1: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:00:00 ID:XdhsPokT
102期生が天界に住む天使(DRカードイラストの天使イメージ)である世界のお話です
no title

2: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:00:23 ID:XdhsPokT
綴理(ボクの背中には、白いツバサがある。これは空を飛ぶためにあるんだって、こずが教えてくれた)

綴理(それならなんで、人間は持ってないのって聞いたら、人間はツバサが必要ないんだって)

ザーザー…

綴理「……じゃあ、どうして人間は空を見上げるんだろう? ツバサがなければ、こうやって空に近づくことさえ、できないのに」バサッ

綴理(ボクは人間の気持ちが、よくわからない……でも、ボクはこうやって、人間界にはよく飛んで遊びに行くんだ)

綴理(ちょうど今みたいに、雨が降っているとき……雨が止む瞬間を、見るために)

3: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:00:47 ID:XdhsPokT
ザーザーザーザー…

綴理(んー……少し強くなってきた)

綴理「この様子なら、雨が上がるまでだいぶ時間がかかりそうだ」シュン

綴理「……それまで、どうしようかな」

綴理(人間界に来ても、雨が止む瞬間の空にしか興味がないから……ボクはこういうとき、困ってしまう)

綴理「……そうだ。たしかあの辺りに……」バサバサッ

4: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:01:09 ID:XdhsPokT
綴理「あった。確か……蓮ノ空女学院、だっけ?」ジー

綴理(山奥にあって古くからの伝統を大事にしている学校……らしい)

綴理「前にめぐが、蓮ノ空にきれいな湖があるって言ってたから……見に行ってみようかな」バサッ

綴理(……このとき、ボクは忘れてたんだ)

綴理(山の天気は変わりやすい、ということを)

5: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:01:45 ID:XdhsPokT
ヒュー…ヒュー…‼︎

綴理「……! 嵐、だ……!」グラッ

ゴロゴロゴロ…ピシャーン‼︎

綴理「──!?」

綴理(閃光が走って、一瞬、目の前が真っ白になった)

綴理「!? 痛っ……!?」フラッ…

綴理(雷が落ちたのか、嵐で飛ばされてきた物がぶつかったのか、それはわからない。でも、ボクのツバサはその衝撃を強く受けて──)

綴理「……っ、落ち──」

ヒュー……バッシャーン‼︎!

6: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:02:11 ID:XdhsPokT
────────

────

綴理「──…………ん」

綴理「……あれ? ここ、は……」

綴理(……ボクの目の前には、朝日を浴びてきらめいている湖。風が優しく吹き、さっきまでの嵐は、もう、姿を消していて)

綴理「…………雨が上がる瞬間、見られなかったんだ」

綴理(何よりもまず、そのことが残念だった)

7: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:02:34 ID:XdhsPokT
綴理「雨がもう止んでいるなら……帰らなきゃ」

綴理(そう、起きあがろうとして──)

綴理「っ……!?」ズキッ

綴理(──ボクは、異変に気づいた)

8: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:02:57 ID:XdhsPokT
綴理(ツバサが……痛い。動かすと、もっと痛くなる)

綴理「…………はぁ、はぁ……」ズキズキ

綴理「……っ、ダメだ……」

綴理(ツバサはもう、まともに動きはしないって……すぐにわかってしまった)

綴理「ボクは、飛べなくなったんだ……」

綴理(……起き上がる元気もないや。どうしよう、かな……)ズーン


「──あのっ! だ、大丈夫ですか?」

9: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:03:21 ID:XdhsPokT
綴理「……?」チラッ

綴理(一人の人間が、ボクを見つめている……?)

「あの、その! 蓮ノ湖のほとりであなたが倒れているのを見かけ、まるで昔の徒町のようだと思い、放ってはおけず……」ワタワタ

綴理「えっと……キミは……?」

「あわわ、そ、そうでした! まず名前を名乗らなくては……」コホン


小鈴「──徒町は、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ二年、徒町小鈴、です!」

10: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:03:46 ID:XdhsPokT
────

──同時刻、天界


梢「慈、どこかで綴理を見かけなかったかしら?」

慈「綴理? うーん、今日は見てないかな」

梢「そう……先ほどから姿が見えないのだけれど、どこへ行ったのかしら……」ウーン

11: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:04:10 ID:XdhsPokT
慈「まぁ、綴理のことなんだし、雨上がりの瞬間でも見に行ってるんじゃないの? 人間界の方で」

梢「人間界、ね……あの綴理が、となるとまた不安しかないのだけれど……」ハァ

慈「え、そんなに言うほど? 私だって、たまに人間の様子を見に、人間界は行くことがあるけど……別に大丈夫じゃない?」

梢「……綴理はまた別なのよ。あの子は、ほら……なにかと純粋な子じゃない?」

梢「人間界で悪い人間に誑かされでもしないか、心配で仕方がないのよ……」ハァ

12: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:04:33 ID:XdhsPokT
慈「あー……確かに綴理、話しかけられたらほいほい着いて行っちゃいそうだもんね」

梢「そうでしょう? それに、天使は人間との積極的な交流を控えるべき、という決まりもあることだし……」

梢「はぁ……人間に対して、自分の正体を明かしていなければいいのだけれど……」

13: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:04:57 ID:XdhsPokT
────

小鈴「て、天使ーー!?!?」

綴理「うん。ボクは綴理。天界に住む、天使の一人だよー」

14: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:05:21 ID:XdhsPokT
綴理(……あれ? これって教えちゃいけないんだったっけ)

綴理(でも多分、すずは大丈夫だ。優しい色をしてるから)

小鈴「て、天使って……あの、空を飛べるんですよね!?」ガタッ

綴理「そうだね。ボクたち天使には、ツバサがあるから」

15: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:05:45 ID:XdhsPokT
小鈴「うわぁ……! それでしたら、徒町、ぜひ飛ぶところを見てみたいのですが……!」

綴理「うん、いいよー。このツバサで空を……」ハッ

綴理(空を…………今のボクは、飛べない)

綴理「……」

小鈴「? どうしたんですか?」

16: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:06:09 ID:XdhsPokT
綴理「すず、ごめん……もしかしたら、今のボクは天使じゃないかも……」ズーン

小鈴「!? さ、さっきと言ってることが違くないですか!? 徒町は一体、何を信じれば……!?」

綴理「えっと、違うんだ、すず。実は……」

17: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:06:34 ID:XdhsPokT
────

小鈴「──そう、だったんですか。ツバサが……」

綴理「……うん。少し動かすだけで痛むんだ。ボクからは、よく見えないんだけど……すず、見える?」

小鈴「は、はい! 徒町、確認させていただきます」ジー

小鈴「…………確かに、このツバサ……よく見ると、根元の部分が折れている、みたいですね」

綴理「そっか、折れてるんだ……ボクの、ツバサが」

18: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:06:54 ID:XdhsPokT
綴理(空を飛ぶためにあるツバサ。でも今は、折れてその役割を果たせない……)

綴理「……ごめん、すず。ボクはキミに、飛ぶところを見せてはあげられない」

小鈴「……」

綴理(こういうとき、人間はガッカリするのかな。望みが叶わないと知った人間は、多分そう思うはず……だよね?)

