249: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/02/12(金) 21:44:15.96 ID:zIfTu9pN
次回 最終話『力ある者、適性なき者』

251: 名無しで叶える物語(たこやき) 2021/02/12(金) 21:55:14.25 ID:OK5HHGuA
栞子ちゃんの読みもほとんど能力クラスだ

253: 名無しで叶える物語(八つ橋) 2021/02/13(土) 20:48:29.77 ID:M0Z94eTB
愛宕姉に打ち消し能力がついた感じか
…強すぎね?

引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1612522095/

最終話へ続く

you fooder
ついにクライマックス!