19: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:07:16 ID:XdhsPokT
綴理(……人間の気持ちがわからないボクが、これ以上この子と一緒にいても、意味はないかな)

綴理「それじゃ、ボクは帰……あ、でもそっか、ツバサがこれじゃ天界にも帰れないんだ……どうしようかな……」ウーン

小鈴「……あ、あの! 徒町、一つご提案があるのですが!」


小鈴「──あなたが飛べるようになるまで、徒町に、そのお手伝いをさせてはいただけないでしょうか!」

20: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:07:41 ID:XdhsPokT
綴理「……え?」

小鈴「その、天界に帰れないともおっしゃっていたので……せめてツバサが治るまででも徒町、お手伝いしたいんです!」

綴理「……どうして?」

綴理(人間がボクに、優しくする理由なんて……)

小鈴「それはもちろん、困っている姿を見たら助けるのが当たり前ですから! ……と、いうのもあるんですけど」

小鈴「…………実はその、徒町、ある目標がありまして」

綴理「目標?」

小鈴「はい! えっと、その……」

小鈴「徒町は……空を飛びたいんです!」

綴理「……!」

21: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:08:03 ID:XdhsPokT
綴理「……すずが、空を?」

小鈴「はい! 徒町は、とある理由から……どうしても、空を飛ぶツバサが欲しいんです!」

綴理「ツバサ……」

小鈴「だから、あなたが飛ぶ姿を見れたら、今は飛べない徒町も何か変わるかも……なんて、徒町少し思ってしまい……」

小鈴「その、勝手に徒町とあなたを重ねて考えてしまい、すみません! でも徒町は、チャレンジがしたくて!」

綴理「……」

綴理(……初めてだ。こんな人間を見るのは)

22: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:08:26 ID:XdhsPokT
綴理(空を“飛びたい”と願う、ツバサを持たない人間……)

綴理(ツバサがなければ、空には届かない。いくら空を見上げたって、人間に空を飛ぶためのツバサは与えられない)

綴理(どうしてツバサのない人間が、叶いもしない願いを持てるのか……やっぱり、ボクには人間の気持ち、よくわからないみたいだ)

小鈴「ど、どうでしょうか? お手伝いしてもいい……ですか?」

綴理「…………」

23: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:08:49 ID:XdhsPokT
綴理(でも……知りたい、って思ってしまった)

綴理(ボクは、この人間の……すずの気持ちに、もっと触れたくなったんだ)

綴理(……実際、飛べない以上、今のボクにはできることもないし……少しくらい人間と過ごすのも、いいかもしれない)

綴理「……うん。それなら、ボクが飛べるようになったとき、すずに見せるって約束するよ」

綴理「それまで……よろしくね、すず」ニコッ

小鈴「! あ、ありがとうございます! 徒町、誠心誠意、お手伝いさせていただきます!」

綴理「おー」パチパチ

小鈴「……あの! つきましては……綴理先輩、とお呼びしてもいいですか?」

24: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:09:12 ID:XdhsPokT
綴理「? その……“せんぱい”って?」

小鈴「“先輩”は……尊敬できる相手につける呼び方の一つで……徒町にとって、綴理先輩は、“先輩”ですから!」

綴理「そうなの?」

小鈴「はい! 徒町、綴理先輩のことを大尊敬していますから!」グッ

綴理「そうなんだ。うん、呼んでもいいよー」

小鈴「綴理先輩……! はい! では、これから何卒、よろしくお願いします!」ニコッ

25: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:09:36 ID:XdhsPokT
綴理(──こうして、ツバサの折れたボクは……人間界にしばらくの間、滞在することになったんだ)

小鈴「ひとまず綴理先輩、今日は徒町のお部屋でお休みください! それで明日になったら、クラブのみんなにも綴理先輩を紹介しましょう!」

綴理「クラブのみんな? ……あ、すずが最初に言ってたっけ。確か、すくーる……?」

小鈴「はい! “スクールアイドルクラブ”です!」ニコッ

26: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:09:56 ID:XdhsPokT
────

──天界


梢「ああ、どうすればいいのかしら……綴理のことだし、今頃どうなっているか……」ウロウロ

慈「おはー、梢……って、どうしたの、そんなに慌てて?」

梢「……慈。実は、綴理がまだ帰ってきていないのよ。どうやら、まだ人間界にいるみたいね……」

27: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:10:19 ID:XdhsPokT
慈「え、珍しいじゃん、綴理が人間界に長く滞在するなんて……お土産とか持ってきてくれるかな?」

梢「はぁ……そう能天気なことを言っている場合ではないのよ、慈」

梢「綴理が人間界に行ったきり帰ってこない。考えられるのは……誘拐に巻き込まれた、とか……」

慈「えぇ? いくら何でも梢、それはないでしょ」

梢「慈は、事態を軽く考えすぎなのよ。そもそも、あの綴理が人間界に長くいる理由なんてないはずでしょう?」

28: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:10:47 ID:XdhsPokT
慈「んー……確かに、そっか。そういえば綴理って、雨が止む瞬間を見るためだけにいつも人間界に行ってるんだもんね……」

慈「……え、ってことはヤバくない? もう雨は止んでるのに、帰ってこないのって……」

梢「……ええ、綴理に何か、良くないことが起きているのは確かね。あんなに綺麗で純粋な子なのだから、悪い人間に目をつけられてもおかしくないはず……」

慈「それって…………綴理、大丈夫かな……」

梢「そうね……今ごろ、一体どんな酷いことをされているか……」

29: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:11:11 ID:XdhsPokT
────

さやか「──気持ちいいですか?」ナデナデ

綴理「うん。さや、もっとなでてー」

さやか「ええ、もちろんいいですよ」ニコッ

花帆「あ、次はあたし! あたしにもやらせて!」ピョンピョン

小鈴「徒町も、ぜひ!」

姫芽「お~、さすが天使、大人気だ~」

吟子「……」

30: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:11:36 ID:XdhsPokT
綴理「みんな、優しいね。ボクからは、みんなにしてあげられることなんてないのに……」

さやか「いえいえそんな。天界からなんて、長旅でお疲れでしょうから……ぜひ、ごゆっくりおくつろぎください」ニコッ

花帆「そうですよ! こういうときは、人も天使もみんな助け合いなんです!」

瑠璃乃「そうそう、人類天使、皆ぶらざー! ってやつっしょ!」ウンウン

吟子「……」

姫芽「あれ~、吟子ちゃん、どうしたの~? なんだか浮かない顔だけど……?」


吟子「──いや、なんでみんな受け入れとるん……? 天使、なんて……」

31: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:12:03 ID:XdhsPokT
吟子「朝になってすぐ、小鈴が『こちら、天使の綴理先輩です!』って言うから……勢いに押されて受け入れちゃったけど」

吟子「……普通に考えて、おかしくない? 天使がいるなんて……」

花帆「吟子ちゃん、吟子ちゃん、そんなの些細なことだって!」バッ

瑠璃乃「うんうん、えんじぇるだって、同じ生き物なんだし!」

さやか「今は多様性の時代ですからね」

吟子「えぇ……? そういうもの……なのかな……?」

姫芽「……吟子ちゃん、やっぱり押しに弱いところあるよね~?」アハハ

32: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:12:27 ID:XdhsPokT
さやか「そういえば、ツバサが治るまでこちらにいる、とのことでしたが……ツバサの具合はいかがですか?」

綴理「……あ、えっと、それは」

綴理(一晩経っても、ボクのツバサは、やっぱり少し動かすだけで痛みが走る状態で)

綴理(……もう、飛ぶことはできない、ってどうしようもなくわかっているはずなのに)

小鈴「綴理先輩! ツバサのことで、徒町に手伝えることがあったら、ぜひなんなりと教えてください!」

綴理「すず……」

33: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:12:48 ID:XdhsPokT
綴理「……多分、しばらく安静にしてれば、ツバサは良くなると思う」

花帆「! 良かったぁ、それなら安心ですね!」

綴理「……」

綴理(……すずを悲しくさせてしまう気がして、本当のことは言えなかった)

34: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:13:10 ID:XdhsPokT
瑠璃乃「そうだ! せっかくなんですし、休んでいる間、ちょっと金沢の街を見てくのはどっすか?」

綴理「え? 人間界の街を……?」

吟子「確かに……天使にも、金沢の歴史と伝統を知ってもらえる良いチャンスかも……」フム

姫芽「お、いいね~。天使さん、天使さん~、人間界で行きたいところ、あったりしますか~?」

綴理「行きたいところ……? でもボク、人間界の街には全然詳しくなくて……」

35: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:13:38 ID:XdhsPokT
さやか「それでしたら……せっかくですし、わたしが案内しましょうか?」

綴理「え、いいの、さや?」

さやか「はい。ちょうど、小鈴さんと一緒に街の方に行く用事もありましたから」

綴理「すずと? 何しに行くの?」

さやか「少し食料品の調達に……小鈴さんは魚の目利きができますから、ついてきてもらっているんです」フフッ

小鈴「はい! 徒町、これくらいでしか、さやか先輩の役に立てないので!」

さやか「そんなことはありませんが……」

36: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:13:59 ID:XdhsPokT
綴理「んー……じゃあ、ボクも行こうかな」

綴理(なんとなく……人間が過ごす風景を見てみたくなった)

さやか「わかりました。では、外出届ももう出しているので……軽く準備をしたら、すぐ向かいましょうか」ニコッ

37: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:14:22 ID:XdhsPokT
────

ザワザワ ザワザワ

さやか「着きましたよ。ここが──近江町市場です」

綴理「すごい、人間がいっぱいいる……これが、市場……」キョロキョロ

さやか「ふふっ、ここに来るのは初めてなんですか?」

綴理「うん。人間界に来たときはいつも、空だけを見てたから……」

綴理(こんなに人間が近くにいるのも、不思議なくらいだ)

38: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:14:40 ID:XdhsPokT
小鈴「綴理先輩! ここは美味しいお魚も、優しい街の人もたくさんの素敵な場所なんです!」

さやか「時間もありますので、お話でもしながら、ゆっくり周りましょうか」ニコッ

綴理「おー」

39: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:15:05 ID:XdhsPokT
────

小鈴「さやか先輩、さやか先輩! こっちの方が新鮮でおすすめです!」

さやか「では、そちらを一尾、いただけますか?」

チャリン

店員「いつもありがとうね、さやかちゃん。これおまけしとくよ! 今度の大会、頑張ってねー、小鈴ちゃんも!」

小鈴「……は、はい! 徒町、頑張ります!」

さやか「応援ありがとうございます。どうか、期待、していてください」ニコッ

40: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:15:26 ID:XdhsPokT
綴理「……」ジー

さやか「? どうしたんですか?」

綴理「……なんだか、いいね。ここはみんな、あたたかい場所なんだ」

綴理(色んな店を巡る度に、人間が優しく話しかけてきてくれて、ボクの目にもあたたかい色が見える。その光景は、まるで……)

綴理「…………天界、みたいだ」

41: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:15:51 ID:XdhsPokT
さやか「天界……ですか?」

綴理「そう、みんな優しい色をしているのが、おんなじなんだ」

小鈴「や、優しい色……?」

綴理「うん。ボクといつも一緒にいてくれる、こず、めぐとか……ボクに人間界の魅力を教えてくれた、天使とか」

綴理「天界のみんなは、今日見た人間みたいに、優しくて安心する色をしてる。だから……少し懐かしいな、って思ったんだ」フフッ

綴理(今まで興味がなかったのが、もったいないくらい……人間は、たくさんの色を見せてくれる)

42: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:16:15 ID:XdhsPokT
小鈴「うわぁ……! 素敵な天使さんたちなんですね! 徒町も、いつか会ってみたいです!」

さやか「わたしもです。話を聞く限り、きっと素敵な方々なんでしょうね」クスッ

綴理「ん。みんな、ボクにとって大切な天使だから……いつか、会ってほしいな」ニコッ

さやか「そうですね。あの……ちなみになんですが、“人間界の魅力を教えてくれた”というのは、一体何を教わったのですか?」

綴理「あぁ、それは」

綴理(脳裏に、ボクの大好きな、あの天使の顔が思い浮かぶ)

綴理「雨が止む瞬間のこと、なんだ」

43: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:16:37 ID:XdhsPokT
綴理「ボクの大好きな天使がね、人間界の雨が止む瞬間が好きだ、って……昔、教えてくれて」

綴理「ボクはそれまで、人間界には少しも興味がなかった。だから、今ボクがここにいるのは、その天使のおかげなんだー」ニコッ

綴理「あ、あとね、その天使はボクと違って大天使で……魔法であらゆるものにパワーを送れるんだ、すごいよね」ニコニコ

さやか「ふふっ、素敵な先輩なんですね。お話ししている様子から伝わってきますよ」クスッ

綴理「! “先輩”……」

綴理(尊敬する相手を呼ぶ名前……そっか。確かに、ボクにとっての“先輩”、だ)

44: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:16:57 ID:XdhsPokT
────

さやか「──さて、買うものは全て買えましたし……そろそろ帰りましょうか」

小鈴「はい! 徒町、料理はさっぱりポンなのですが、少しでも食材選びに協力できたなら、よかったです!」

さやか「ええ。小鈴さんの目利きの力はとても頼りになりますから。いつもありがとうございます」ニコッ

綴理「近江町市場、楽しかった。また、来たいな」

45: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:17:17 ID:XdhsPokT
綴理(雰囲気が、ボクの大好きな天界に似ているのも嬉しかったな)

綴理(……天界、か)

綴理「こず、めぐ……」ボソッ

綴理(今ごろ、どうしてるのかな)

46: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:17:39 ID:XdhsPokT
────

──天界


梢「慈。綴理を助けに行く準備ができたわ」

慈「流石、梢! どんな感じ……って」

47: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:18:00 ID:XdhsPokT
梢「どうかしら? ひとまず人間に対抗できるように、色々武器を用意したのだけれど……」

慈「いや、何で武器!? こんなたくさん……手裏剣なんて、絶対にいらないでしょ!?」

梢「慈。綴理が向かった人間界のカナザワという街には、忍者武器ミュージアムという武器庫があって……」

慈「ミュージアムは武器庫じゃないからね!? 梢、人間みんなが交戦的ってわけじゃないんだよ!?」

48: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:18:26 ID:XdhsPokT
梢「そう……なのかしら。でも綴理を助けるためなのだし、なんだったら、この鎖のついた鉄球も……」

慈「絶対いらない! あー、もう、梢はそこで何もしないで待ってて! 私が用意するから!」ガタッ

梢「そうはいっても……! 慈は慈で、人間界にいつも必要のないものを持っていくでしょう? わざわざ人間界に、コスメを持っていく必要なんて……」

慈「な、なにをー! 絶対手裏剣よりは必要だって! かわいいかわいい、めぐちゃんエンジェルにとっては、必需品でしょ!?」

梢「慈。前から思っていたのだけれど、そもそも天使は人間との積極的な交流を控えるべきなのだから、着飾る必要だってないのであって……」

慈「わーわー! 今、梢のお説教は聞きたくないー!」

ワーワー ギャーギャー

ドタドタ バタバタ……

49: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:19:00 ID:XdhsPokT
────

数日後

綴理「──ラブライブ?」

さやか「はい。スクールアイドルの頂点を決める大会で……もう少しで、その北陸大会があるんです」

綴理「それって、すごいの?」

さやか「それはもう。勝てば全国大会に進めますから」フフッ

姫芽「DOLLCHESTRAは本当にさすがだよね、ここまで勝ち上がれちゃうなんてさ~。アタシも、全力で応援するからね~」グッ

綴理「? ひめは、大会には出ないの?」

50: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:19:25 ID:XdhsPokT
姫芽「出れたらよかったんですけど~……そういうわけにもいかなくて」ハハ

綴理「?」

吟子「あ、えっと……実は私たち、スリーズブーケとみらくらぱーく!は地区予選で落ちてしまったんです」

瑠璃乃「うんうん。今年、ラブライブ!北陸大会に進めたのはDOLLCHESTRAだけなんだ」

さやか「ええ。なので一層、負けられませんね。みなさんの夢も背負っていますから」グッ

51: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:19:49 ID:XdhsPokT
小鈴「夢……」

小鈴「……徒町が、さやか先輩と……」ブツブツ

綴理「……? すず?」

綴理(なんだか様子が……)

瑠璃乃「いやー、それにしても、ルリたち三年生としては、さやかちゃんに、ぜひとも頑張っていただきたいというか」ウンウン

花帆「そうそう! もう出れないあたしと瑠璃乃ちゃんの分まで、任せたよ、二人とも!」

52: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:20:16 ID:XdhsPokT
さやか「ええ、もちろんです。期待していてください!」

小鈴「……は、はい! 徒町も、精一杯頑張ります!」

小鈴「…………そうだ、頑張らなくちゃ……じゃなきゃ、徒町は……」ブツブツ

綴理「……?」

綴理(……ラブライブの話題になってから、すずの様子がおかしい気が……?)

53: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:20:41 ID:XdhsPokT
小鈴「……」

綴理「……すず? 大丈夫?」

小鈴「……はっ、つ、綴理先輩!? か、徒町は大丈夫です! 何の問題もありません!」ビシッ

綴理「そっか……」

綴理(すずの、“大丈夫”って言葉……信じていいのかな?)

54: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:21:06 ID:XdhsPokT
────

キャーキャー ワーワー

さやか「みなさん、本日は蓮ノ空女学院、ラブライブ!北陸大会エントリーライブにお越しいただきありがとうございます」ペコリ

さやか「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ三年の村野さやかです。何卒、よろしくお願いします!」

小鈴「は、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ二年の、徒町小鈴です!」

さやか「わたしたちDOLLCHESTRAの歌を、聴いてください──」

55: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:21:30 ID:XdhsPokT
~♪

綴理「……すごい」

綴理(二人が踊り始めた途端、会場の、空気が変わった)

56: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:21:51 ID:XdhsPokT
~♪

綴理(すずも、さやも……その歌声とダンスは、あらゆる表現を超えて、観客を虜にしていく)

綴理「……これが、スクールアイドル──」

バタン‼︎!

57: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:22:13 ID:XdhsPokT
シン…

綴理「……え」

綴理(会場に、大きく響き渡る音。そして、静寂。──その瞬間、まるで、時間が止まったみたいだった)

さやか「……!」

小鈴「……っ」

58: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:22:32 ID:XdhsPokT
綴理(すずが、ステージ上に横たわっている)

綴理(誰の目から見ても、明らかだった)

綴理(転んだんだ。ダンスの、最中に)

59: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:22:53 ID:XdhsPokT
────

綴理(それから……立て直すこともできずに、DOLLCHESTRAのステージは、終わった)

綴理(どう贔屓目に見たとしても、演技を中断してしまったスクールアイドルに、高い評価は与えられない)

綴理(そして……二人は、敗退した)

60: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/04(金) 18:23:44 ID:XdhsPokT
続きは明日、19時半ごろに投稿します

64: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:30:00 ID:XdhsPokT
────

──蓮ノ湖


小鈴「……」グスッ

小鈴「なんで、こんな……!」グッ

小鈴「徒町は……徒町はもう……」フラッ

ギュッ

小鈴「──!?」

綴理「っ……危ないよ、すず」

小鈴「!? つ、綴理先輩!?」

65: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:30:21 ID:XdhsPokT
綴理「よかった……すずが、湖の周りでふらふらしてたから。落ちないか、心配だった」

小鈴「す、すみません! ご心配を……」

小鈴「……」

綴理「すず……」

綴理(今日のステージのこと……どう声をかければいいのか、ボクには、わからなくて)

66: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:30:43 ID:XdhsPokT
綴理(──重い沈黙を破ったのは、すずだった)

小鈴「……ごめんなさい、綴理先輩。徒町にはやっぱり……空を飛ぶ、なんて、無理だったみたいです……」

綴理「……!」

綴理(そうだ、最初に会った時、すずは言ってた。とある理由のために、空を飛ぶツバサがほしい、空を“飛びたい”って)

綴理「……すずが“飛びたい”って言ってたのは、今回のステージのため?」

小鈴「それは……」

67: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:31:03 ID:XdhsPokT
小鈴「…………さやか先輩、なんです。徒町が、空を飛びたかった理由は」

綴理「さやが、理由?」

小鈴「……はい。さやか先輩は、氷上を舞う群青のツバサを持っていて」

小鈴「徒町は、あんな風に……なりたくて」

68: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:31:25 ID:XdhsPokT
小鈴「だから徒町、初めて綴理先輩を見たときに……これだ、ってすぐに思ったんです」

小鈴「あのとき、徒町はずっと焦ってて、ダメダメで、地区予選を突破したときから、ずっと、ずっと……! これは、徒町の力なんかじゃない、って感じて」

小鈴「天使のツバサが、空を飛べるツバサが、徒町にあれば……徒町は、さやか先輩の横に立つことができる。ツバサで空を飛んで……さやか先輩に追いつける、って」

小鈴「……変われそうな予感が、したんです」



小鈴「──なのに……!!」グッ

69: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:31:44 ID:XdhsPokT
小鈴「徒町のせいで、徒町のせいで……! さやか先輩の夢を……!」

小鈴「さやか先輩は三年生で、今回が最後だったのに……」グスッ

小鈴「あれは、絶対に失敗しちゃいけないステージだったのに……!!」

綴理「……」

綴理(堰を切ったように、すずの“気持ち”が溢れ出しているのが、ボクにも、わかってしまった)

70: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:32:06 ID:XdhsPokT
綴理(すずは、空を飛びたかった。そのために、ボクの飛んでいる姿を見たがってもいた)

綴理(そんなすずに、ボクは……)

綴理「すず。ボクはまだ、キミに……!」

小鈴「……いいんです、綴理先輩。徒町は……」

小鈴「……もう、諦めましたから」

71: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:32:27 ID:XdhsPokT
小鈴「頑張ることしか能がない徒町が、頑張れなくなったら意味がないですけど……徒町には、これ以上どうしようもないんです」

綴理「すず……」

小鈴「っ、ごめんなさい、綴理先輩! 徒町は……もう帰ります」

綴理(そう言って、すずは、静かに蓮ノ湖を後にして……ボクはただ、残された)

72: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:32:48 ID:XdhsPokT
────

綴理(人間の気持ちどころか、自分の気持ちだって、今のボクにはわからない)

綴理(どうして、ボクは……)

綴理「……」

「──何を、しているんですか?」

73: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:33:08 ID:XdhsPokT
綴理「え……」

綴理(その声に振り返ると、練習着を着て、軽く息を弾ませた人間の姿が見えて)

綴理「……さや!?」

さやか「はい、さやです」クスッ

さやか「どうしたんですか、こんな時間に外に出て……この時期、外は冷えますよ」

74: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:33:29 ID:XdhsPokT
綴理「え、えっと……さやの方こそ、どうして?」

さやか「わたしは……少し、自主練を」

綴理「自主練?」

綴理(すずが言ってたとおり、さやは、今日のステージが最後のはずだから……練習しても、意味はないはず)

綴理「……さやは、落ち込んでないの?」

75: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:33:50 ID:XdhsPokT
さやか「わたしは、そうですね……負けるのには、慣れていますから」クスッ

綴理「そう、なんだ」

さやか「……その様子、小鈴さんとお話をされたんですね」

綴理「…………うん」

さやか「どんな話をされたのか……聞いても、いいですか?」

76: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:34:13 ID:XdhsPokT
────

さやか「──なるほど、小鈴さんがそんなことを」

綴理「さや……すずのことは……」

さやか「大丈夫ですよ。わたしは、小鈴さんの先輩ですから」

さやか「やはり、努力はいつか報われる……とは限りません。今回は、仕方のなかったことだと思います」

綴理「……」

77: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:34:34 ID:XdhsPokT
さやか「……きっと、わたしも小鈴さんも……“何か”が欲しくてたまらないから、スクールアイドルになったんですね」

綴理「……! 何か……?」

さやか「はい。小鈴さんにとって、“飛びたい”とは、そういうこと、だったんでしょう。人間はどうしても、ないものほど欲しくなってしまう生き物ですから」

さやか「今回はそれが手に入らなかっただけ。あなたが気に病む必要はありませんよ。後は……わたしの問題です」

78: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:34:59 ID:XdhsPokT
さやか「先輩は、後輩を導かなければなりませんので。小鈴さんの前に立ち、常に先導するのがわたしの役目です」

綴理「……」

さやか「……さて、夜も遅くなってきましたし、帰りましょうか」ニコッ

綴理(……すずの気持ちを聞いて、ボクの気持ちも気づけば、変わっていた)

綴理(いままでのボクだったら、こんなこと絶対にしなかっただろうけど、でも……)

綴理「──じゃあ、さやも」

綴理「ボクに……気持ちを教えてほしい」

79: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:35:23 ID:XdhsPokT
さやか「……え?」

綴理「さやも、まだ言ってない、さやだけの気持ちがあるはずだ」

さやか「……何を言っているんですか、わたしは……」

綴理「ボクはすずの先輩だ。だったら、さやの先輩でもある」

綴理「“先輩は後輩を導くもの”……なんだよね?」

さやか「……!」

綴理「ボクだって、知りたいんだ。もう、見ているだけなのは嫌なんだ」

綴理「教えてほしい、さやの気持ちを。ボクは、さやの“先輩”だから」

80: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:35:44 ID:XdhsPokT
さやか「……ふふっ、本当に……不思議な人ですね、あなたは」

綴理「人じゃないよ、ボクは天使だ」

さやか「じゃあ、不思議な天使さんです」クスッ

さやか「……」ギュッ

綴理「! さや……」

さやか「……わたしは」

81: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:36:04 ID:XdhsPokT
さやか「……フィギュアスケートだって、ずっと続けてきて、負けても次があるから……と、何度も気持ちを切り替えて、今まで生きてきたんです」

さやか「だから、次がもう無い、という状況で負けたのは……今回が、初めてなのかもしれません」

綴理「……さやは、それが悲しいの?」

さやか「いえ、わたしは…………そんなことより、何よりも」

さやか「小鈴さんを、わたしのせいで悲しませてしまったことが辛くて……痛いんです」

82: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:36:28 ID:XdhsPokT
さやか「わたしは、小鈴さんに……ラブライブ!優勝の景色を、チャレンジの成功を、見せたかった……」

さやか「小鈴さんにとって、期待は重い枷だったのだとしたら……それに気づけなかった、わたしの責任です」

さやか「……」グスッ

綴理「さや、ボクは隣にいるから。好きなだけ、ボクに甘えてほしい。先輩として……さやを支えたいんだ」

さやか「……ありがとう、ございます」ギュッ

さやか「もう少しだけ……こうしていても、いい、ですか?」ギュー

綴理「ん、もちろん──」

83: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:36:49 ID:XdhsPokT
────

さやか「──ありがとうございました。お話、聞いていただけて」

さやか「おかげで、少し楽になれました。もう大丈夫です」ニコッ

綴理「そっか、よかった」

84: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:37:12 ID:XdhsPokT
綴理「……さや。すずのことなんだけど、ボクは……諦めたくない」

綴理「すずに、ボクがツバサで、空を飛ぶところを見せてあげたい。できるか分からなくても、やってみたいんだ」

綴理「だから、さやには一つ、お願いがあって──」

85: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:37:32 ID:XdhsPokT
綴理「──どう、かな?」

さやか「……分かりました。少し、考えてみますね」

さやか「わたしも……想いは同じなので。小鈴さんには笑顔が似合いますし、やはり元気になってもらいたいですから」

綴理「さや……うん、分かった。待ってるから」

86: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:38:01 ID:XdhsPokT
────

綴理「…………」

綴理(……ボクはずっと、ツバサのない人間が、空を見上げる理由が分からなかった)

綴理(でも、すずの気持ちを、さやの想いを聞いて……ボクにも見えたんだ)

綴理「……それなら、今のボクがすべきことは──」


……バサバサッ‼︎

「綴理! ここにいたのね……ようやく、見つけたわ」

87: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:38:22 ID:XdhsPokT
綴理「……!」

綴理(突然、懐かしい声が、ボクの耳に届いた)


綴理「──こず!」

梢「迎えに来たわ。綴理」バサッ

88: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:38:44 ID:XdhsPokT
バサバサッ

慈「綴理ー! 大丈夫だったー!?」ギュー

綴理「わ、めぐ」

慈「悪い人間に騙されたりしてない? 綴理ってば優しいから、人間にお菓子で買収されちゃうんじゃないかって……」

綴理「ボクなんなの」

梢「でも、本当に心配したのよ……遅くなってしまったけれど、見つけることができてよかったわ」ニコッ

綴理「そっか……ありがとー、こず、めぐ」

綴理(……あぁ、やっぱり、二人とも優しい色だ)

89: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:39:06 ID:XdhsPokT
慈「……って、うわ、綴理……“それ”、どうしたの?」

綴理「! これは……」

綴理(めぐが目を向けているそれは……)

綴理(もう飛ぶことができなくて、使い物にならなくなった……ボクの、ツバサ)

梢「……なるほど。ツバサが折れていたのね……辛かったでしょう、綴理。こんな状態のツバサ、動かすのもキツいはずだわ」

慈「あぁ、そっか、だから帰れなかったんだ。ツバサがそんなんじゃ、飛べないもんね」

90: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:39:33 ID:XdhsPokT
梢「と、なると……天界まで、綴理が自力で飛ぶのは難しい、みたいね」フム

慈「じゃあ、どうする? 梢と二人で、綴理を担いで飛んでく?」

梢「それは……ずいぶんと奇怪な光景になってしまうわね……」

綴理「……こず、めぐ」

梢「綴理?」

綴理「──ボクはまだ、帰らないよ」

91: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:39:55 ID:XdhsPokT
慈「え? 綴理、何言ってるの?」

梢「綴理…………何か、人間界に忘れもの?」

綴理「忘れもの……うん、確かにそうだ」

綴理(一つ、大きな忘れもの。人間界で、やり残したこと)

綴理「ボクにはまだ、やることがある」

綴理「ボクは──ある人間を、すずを、笑顔にしてあげたいんだ」

92: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:40:16 ID:XdhsPokT
梢「…………ふふっ、見ないうちに変わったのね、綴理」クスッ

綴理「え?」

梢「あなたは今まで、人間になんて興味の一つもなかったはずでしょう? それなのに今は、人間のために行動しようとしている、なんて」

慈「そうそう。綴理って、いつも人間界では、空を見てる印象が強かったもんね」

綴理「そう……かな」

綴理「でも、変わったんだとしたら、それはみんなの……ボクと一緒にいてくれた人間たちのおかげだ」

綴理(みんながボクに……きらめきを見せてくれたから)

93: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:40:38 ID:XdhsPokT
綴理(だからこそ……)

綴理「ボクは、約束したんだ。だからまだ、帰れない」

梢「……いいわ、綴理。その忘れもの、私たちにも手伝わせてちょうだい」

綴理「え……いいの?」

慈「もちろん、めぐちゃんも手伝うからね! っていうか、私たちが綴理のことを手伝わないわけないでしょ!」

綴理「めぐ……! ありがとー」ニコッ

94: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:41:01 ID:XdhsPokT
梢「それで……何か算段でもあるのかしら? その……人間を笑顔にする、というのには」

綴理「ん、もちろん。ボクがやることは、一つ」

綴理(すずが、あのとき言っていた)

──

小鈴「徒町は……空を飛びたいんです!」


小鈴「だから、あなたが飛ぶ姿を見れたら……なんて、徒町少し思ってしまい……」

──

綴理(すずの願いを、叶えたい……!)

綴理「ボクは……空を飛びたいんだ」

95: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:41:26 ID:XdhsPokT
慈「そ、空……!? 綴理のツバサ、見るからに痛そうなのに、それで!?」

梢「そう、ね……現実問題、そんな状態のツバサでは、飛ぶことはおろか動かすことだって難しいと思うのだけれど……」

綴理「……っ、それでも、ボクは……!」


「──できますよ。綴理先輩」

綴理「!」

96: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:41:52 ID:XdhsPokT
さやか「お待たせしました。不肖村野さやか、綴理先輩の仰った通り、ツバサを治す……準備が、できました」

花帆「さやかちゃんから話は聞きましたよ! 一人じゃ無理なことでも、みんなと一緒なら乗り越えられるんです!」

瑠璃乃「飛べないんだったら……飛べるように新しく作っちゃえばいいってことよ!」ウンウン

姫芽「大倉庫からいっぱい、使えそうな部品を集めてきました~」

吟子「私も、金沢の伝統工芸品に使われるパーツを幾つか……」


綴理「さや……みんな……!」

さやか「綴理先輩。これで、折れたツバサに代わる──機械のツバサを作ります」

97: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:42:16 ID:XdhsPokT
梢「ま、待ってちょうだい……いくらなんでも、人間が作ったツバサで空を飛ぶなんて、前例がないし、できるわけが……」

綴理「……ううん、大丈夫。ボクにも、頼れる“先輩”がいるから」ニコッ

綴理「絶対、なんとかしてくれるはずだ。だよね──さち?」

「……やれやれ。まったく、仕方がないねぇ」

バサッ

沙知「あたしの出番、ってわけみたいだ」ニッ

98: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:42:36 ID:XdhsPokT
慈「!? な、なんで……」

綴理「ひさしぶり、さちー」

沙知「あぁ、綴理。こうやって面と向かって話すのは、確かに随分と久々みたいだねぇ」

梢「あの……一体いつから、ここにいらしたんですか?」

沙知「いつからもなにも、キミたちのことは、ずっと見ていたさ。あたしは、キミたちを教え導く立場の天使だからねぇ」ハハ

綴理「うん。さちは、ボクの“先輩”だから」

99: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:42:57 ID:XdhsPokT
綴理「さちなら、機械のツバサに、魔法で力を込められるはずだよね。だから……手伝ってほしい、さち」

沙知「まったく、簡単に言ってくれるなぁ。意外と魔法を使うのだって、結構大変なんだよ?」

綴理「でも、さちならできるよね?」

沙知「……ははっ、そりゃあできるさ。これでも、あたしは大天使だからねぇ」ドヤッ

沙知「ただ……綴理。一つだけ、条件がある」

100: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:43:19 ID:XdhsPokT
沙知「そのツバサを作るのには、人間だけでなく、天使も協力すること」

沙知「魔法の対象物には、天使の手が加わってる必要があるからなんだが……まぁ、綴理にとっては簡単なことかもしれないねぇ」

綴理「……うん、そうだね。ボクには、頼れる仲間がいるから」

綴理(天使にも、人間にも……ボクは、本当に恵まれていた)

沙知「──よし! それなら、今だけは、天使と人間の交流は控えるべき、なんて決まりは、なしだ! 作ろうじゃないか、自由に空を羽ばたけるツバサを!」

101: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:43:43 ID:XdhsPokT
────

綴理(──それから……みんなで集まって、機械のツバサを作る作業が始まった)


瑠璃乃「さやかちゃん、さやかちゃん、これに組み合わせる部品、どこ置いてたっけ?」

さやか「ああ、えっと……それは……」キョロキョロ

慈「あ、それなら、私が持ってるよ。はい、どーぞ! 手、怪我しないように、気をつけて持ってね」サッ

瑠璃乃「あざます! さすが、えんじぇる、かわいい上にやさしーなんて!」

慈「ま、まぁそりゃあ、めぐちゃんはー? かわいいかわいい天使めぐエルですからー? これくらいとーぜん!」ドヤッ

梢「慈。あまり調子に乗らないの」

102: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:44:10 ID:XdhsPokT
花帆「あのー……少し、いいですか?」

梢「!? え、ええ……ど、どうかしたのかしら、人間さん?」

花帆「その……実はあたし、ファンタジー系の本とかたくさん読んでて、天使ともっともーっと交流してみたかったんです!」

花帆「あたしは日野下花帆、って言います! あなたのお名前はなんですか?」

梢「え、ええと……梢、だけれど……」

花帆「梢さん、ですか! 名前にぴったりのきれいな天使さんなんですね!」ニコッ

梢「!!!」

梢「……慈。人間にも……良い子がいるのね……」シミジミ

慈「あぁ、うん。そーだねー」

103: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:44:30 ID:XdhsPokT
綴理「……いいね、こういう光景」

さやか「綴理先輩?」

綴理「天使も人間も関係なく、みんな一緒にいれる世界……うん、やっぱりそうだ」

綴理「さや。ボクにも、わかったかもしれない。“飛びたい”っていう気持ち」

104: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:44:52 ID:XdhsPokT
綴理「やりたいことがある、叶えたいことがある。今はない何かが欲しいと追い求める気持ちが“夢”……」

綴理「だから、だったんだ。夢があるから、空を見上げたくなる。だから“飛びたい”って思えるんだ」

綴理「人間にツバサがない理由……きっと、そういうこと、だよね?」

さやか「ふふっ、はい。本当に、その通りだと……わたしも思います」クスッ

綴理「ん、よかった。それなら後は……すずに、伝えるだけだね」ニコッ

105: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:45:17 ID:XdhsPokT
────

綴理(そして……長い作業の果てに)

綴理「……できた」

綴理(機械のツバサが、完成した)

花帆「! ついに、ですね!」

綴理「うん。これで、空を飛べるはず……だよね、さち?」

沙知「あぁ、あたしも魔法で、キッチリとパワーを込めたからねぇ。問題なく、羽ばたけるはずさ」ニッ

綴理「それなら、早く、すずのところに行かなくちゃ……!」ガタッ

さやか「綴理先輩……そう上手くは、いかないみたいです」


ポツ…ポツ…

106: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:45:37 ID:XdhsPokT
吟子「あ……天気が……」

姫芽「雨、か~……こんなときに……」

慈「どうするの、綴理? 雨が止むまで、待ってからにする?」

綴理「……いや、むしろ、ちょうどいいかもしれない」

107: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:45:58 ID:XdhsPokT
綴理「今なら、雨上がりの空はきれいなんだって、すずに教えられる」

梢「……なるほど。そういうことね」クスッ

綴理「ん。このツバサなら、きっとどんな空だって飛べるはずだ。だって、これは、機械仕掛けの……ユメノハネ」

綴理「夢をのせた、ツバサだから」

108: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:46:21 ID:XdhsPokT
────

──蓮ノ湖


ザーザー…ザーザー…

小鈴「…………」キョロキョロ

綴理「すず」ヒョコッ

小鈴「つ、綴理先輩……!?」

綴理「よかった、来てくれて」

小鈴「あの……ど、どうして、徒町なんかをいきなり呼び出したんですか……? 徒町はもう、綴理先輩には……」

綴理「──約束、果たしにきたんだ」

小鈴「……!」

109: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:46:49 ID:XdhsPokT
綴理「ボクは、すずを元気付けたい。すずに、またスクールアイドルとしてのきらめきを見せてほしい」

小鈴「っ……でも、もう……! 徒町に、スクールアイドルをやる資格なんて……」

綴理「ううん、すずは立派なスクールアイドルだ」

綴理「……すずに、見せたいものがある。見ててほしい」

カチャッ

小鈴「! そのツバサ……!」

綴理(……感じる。機械仕掛けのツバサが、みんなの夢が、ボクを支えてくれているんだ)

綴理「……」スゥ

綴理(大丈夫。──飛べる)

110: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:47:09 ID:XdhsPokT
バサバサッ‼︎

小鈴「ぁ……!」


小鈴「…………すごい」



小鈴「すごい、すごい……!!」パァァ

111: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:47:39 ID:XdhsPokT
梢「──ふふっ、随分と楽しそうに飛んでいるわね」クスッ

さやか「あれが、綴理先輩の飛んでいる姿なんですね……なんて素敵なんでしょうか……!」

花帆「! あ、雨が……!」

ポツ…ポツ…

瑠璃乃「止んでく……すっごい偶然……いや、奇跡的なやつかな?」

姫芽「ふわぁ……これが噂の、雨が止む瞬間、なんですね~」

吟子「綺麗だね。天使のツバサと、雨が止む瞬間の空が重なり合って……」

慈「うわー、すご……これには確かに、綴理もハマっちゃう気持ち分かるね」

112: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:47:57 ID:XdhsPokT
沙知「……あぁ、まったく」ジー

沙知「…………本当に、いい景色だねぇ」ニッ

113: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:48:16 ID:XdhsPokT
────

バサバサッ

綴理「……っ、と」スタッ

綴理「すず、どうだった──」

小鈴「綴理先輩!!」ギュッ

綴理「!」

114: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:48:38 ID:XdhsPokT
小鈴「徒町、徒町……! すごく感動して、あの……!!」

綴理「すず、すず。まずは……」チラッ

さやか「──小鈴さん」

小鈴「! さ、さやか先輩!?」

さやか「……実は、小鈴さんに、伝えたいことがあるんです。聞いていただけますか?」

115: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:49:00 ID:XdhsPokT
小鈴「……か、徒町に、さやか先輩が……でも、徒町は……」

綴理「……すず。ボクは、飛べたんだ」

綴理「すずも、大丈夫だよ」ニコッ

小鈴「……!」

116: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:49:23 ID:XdhsPokT
小鈴「……わかりました。……そもそも徒町も、さやか先輩に言わなきゃいけなかったんです」

小鈴「ごめんなさい、さやか先輩……! 先輩の夢を、徒町のせいで壊してしまって……」

さやか「小鈴さん。それは違いますよ。わたしの夢は、壊れてなんていません」

小鈴「……え?」

さやか「ふふっ、むしろわたしの夢は、一回り大きくなってしまいました。それを、伝えたくて」

さやか「──小鈴さん。次は、あなたの番ですよ」

117: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:49:44 ID:XdhsPokT
さやか「わたしが叶えられなかった夢を……小鈴さんに、託します」

さやか「小鈴さんが、ラブライブ!優勝を果たす姿をこの目で見たい……いえ」

さやか「わたしは、小鈴さんが、小鈴さんのために“飛ぶ”姿を見たい!」

小鈴「!」

さやか「……これが、わたしの新しい夢ですので」クスッ

小鈴「さやか先輩……」

118: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:50:06 ID:XdhsPokT
小鈴「……そう、ですね」

小鈴「徒町、今、覚悟を決めました!」

小鈴「徒町、来年のラブライブ!は絶対に優勝します! だから……さやか先輩、綴理先輩!」

小鈴「徒町を……徒町のことを、見ていてください!」

119: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:50:28 ID:XdhsPokT
さやか「ふふっ、もちろんですよ、小鈴さん。わたしは、あなたと同じ夢を見ているんですから」クスッ

綴理「ボクも、すずはボクの恩人だから。絶対に見逃さないよ」ニコッ

小鈴「え、恩人だなんてそんな、むしろ徒町にとっては綴理先輩のほうこそ……」

綴理「ううん、すずがいたから、人間はツバサがないからこそ、“飛びたい”と夢が見れるって、知ることができた」

綴理「おかげで……ボクにも、“夢”ができたんだ」

120: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:50:47 ID:XdhsPokT
小鈴「夢……ですか?」

綴理「うん。ボクは、人間と天使を繋げるような、そんな天使になりたいんだ」

綴理(みんなで一緒に作業をして、あんな光景をもっと見たくなった)

さやか「素敵な夢ですね。応援しますよ」ニコッ

綴理「ん、ボク頑張る」グッ

121: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:51:08 ID:XdhsPokT
沙知「──さて、いい雰囲気の中悪いが……そろそろ幕引きの時間だねぇ」

綴理「……そっか。さすがに帰らなくちゃだもんね」

花帆「え、そんなぁ!? もっと長くいてもいいんですよ!?」

梢「名残惜しいけれど……いつまでも滞在していても、仕方がないものだから」

瑠璃乃「そっか、帰っちゃうのかぁ……せっかくこんなに交流できたのになぁ……」

慈「まぁまぁ! 今世の別れ、ってわけでもないんだし!」

122: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:51:32 ID:XdhsPokT
綴理「それじゃあ、さよならだね」

カチャッ

小鈴「……綴理先輩!」

小鈴「──ありがとう、ございました!」ニコッ


綴理「……ん、こちらこそ。またね、すず──」

バサバサッ‼︎

123: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:51:54 ID:XdhsPokT
────

バサッバサッ

綴理「~♪」

沙知「なんだか楽しそうだねぇ、綴理」

124: 名無しで叶える物語◆XdhsPokT★ 2024/10/05(土) 19:52:18 ID:XdhsPokT
綴理「ん。ボクは、嬉しいんだ。だって……」

綴理(みんながくれた、ユメノハネが……ボクをまた、自由な空に連れていってくれている)

綴理(次にみんなに会うときは、もっとすごい天使になれていたら……そんな夢も、叶うといいな)フフッ


おしまい

125: 名無しで叶える物語◆019MwQ4P★ 2024/10/05(土) 20:11:27 ID:019MwQ4P
乙でした、こういう蓮ノ空もいいですね!

引用元:https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11188/1728032400/
you fooder
いい話だなあ・・・!